スタチン治療へのEPA追加効果はどのくらいか?
血漿中のエイコサペンタエン酸(EPA, イコサペント酸エチル)濃度が低いことは心血管イベントと関連していますが、イコサペント酸エチルの補充により心血管イベントのリスクが低減するか否かについて充分に検証されていません。
そこで今回は、冠動脈疾患を有し、EPA/アラキドン酸(AA)比が低く、スタチン治療を受けている患者におけるイコサペント酸エチルの臨床的有用性を評価することを目的に実施されたランダム化比較試験(RESPECT-EPA試験)の結果をご紹介します。
この前向き多施設共同ランダム化非盲検エンドポイント試験では、安定冠動脈疾患でEPA/AA比が低い(<0.4)患者がEPA群(イコサペント酸エチル 1,800mgを1日1回投与)と対照群にランダムに割り付けられました。
本試験の主要エンドポイントは心血管死、非致死的心筋梗塞、非致死的虚血性脳卒中、不安定狭心症、冠動脈血行再建術の複合エンドポイントでした。冠動脈イベントの副次的複合エンドポイントは、心臓突然死、致死的および非致死的心筋梗塞、緊急入院と冠動脈血行再建術を必要とする不安定狭心症、冠動脈血行再建術でした。
試験結果から明らかになったことは?
日本の95施設で3,884例が登録されました。そのうち2,506例がEPA/AA比が低く、1,249例がEPA群に、1257例が対照群にランダムに割り付けられました。EPA/AA比の中央値は、EPA群で0.243(四分位範囲 0.180〜0.314)、対照群で0.235(四分位範囲 0.163〜0.310)でした。
EPA群 | 対照群 | ハザード比 (95%CI) | |
一次エンドポイント (心血管死、非致死的心筋梗塞、 非致死的虚血性脳卒中、不安定狭心症、冠動脈血行再建術の複合) | 1,225例中112例 (9.1%) | 1,235例中155例 (12.6%) | ハザード比 0.79 (0.62〜1.00) P=0.055 |
冠動脈イベント | 81/1,225例 (6.6%) | 120/1,235例 (9.7%) | ハザード比 0.73 (0.55〜0.97) |
中央値5年間で、一次エンドポイントはEPA群および対照群でそれぞれ1,225例中112例(9.1%)および1,235例中155例(12.6%)に発生し増した(ハザード比 0.79、95%CI 0.62〜1.00;P=0.055)。一方、副次的複合エンドポイントである冠動脈イベントは、EPA群で有意に低いことが示されました(81/1,225例[6.6%] vs. 120/1,235例[9.7%];ハザード比 0.73、95%CI 0.55〜0.97)。
有害事象は両群間に差はありませんでしたが、心房細動の新規発症率はEPA群で有意に高いことが示されました(3.1% vs. 1.6%;P=0.017)。
コメント
スタチン治療中のEPA/AA比が低い安定冠動脈疾患(安定狭心症)患者におけるイコサペント酸エチル補充療法の効果は不明です。
さて、ランダム化比較試験の結果、スタチン治療中の安定冠動脈疾患でEPA/AA比が低い患者において、1日1,800mgのイコサペント酸エチルの投与は、心血管イベントの発生リスクを低減できませんでした。
本試験は、中央値5年間の追跡期間、規模も比較的大きい試験です。PROBE法が採用されていますが、代用のアウトカムである不安定狭心症、冠動脈血行再建術が設定されていることから結果の解釈に注意を要します。
冠動脈イベントや心房細動の発生リスクを低減できる可能性はあるものの、あくまでも傾向が示されたに過ぎず、現時点においては、積極的にEPA補充療法を推奨できるほどの結果ではありません。
続報に期待。
✅まとめ✅ ランダム化比較試験の結果、スタチン治療中の安定冠動脈疾患でEPA/AA比が低い患者において、1日1,800mgのイコサペント酸エチルの投与は、心血管イベントの発生リスクを低減できなかった。
根拠となった試験の抄録
背景:血漿中のエイコサペンタエン酸(EPA, イコサペント酸エチル)濃度が低いことは心血管イベントと関連している。本臨床試験は、冠動脈疾患を有し、EPA/アラキドン酸(AA)比が低く、スタチン治療を受けている患者におけるイコサペント酸エチルの臨床的有用性を評価することを目的とした。
方法:この前向き多施設共同ランダム化非盲検エンドポイント試験では、安定冠動脈疾患でEPA/AA比が低い(<0.4)患者をEPA群(イコサペント酸エチル 1,800mgを1日1回投与)と対照群にランダムに割り付けた。
主要エンドポイントは心血管死、非致死的心筋梗塞、非致死的虚血性脳卒中、不安定狭心症、冠動脈血行再建術の複合エンドポイントとした。冠動脈イベントの副次的複合エンドポイントは、心臓突然死、致死的および非致死的心筋梗塞、緊急入院と冠動脈血行再建術を必要とする不安定狭心症、冠動脈血行再建術であった。
結果:日本の95施設で3,884例が登録された。そのうち2,506例がEPA/AA比が低く、1,249例がEPA群に、1257例が対照群にランダムに割り付けられた。EPA/AA比の中央値は、EPA群で0.243(四分位範囲 0.180〜0.314)、対照群で0.235(四分位範囲 0.163〜0.310)であった。中央値5年間で、一次エンドポイントはEPA群および対照群でそれぞれ1,225例中112例(9.1%)および1,235例中155例(12.6%)に発生した(ハザード比 0.79、95%CI 0.62〜1.00;P=0.055)。一方、副次的複合エンドポイントである冠動脈イベントは、EPA群で有意に低かった(81/1,225例[6.6%] vs. 120/1,235例[9.7%];ハザード比 0.73、95%CI 0.55〜0.97)。有害事象は両群間に差はなかったが、心房細動の新規発症率はEPA群で有意に高かった(3.1% vs. 1.6%;P=0.017)。
結論:イコサペント酸エチル投与により、慢性冠動脈疾患、低EPA/AA比、スタチン治療を受けている患者において、統計学的有意差には達しなかったが、心血管イベントのリスクが数値的に低下した。
試験登録:URL_https://www.umin.ac.jp/ctr/; 固有識別子_UMIN000012069
キーワード:冠動脈疾患、エイコサペンタエン酸、アウトカム評価、医療
引用文献
Randomized Trial for Evaluation in Secondary Prevention Efficacy of Combination Therapy-Statin and Eicosapentaenoic Acid (RESPECT-EPA)
Katsumi Miyauchi et al. PMID: 38873793 DOI: 10.1161/CIRCULATIONAHA.123.065520
Circulation. 2024 Jun 14. doi: 10.1161/CIRCULATIONAHA.123.065520. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38873793/
コメント