成人気管支拡張症に対する吸入抗生物質の有効性と安全性(メタ解析; Chest. 2024)

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気管支拡張症に対する吸入抗生物質の効果は?

気管支拡張症患者の治療において、吸入抗生物質は国際的な気管支拡張症ガイドラインで条件付きで推奨されていますが、個々の研究の結果は一貫していません。

以前のメタ解析では、気管支拡張症における吸入抗生物質の有効性と安全性に関して有望な結果が示されました。その後の発表により、この分野における既存のエビデンスがさらに補足されました。

そこで今回は、成人の気管支拡張症に対する治療選択肢として、吸入抗生物質がどの程度有効性と安全性を有しているか検証したメタ解析の結果をご紹介します。

成人気管支拡張症患者における吸入抗生物質のランダム化比較試験の系統的レビューとメタ解析であり、MEDLINE、Embase、Cochrane Central Register of Controlled Trials、Web of Science、ClinicalTrials.govが検索され、適格な研究が検索されました。CT画像により診断された成人の気管支拡張症患者が登録され、治療期間が4週間以上である研究が対象となりました。

本研究の主要エンドポイントは増悪頻度であり、主要有効性エンドポイントにはさらに重症増悪、細菌量、症状、QOL、FEV1が含まれました。データはランダム効果メタ解析によりプールされました。

試験結果から明らかになったことは?

3,468人の患者を含む20件の研究が対象となりました。

リスク比、率比、ハザード比、平均差
(95%CI)
増悪患者数リスク比 0.85(0.75〜0.96
増悪頻度率比 0.78(0.68〜0.91
重度増悪の頻度率比 0.48(0.31〜0.74
初回増悪までの期間ハザード比 0.80(0.68〜0.94
QOL質問票-気管支拡張症の呼吸器症状スコア平均差 2.51(0.44〜4.31
St.George呼吸器質問票スコア平均差 -3.13(-5.93 〜 -0.32

吸入抗生物質は、増悪患者数の減少(リスク比 0.85、95%CI 0.75〜0.96)、増悪頻度のわずかな減少(率比 [rate ratio, RR] 0.78、95%CI 0.68〜0.91)、重度増悪の頻度が減少する可能性(RR 0.48、95%CI 0.31〜0.74)、初回増悪までの期間のわずかな延長(ハザード比 0.80、95%CI 0.68〜0.94)でした。

吸入抗生物質は、QOL質問票-気管支拡張症の呼吸器症状スコアをわずかに増加させ(平均差 2.51、95%CI 0.44〜4.31)、St.George呼吸器質問票のスコアを低下させる可能性が示されました(平均差 -3.13、95%CI -5.93 〜 -0.32)。

細菌量は一貫して減少していましたが、FEV1は治療により変化しませんでした。

エビデンスによると、有害作用はプラセボとの群間比較でほとんど差がありませんでした(OR 0.99、95%CI 0.75~1.30)。一方、抗生物質耐性菌は治療により増加した可能性が高いことが示されました。

コメント

気管支拡張症の治療は限られており、主に抗菌薬(抗生物質:ペニシリン系セフェム系マクロライド系フルオロキノロン系)が用いられます。根治療法ではないため、長期間使用することになります。抗菌薬の剤形には経口、点滴静注、吸入がありますが、患者負担や治療コストの観点から基本的には経口薬が選択されます。しかし、経口薬は全身性の副作用の懸念があることから、局所作用により副作用の軽減が見込める吸入薬が選択されることがあります。

さて、系統的レビューおよびメタ解析において、吸入抗生物質は、成人気管支拡張症患者において、増悪をわずかに減少させ、重篤な増悪をおそらく減少させ、症状およびQOLをおそらくわずかに改善させることが示されました。組み入れられた研究数は10件以上ですが、患者数は3,468人と限られています。また、介入グループには、吸入によって投与されるあらゆるクラスの抗生物質が含まれていましたが、どの抗生物質がより有効か、他の剤形との比較については行われていません。対照群は、吸入プラセボ(例: 生理食塩水)を受ける患者、または治療を受けない患者であったことから、少なくともプラセボや無治療と比較して、抗生物質の吸入は優れていそうです。

現時点(2024年7月)で、日本において承認されている吸入抗生物質は、トブラマイシン(アミノグリコシド系、商品名:トービイ)、アミカシン硫酸塩(アミノグリコシド系、商品名:アリケイス)です。本解析に含まれた抗生物質とは異なることから、結果を外挿することは難しそうです。

続報に期待。

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✅まとめ✅ 系統的レビューおよびメタ解析において、吸入抗生物質は、成人気管支拡張症患者において、増悪をわずかに減少させ、重篤な増悪をおそらく減少させ、症状およびQOLをおそらくわずかに改善させた。

根拠となった試験の抄録

背景:気管支拡張症患者の治療において、吸入抗生物質は国際的な気管支拡張症ガイドラインで条件付きで推奨されているが、個々の研究の結果は一貫していない。以前のメタ解析では、気管支拡張症における吸入抗生物質の有効性と安全性に関して有望な結果が示された。その後の発表により、この分野における既存のエビデンスがさらに補足された。

研究課題:吸入抗生物質は、成人の気管支拡張症に対する治療選択肢として、どの程度有効性と安全性の両方を示しているか?

研究デザインと方法:成人気管支拡張症患者における吸入抗生物質のランダム化比較試験の系統的レビューとメタ解析。MEDLINE、Embase、Cochrane Central Register of Controlled Trials、Web of Science、ClinicalTrials.govを検索し、適格な研究を探した。CT画像により診断された成人の気管支拡張症患者を登録し、治療期間が4週間以上である研究を対象とした。
主要エンドポイントは増悪頻度であり、主要有効性エンドポイントにはさらに重症増悪、細菌量、症状、QOL、FEV1が含まれた。データはランダム効果メタ解析によりプールされた。

結果:3,468人の患者を含む20件の研究が対象となった。吸入抗生物質は、増悪患者数の減少(リスク比 0.85、95%CI 0.75〜0.96)、増悪頻度のわずかな減少(率比 [rate ratio, RR] 0.78、95%CI 0.68〜0.91)、重度増悪の頻度が減少する可能性(RR 0.48、95%CI 0.31〜0.74)、初回増悪までの期間のわずかな増加(ハザード比 0.80、95%CI 0.68〜0.94)であった。吸入抗生物質は、QOL質問票-気管支拡張症の呼吸器症状スコアをわずかに増加させ(平均差 2.51、95%CI 0.44〜4.31)、St.George呼吸器質問票のスコアを低下させる可能性がある(平均差 -3.13、95%CI -5.93 〜 -0.32)。細菌量は一貫して減少したが、FEV1は治療により変化しなかった。エビデンスによると、有害作用はプラセボとの群間比較でほとんど差がなかった(OR 0.99、95%CI 0.75~1.30)。抗生物質耐性菌は治療により増加した可能性が高い。

解釈:この系統的レビューおよびメタアナリシスにおいて、吸入抗生物質は、成人気管支拡張症患者において、増悪をわずかに減少させ、重篤な増悪をおそらく減少させ、症状およびQOLをおそらくわずかに改善させた。

試験登録:International Prospective Register of Systematic Reviews; 番号:CRD42023384694; URL:https://www.crd.york.ac.uk/prospero/.

キーワード:抗生物質、気管支拡張症、吸入、メタアナリシス、治療薬

引用文献

The Efficacy and Safety of Inhaled Antibiotics for the Treatment of Bronchiectasis in Adults: Updated Systematic Review and Meta-Analysis

Ricardo Cordeiro et al. PMID: 38309462 PMCID: PMC11251083 DOI: 10.1016/j.chest.2024.01.045
Chest. 2024 Jul;166(1):61-80. doi: 10.1016/j.chest.2024.01.045. Epub 2024 Feb 2.
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