OPCAB後のアスピリンベースDAPTにはクロピドグレルとチカグレロル、どちらが優れているのか?
心拍動下冠動脈バイパス術後の血栓・塞栓予防として二重抗血小板療法が行われます。有効性・安全性の面からアスピリン+クロピドグレルが用いられていますが、クロピドグレル抵抗性を有する患者における治療戦略についてはエビデンスが限られています。
そこで今回は、心拍動下冠動脈バイパス術(off-pump coronary artery bypass, OPCAB)後に、アスピリンベースのDAPTとして、チカグレロルあるいはクロピドグレルを併用した場合の治療成績を比較検討したランダム化比較試験の結果をご紹介します。
本試験では2014年11月から2020年11月の間に、1,739例の患者がOPCABを受けました。アスピリンとクロピドグレルの投与は術後翌日から開始されました。術後7~9日目に、ポイントオブケアアッセイを使用してクロピドグレル耐性が評価されました。278例(18.9%)の患者がクロピドグレル抵抗性(血小板反応単位>208)を有し、試験に登録されました。治験責任医師は、アスピリンに対して共抵抗性を有する患者(n=74)を除外し、残りの患者(平均年齢 67.4±8.5歳)を2群(アスピリンとチカグレロル群[AT群、n=102]とアスピリンとクロピドグレル群[AC群、n=102])に分け、1:1比率ブロック表を用いてランダムに割り付けを行いました。
本試験の主要評価項目はグラフト開存率と主要有害心血管イベント(MACE;OPCAB後1年間の心血管死、心筋梗塞、再血行再建術の複合と定義)、副次的評価項目はグラフト開存率でした。データはintent-to-treat法を用いて解析されました。
試験結果から明らかになったことは?
アスピリン-チカグレロル群 (AT群) | アスピリン-クロピドグレル群 (AC群) | P値、ハザード比 HRなど | |
グラフト閉塞率 | 3.9% | 5.9% | P=0.52 |
心血管系の原因による死亡 | 1.0% | 2.9% | P=0.32 |
心筋梗塞 | 1.0% | 3.9% | P=0.18 |
大出血 | – | – | P=0.75 |
MACE | – | – | HR 0.77 (95%CI 0.684~0.891) P=0.01 |
AT群とAC群におけるグラフト閉塞率はそれぞれ3.9%と5.9%でした(P=0.52)。心血管系の原因による死亡(1.0% vs. 2.9%;P=0.32)および心筋梗塞はいずれも有意差を認めませんでした(1.0% vs. 3.9%;P=0.18)。また、大出血の発生率においても2群間で有意差は認められませんでした(P=0.75)。しかし、AT群はOPCAB後のMACE発生率が低いことが示されました(ハザード比 0.77、95%CI 0.684~0.891;P=0.01)。
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術後のDAPTとしてアスピリン+クロピドグレルが用いられますが、代謝酵素であるCYPの多型により、クロピドグレルの有効性が低下する患者集団が報告されていることから、治療戦略の確立のためのエビデンス創出が求められます。
さて、本試験結果によれば、心拍動下冠動脈バイパス術(OPCAB)後のクロピドグレル抵抗性患者におけるチカグレロルは、クロピドグレルと比較してMACEを減少させる可能性があることが示唆されました。グラフト閉塞率、心血管系の原因による死亡、そして心筋梗塞による死亡については統計学的な有意差はないものの、チカグレロル群でリスク減少傾向でした。
クロピドグレル抵抗性患者数およびコスト面を踏まえると、チカグレロルを優先して使用する意義は高くないと考えられます。まずはクロピドグレルを使用し、有効性が低いと特定された場合にはチカグレロルが治療選択肢の一つになり得ると考えられます。
続報に期待。
☑まとめ☑ 心拍動下冠動脈バイパス術(OPCAB)後のクロピドグレル抵抗性患者におけるチカグレロルは、クロピドグレルと比較してMACEを減少させる可能性があることが示唆された。
根拠となった試験の抄録
背景:本研究では、クロピドグレル抵抗性を有する患者において、off-pump冠動脈バイパス術(off-pump coronary artery bypass, OPCAB)後に、アスピリンとチカグレロルまたはクロピドグレルを併用した場合の治療成績を比較検討することを目的とした。
方法:2014年11月から2020年11月の間に、1,739例の患者がOPCABを受けた。アスピリンとクロピドグレルの投与は術後翌日から開始した。術後7~9日目に、ポイントオブケアアッセイを使用してクロピドグレル耐性を評価した。278例(18.9%)の患者がクロピドグレル抵抗性(血小板反応単位>208)を有し、試験に登録された。治験責任医師は、アスピリンに対して共抵抗性を有する患者(n=74)を除外し、残りの患者(平均年齢 67.4±8.5歳)を2群(アスピリンとチカグレロル群[AT群、n=102]とアスピリンとクロピドグレル群[AC群、n=102])に分け、1:1比率ブロック表を用いてランダムに割り付けを行った。
主要評価項目はグラフト開存率と主要有害心血管イベント(MACE;OPCAB後1年間の心血管死、心筋梗塞、再血行再建術の複合と定義)、副次的評価項目はグラフト開存率であった。データはintent-to-treat法を用いて解析した。
結果:AT群とAC群におけるグラフト閉塞率はそれぞれ3.9%と5.9%であった(P=0.52)。心血管系の原因による死亡(1.0% vs. 2.9%;P=0.32)および心筋梗塞はいずれも有意差を認めなかった(1.0% vs. 3.9%;P=0.18)。大出血の発生率には2群間で有意差は認められなかった(P=0.75)。しかし、AT群はOPCAB後のMACE発生率が低かった(ハザード比 0.77、95%CI 0.684~0.891;P=0.01)。
結論:これらの結果から、チカグレロルはOPCAB後のクロピドグレル抵抗性患者におけるMACEを減少させる可能性があることが示唆された。
引用文献
A Randomized Trial of Clopidogrel vs Ticagrelor After Off-Pump Coronary Bypass
Hyo-Hyun Kim et al. PMID: 36395875 DOI: 10.1016/j.athoracsur.2022.10.040
Ann Thorac Surg. 2022 Nov 14;S0003-4975(22)01427-8. doi: 10.1016/j.athoracsur.2022.10.040. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36395875/
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