DOACの適応外用量の影響はどのくらいなのか?
非ビタミンK拮抗薬経口抗凝固薬(NOAC)は検査指標が確立していないことから、患者背景により過小用量あるいは過剰投与で投与されることがあります。しかし、この過小用量における患者予後への影響については充分に検討されていません。また、心房細動(AF)患者におけるNOACの不適切投与による転帰および要因に関する系統的な評価は限られています。
そこで今回は、不適切なNOAC投与の臨床的・経済的アウトカムおよび関連する患者特性に関する観察研究を特定し、系統的に評価したメタ解析の結果をご紹介します。
本試験では、MEDLINE、Embase、Cochrane Library、International Pharmaceutical Abstracts、Econlit、PubMedおよびNHS EEDsデータベースを用いて、2008年から2020年の間に発表された、成人のAF患者における不適切なNOAC投与のアウトカム、またはそれに関連する要素を検討する英語の観察研究論文が検索されました。またNOACの用量は以下の基準に基づいていました。
NOAC | 減量基準 | 減量設定 |
ダビガトラン | クレアチニンクリアランス 50 mL/min | ESCガイドラインで推奨される110mg以下の用量で 適宜変更可能 |
リバーロキサバン | クレアチニンクリアランス 50 mL/min | 15mgを1日1回投与 |
アピキサバン | 3つの基準のうち2つ:年齢≧80歳、体重≦60kg、クレアチニン≧1.5mg/dL | 2.5mg 1日2回投与 |
エドキサバン | クレアチニンクリアランス:50mL/min以下 | 30mgを1日1回投与 |
試験結果から明らかになったことは?
16件の研究が解析に含まれました。
(NOAC:適応外の過小用量 vs. 推奨用量) | ハザード比(95%CI) |
虚血性脳卒中および脳卒中/一過性脳虚血発作(TIA) | HR=1.08(0.83~1.41) p=0.546 |
脳卒中/全身性塞栓(SE) | HR=1.01(0.83~1.24) p=0.886 |
脳卒中/SE/TIA | HR=1.14(0.73~1.77) p=0.569 |
大出血 | HR 1.04(0.90~1.19) p=0.625 |
全死亡 | HR 1.28(1.10~1.49) p=0.006 |
メタ解析の結果、NOACの推奨用量と比較して、適応外の過小用量は、脳卒中の転帰(虚血性脳卒中および脳卒中/一過性脳虚血発作(TIA)、脳卒中/全身性塞栓(SE)、脳卒中/SE/TIA)に対して無効であることが明らかとなりました。
NOACの不適切投与による臨床転帰を検討した15件の研究のメタ解析では、出血転帰に対する過小用量の影響は認められませんでしたが(大出血 HR 1.04、95%CI 0.90~1.19、p=0.625)、全死亡のリスクが増加しました(同 HR 1.28、95%CI 1.10~1.49、p=0.006)。
過剰用量は大出血のリスク上昇と関連していました(HR 1.41、95%CI 1.07~1.85、p=0.013)。
NOACの不適切な投与による経済的転帰を検討した研究は見つかりませんでした。
不適切なNOAC投与の要因を検討した12件の研究のナラティブ解析(Narrative synthesis)では、年齢の上昇、小出血の既往、高血圧、うっ血性心不全、低クレアチンクリアランス(CrCl)が過小用量のリスク上昇と関連していることが示されました。過剰用量のドライバーを評価するためのエビデンスは不充分でした。
コメント
NOACについては、検査指標が確立していないことから、特に適応外の過小用量で投与されるケースがみられます。過小投与の影響については、報告数が限られており、また結果の一貫性は示されていないことから、さらなる検証が求められています。
さて、本試験結果によれば、NOACの適応外投与が出血の転帰を減らさないことが示唆されました。これは過少投与でも過剰投与でも認められました。さらに、適応外の過小用量のNOACを処方された患者では、全死亡リスクの増加が示されました。一方、脳卒中(虚血性脳卒中および脳卒中/TIA、脳卒中/SE、脳卒中/SE/TIA)については差が認めれませんでした。
観察研究のメタ解析の結果であることから、交絡因子の残存を排除できません。とはいえ、適応外用量による益はなさそうです。基本的には、承認用量の範囲内での使用が求められます。
出血リスクを有する患者を対象とした試験の実施が求められると考えられます。
続報に期待。
☑まとめ☑ NOACの適応外投与が出血の転帰を減らさないことが示唆された。適応外の過小用量のNOACを処方された患者は、全死亡のリスクが増加するようであった。
根拠となった試験の抄録
目的:心房細動(AF)患者における非ビタミンK拮抗薬経口抗凝固薬(NOAC)の不適切な投与の転帰および要因に関する系統的な評価は限られている。本レビューでは、不適切なNOAC投与の臨床的・経済的アウトカムおよび関連する患者特性に関する文献を特定し、系統的に評価した。
方法:MEDLINE、Embase、Cochrane Library、International Pharmaceutical Abstracts、Econlit、PubMedおよびNHS EEDsデータベースを用いて、2008年から2020年の間に発表された、成人のAF患者における不適切なNOAC投与のアウトカム、またはそれに関連する要素を検討する英語の観察研究論文を検索した。
結果:16件の研究が解析に含まれた。メタ解析の結果、NOACの推奨用量と比較して、適応外の過小用量は、脳卒中の転帰(虚血性脳卒中および脳卒中/一過性脳虚血発作(TIA)、脳卒中/全身性塞栓(SE)、脳卒中/SE/TIA)に対して無効であることが明らかにされた。NOACの不適切投与による臨床転帰を検討した15件のメタ解析では、出血転帰に対する過小用量の影響はなかったが(大出血 HR 1.04、95%CI 0.90~1.19、p=0.625)、全死亡のリスクが増加した(同 HR 1.28、95%CI 1.10~1.49、p=0.006)。過剰用量は大出血のリスク上昇と関連していた(HR 1.41、95%CI 1.07~1.85、p=0.013)。NOACの不適切な投与による経済的転帰を検討した研究は見つからなかった。不適切なNOAC投与の要因を検討した12件の研究のナラティブ解析(Narrative synthesis)では、年齢の上昇、小出血の既往、高血圧、うっ血性心不全、低クレアチンクリアランス(CrCl)が過小用量のリスク上昇と関連していることが示された。過剰用量のドライバーを評価するためのエビデンスは不十分であった。
結論:我々の分析では、NOACの適応外投与が出血の転帰を減らさないことが示唆された。適応外用量のNOACを処方された患者は、全死亡のリスクが増加する。これらのデータは、心房細動患者の最適な臨床転帰を達成するために、処方者がNOACの投与ガイドラインを遵守することの重要性を強調している。
試験登録番号:crd42020219844
キーワード:心房細動、脳卒中
引用文献
Outcomes and drivers of inappropriate dosing of non-vitamin K antagonist oral anticoagulants (NOACs) in patients with atrial fibrillation: a systematic review and meta-analysis
Valeria Caso et al. PMID: 36316100 DOI: 10.1136/heartjnl-2022-321114
Heart. 2022 Oct 31;heartjnl-2022-321114. doi: 10.1136/heartjnl-2022-321114. Online ahead of print.
— 読み進める pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36316100/
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