DOACの使用は早い方が良いのか?
脳卒中の発生予防のために抗凝固療法が実施されますが、実施タイミングの比較に関するエビデンスは充分ではありません。
そこで今回は、急性虚血性脳卒中を発症した心房細動患者における直接経口抗凝固薬(DOAC)の投与開始時期が早い場合と遅い場合の効果について比較検討した非盲検ランダム化比較試験(ELAN試験)の結果をご紹介します。
本試験は、15ヵ国103施設で行われた医師主導の臨床試験であり、参加者は早期抗凝固療法(軽度〜中等度の脳卒中後48時間以内、重症の脳卒中後6あるいは7日目)と後期抗凝固療法(軽度脳卒中後3あるいは4日目、中等度の脳卒中後6あるいは7日目、重症の脳卒中後12、13あるいは14日目)へ1対1の割合でランダムに割り付けられました。評価者は、試験群の割り当てについて盲検化されていました。
本試験の主要アウトカムは、ランダム化後30日以内の虚血性脳卒中再発、全身性塞栓症、頭蓋外大出血、症候性頭蓋内出血、血管死の複合でした。副次的アウトカムは、30日および90日後の複合主要アウトカムの構成要素でした。
試験結果から明らかになったことは?
2,013例の参加者(37%が軽度の脳卒中、40%が中等度の脳卒中、23%が重症の脳卒中)のうち、1,006例が早期抗凝固療法に、1,007例が後期抗凝固療法に割り付けられました。
早期治療群 (1,006例) | 後期治療群 (1,007例) | リスク差 あるいは オッズ比 | |
ランダム化後30日以内の主要アウトカム (虚血性脳卒中再発、全身性塞栓症、頭蓋外大出血、症候性頭蓋内出血、血管死の複合) | 29例(2.9%) | 41例(4.1%) | リスク差 -1.18% (95%CI -2.84~0.47) オッズ比 0.70 (95%CI 0.44〜1.14) |
ランダム化後90日以内の主要アウトカム | 3.7% | 5.6% | オッズ比 0.65 (95%CI 0.42〜0.99) |
ランダム化後30日以内の虚血性脳卒中の再発 | 14例(1.4%) | 25例(2.5%) | オッズ比 0.57 (95%CI 0.29〜1.07) |
ランダム化後90日以内の虚血性脳卒中の再発 | 18例(1.9%) | 30例(3.1%) | オッズ比 0.60 (95%CI 0.33~1.06) |
ランダム化後30日以内の全身性塞栓症 | 0.4% | 0.9% | オッズ比 0.48 (95%CI 0.14〜1.42) |
ランダム化後30日以内の頭蓋外大出血 | 2例(0.2%) | 2例(0.2%) | OR 0.63 (95%CI 0.15〜2.38) |
ランダム化後30日以内の症候性頭蓋内出血 | 2例(0.2%) | 2例(0.2%) | – |
ランダム化後30日以内のModified Rankin scaleスコア≦2 | 62.6% | 62.6% | オッズ比 0.93 (95%CI 0.79〜1.09) |
30日までに早期治療群29例(2.9%)、後期治療群41例(4.1%)に主要アウトカム事象が発生しました(リスク差 -1.18%ポイント、95%信頼区間[CI] -2.84~0.47)。虚血性脳卒中の再発は、30日までに早期治療群14例(1.4%)、後期治療群25例(2.5%)(オッズ比 0.57、95%CI 0.29〜1.07)、90日までにそれぞれ18例(1.9%)、30例(3.1%)に認められました(オッズ比 0.60、95%CI 0.33~1.06)。症候性頭蓋内出血は、30日までに両群とも2例(0.2%)に発生しました。
コメント
急性虚血性脳卒中を発症した心房細動患者における直接経口抗凝固薬(DOAC)の投与開始時期が早い場合と遅い場合の効果比較については充分ではありません。
さて、PROBE法を用いた試験の結果、ランダム化後30日以内の虚血性脳卒中再発、全身性塞栓症、頭蓋外大出血、症候性頭蓋内出血、血管死の複合は、DOACによる治療がは早く行った方が遅く行った場合より発生率が低い傾向が示されました。90日以内においては、治療タイミングが早い方が発生率は低いことが示されました。アウトカム発生の内訳としては、虚血性脳卒中の再発が多く報告されました。
これまでの報告も踏まえると、DOACなどによる抗凝固療法は、急性虚血性脳卒中の発生から早期に行っても追加の益は少ないのかもしれません。とはいえ、リスクは減少傾向であり90日目までの発生も低いことから、サンプルサイズが少なかった可能性があります。
続報に期待。
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