ピーナッツアレルギー患者に対する表皮免疫療法の効果は?
幼児、小児の食物アレルギーの原因として、卵、牛乳、小麦、ピーナッツなどが挙げられます。米国ではピーナッツバターの使用量が多く、ピーナッツ(落花生)は関心の高いアレルゲンの一つです。日本においてもピーナッツアレルギー患者は少なくなく、2021年の報告におけるアレルギー初発例3,905例の解析結果における落花生を原因とするアレルギー患者数は1・2歳群で4位(9.3%)、3〜6歳群で3位(12.5%)であることが示されています。
4歳未満の幼児に対するピーナッツアレルギーの治療法は承認されておらず、ピーナッツアレルギーの幼児に対するピーナッツパッチによる経皮免疫療法(epicutaneous immunotherapy)の有効性と安全性は不明です。
そこで今回は、二重盲検プラセボ対照フードチャレンジによりピーナッツアレルギーが確認された幼児1~3歳を対象に、経皮免疫療法の有効性・安全性を検証した第3相多施設共同二重盲検ランダム化プラセボ対照試験の結果をご紹介します。
本試験では、ピーナッツタンパク質の誘発量(アレルギー反応を引き起こすのに必要な量)が300mg以下の患者を、ピーナッツパッチによる経皮免疫療法を受ける群(介入群)とプラセボを12ヵ月間毎日投与する群に2:1の割合で割り付けました。
本試験の主要評価項目は、12ヵ月後のピーナッツタンパク質の誘発量によって測定される治療反応でした。安全性は、ピーナッツパッチまたはプラセボ使用中の有害事象の発生状況により評価されました。
試験結果から明らかになったことは?
介入群 | プラセボ群 | リスク差 | |
12ヵ月後の治療反応 | 67.0% | 33.5% | 33.4%ポイント (95%信頼区間 22.4~44.5) P<0.001 |
ランダム化を受けた患者362例のうち、84.8%が試験を完了しました。主要評価項目は、介入群では67.0%、プラセボ群では33.5%で観察されました(リスク差 33.4%ポイント、95%信頼区間 22.4~44.5、P<0.001)。
介入群 | プラセボ群 | |
有害事象 | 100% | 99.2% |
重篤な有害事象 | 8.6% | 2.5% |
治療関連の重篤な有害事象 | 0.4% | 0% |
アナフィラキシー | 7.8% | 3.4% |
治療関連のアナフィラキシー | 1.6% | 0% |
介入またはプラセボの使用中に発生した有害事象は、治療関連性によらず、介入群では100%、プラセボ群では99.2%で観察されました。
重篤な有害事象は介入群では8.6%、プラセボ群では2.5%に発生し、アナフィラキシーはそれぞれ7.8%と3.4%に発生しました。
治療関連の重篤な有害事象は、介入群では0.4%に発生し、プラセボ群では皆無でした。治療関連のアナフィラキシーは、介入群で1.6%に発生し、プラセボ群では皆無であった。
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ピーナッツアレルゲンとしてAra h1、Ara h2、Ara h3、Ara h6などが報告されています。これらはアレルギー反応を引き起こす可能性が最も高いアレルゲンとされています。特にAra h3タンパク質は熱(加熱)に対する安定性が高く、ピーナッツにおけるタンパク質のかなりの部分を占めています(PMID: 29680589)。本法ではこの他、Ara h1およびAra h2が特に重要な主要アレルゲンとして知られています(平成29年度研究分担報告書)。
アレルギーの脱感作療法として経口免疫療法が用いられてきましたが、2019年に報告されたメタ解析(PACE試験)の結果、アレルゲン回避やプラセボと比較してアレルギー反応やアナフィラキシー反応を大幅に増加させることが明らかとなりました。したがって、より安全性の高い免疫療法が求められています。
皮下(表皮)免疫療法は、より安全性の高い減感作療法として提案されますが、有効性・安全性の検証は充分に行われていません。
さて、ピーナッツアレルギーの幼児1~3歳を対象とした二重盲検ランダム化比較試験において、12ヵ月間の表皮免疫療法は、小児のピーナッツに対する脱感作およびアレルギー症状を誘発するピーナッツの投与量の増加においてプラセボより優れていることが示されました。
ただし、アナフィラキシーや治療関連の重篤な有害事象の発生はプラセボより多いことから、治療に際して即時性アレルギー反応に対する観察を慎重に行う必要があると考えます。また、本試験は12ヵ月までの検証結果であることから、より長期間の治療効果・安全性の検証が求められます。
続報に期待。
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