医療従事者が新型コロナウイルスに感染しやすい行為とは?
病院の医療従事者(HCW)はSARS-CoV-2に感染するリスクが高いことは明らかです。これは新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者と空間的・物理的に接触する頻度が高いためですが、その一方で、特定の行動的・身体的特徴(鼻をほじる、眼鏡をかけるなど)が感染リスクと関連しているかどうかについては明らかとなっていません。
そこで今回は、HCWを対象に、鼻をほじること、関連する行動的・身体的特徴(爪をかむこと、眼鏡をかけること、ひげを生やすこと)とSARS-CoV-2感染の発生率との関連を評価したコホート研究の結果をご紹介します。
オランダの2つの大学医療センターで404例のHCWを対象とした本コホート研究において、パンデミックの第1期にSARS-CoV-2特異的抗体が前向きに測定されました。本研究のために、HCWは行動的特徴(鼻をほじるなど)と身体的特徴に関する追加的なレトロスペクティブ調査を受けました。
試験結果から明らかになったことは?
合計219例の病院の医療従事者が調査に回答し(回答率52%)、2020年3月から2020年10月までの追跡期間中に34/219例(15.5%)がSARS-CoV-2血清陽性となりました。病院の医療従事者の大多数(185/219例、84.5%)が、少なくとも偶発的に鼻をほじると回答し、頻度は月1回、週1回、毎日とさまざまでした。
SARS-CoV-2発症リスク | 調整オッズ比(95%CI) |
鼻をほじる | 3.80(1.05 〜 24.52) |
爪かみ | 0.97(0.41 〜 2.18) |
眼鏡の着用 | 0.49(0.23 〜 1.06) |
ひげの有無 | 1.06(0.13 〜 6.80) |
SARS-CoV-2発症率は、鼻をほじらない病院の医療従事者と比較して鼻をほじる病院の医療従事者で高かいことが示されました(32/185例:17.3% vs. 2/34例:5.9%、OR 3.80、95%CI 1.05~24.52)。
一方、爪かみや眼鏡の着用、ひげの有無については、SARS-CoV-2感染リスク上昇との関連性は認められませんでした。
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医療施設では、フェイスマスク、ガウン、ゴーグル/フェイスシールド、手袋、厳格な手指衛生プロトコルの使用を含む、患者ケアに直接従事する人々のための個人防護具(PPE)の使用がガイドラインで推奨されています。しかし、依然として医療従事者はSARS-CoV2感染症に罹患する可能性が高く、その危険因子として不充分な手指衛生やPPEの使用が含まれます。主な感染経路は呼吸器粘膜経由ですが、鼻をほじったり爪を噛んだりする習慣的な手と粘膜の接触がSARS-CoV-2の伝播に影響するかどうかは不明です。
さて、病院の医療従事者を対象としたコホート研究の結果によれば、鼻をほじる行為は、鼻をほじらない場合と比較して、SARS-CoV-2感染のリスク上昇と関連しているかもしれないことが示されました。
ただし、本試験は後向きにアンケート/ヒアリングを実施していることから、想起(思い出し)バイアスなどの要因を排除できません。また、医療従事者が実臨床において鼻をほじったり爪を噛んだりしているかどうかについては主観的な評価であるため不明です(休憩中やトイレで実施している可能性など)。さらに本試験は、オミクロン流行期やワクチン接種以前に実施された研究結果であるため、ウイルス特異的伝播動態や宿主免疫の違いなどのウイルス特性の変化による実臨床への影響を受ける可能性が高いと考えられます。
とはいえ、鼻粘膜からのSARS-CoV-2感染が起こることから、手指衛生の管理など適切な感染予防対策の実施が求められることに変わりはありません。
どうしても鼻をほじりたい場合は、前後に手をよく洗いティッシュを使用しましょう。
✅まとめ✅ 病院の医療従事者において、鼻をほじる行為は、鼻をほじらない場合と比較して、SARS-CoV-2感染のリスク上昇と関連しているかもしれない。
根拠となった試験の抄録
背景:病院の医療従事者(HCW)はSARS-CoV-2に感染するリスクが高い。われわれは、特定の行動的・身体的特徴(鼻をほじる、眼鏡をかけるなど)が感染リスクと関連しているかどうかを調査した。
目的:鼻をほじること、関連する行動的・身体的特徴(爪をかむこと、眼鏡をかけること、ひげを生やすこと)とSARS-CoV-2感染の発生率との関連を評価すること。
方法:オランダの2つの大学医療センターで404例のHCWを対象としたコホート研究において、パンデミックの第1期にSARS-CoV-2特異的抗体を前向きに測定した。この研究のために、HCWは行動的特徴(鼻をほじるなど)と身体的特徴に関する追加的なレトロスペクティブ調査を受けた。
結果:合計219例の病院の医療従事者が調査に回答し(回答率52%)、2020年3月から2020年10月までの追跡期間中に34/219例(15.5%)がSARS-CoV-2血清陽性となった。病院の医療従事者の大多数(185/219例、84.5%)が、少なくとも偶発的に鼻をほじると回答し、頻度は月1回、週1回、毎日とさまざまであった。SARS-CoV-2発症率は、鼻をほじらない病院の医療従事者と比較して鼻をほじる病院の医療従事者で高かった(32/185例:17.3% vs. 2/34例:5.9%、OR 3.80、95%CI 1.05~24.52)。爪かみ、眼鏡の着用、ひげの有無とSARS-CoV-2感染との関連は認められなかった。
結論:病院の医療従事者において、鼻をほじる行為は、SARS-CoV-2感染のリスク上昇と関連している。したがって、医療施設に対して、教育セッションや感染予防ガイドラインにおける鼻をほじらない行為の推奨など、より多くの啓発を行うことをお勧めする。
引用文献
Why not to pick your nose: Association between nose picking and SARS-CoV-2 incidence, a cohort study in hospital health care workers
A H Ayesha Lavell et al. PMID: 37531335 PMCID: PMC10395815 DOI: 10.1371/journal.pone.0288352
PLoS One. 2023 Aug 2;18(8):e0288352. doi: 10.1371/journal.pone.0288352. eCollection 2023.
— 読み進める https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37531335/
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