薬局薬剤師による疑義照会の効果はどのくらいなのか?
医薬分業の目的は、医師と薬剤師が独立した専門職の立場で患者の薬物療法の内容を相互に確認することにより、医療における安全性の確保と質の向上につなげることです。しかし、これまで医薬分業の意義や薬局薬剤師の職能に対する議論が起こっています。
平成27年3月12日の内閣府による公開ディスカッション(医薬分業における規制の見直し)では、「医薬分業における規制の見直し」を議題として、医薬分業のメリット等に関する議論が行われ、特にコスト面において医薬分業が期待していたほどの医療費抑制につながっていないのではないかという意見もあがっていました。
薬剤師による処方内容のチェック機能については、薬剤師法第24条により「薬剤師は、処方せん中に疑わしい点があるときは、その処方せんを交付した医師、歯科医師又は獣医師に問い合わせて、その疑わしい点を確かめた後でなければ,これによって調剤してはならない」と規定されています(法令リード)。
医薬分業体制の下で、薬剤師は患者の安全性を確保するために患者毎の薬剤服用歴を活用した健康情報管理が必須であり、得られた情報から処方内容に疑問が生じた場合には、医師に対する疑義照会を行い、患者に最良の薬物療法が提供できるようにしなければなりません。しかし、医薬分業における疑義照会の有用性については、限定された狭い範囲での調査(YAKUGAKU ZASSHI 2012、社会薬学 2012)、あるいは全国的な調査であっても調査範囲が特定団体の会員に限定されているなど一定の条件の下に行われた報告に留まっています(日本薬剤師会)。
そこで今回は、中立的な立場で全国規模の薬局疑義照会調査を実施し、薬局薬剤師が行う疑義照会の実態を把握するとともに、疑義照会による薬剤費の節減効果と重篤な副作用回避による医療費節減効果、及び医薬分業率との関連性について検証することを目的としたアンケート調査の結果をご紹介します。
試験結果から明らかになったことは?
アンケート調査結果 | |
回答率 | 14.7% (818/5,575薬局) |
問い合わせにより変更された処方箋の割合 | 74.9% |
薬剤費の削減 | 1億3百万円 |
重篤な副作用の防止による医療費削減 | 1億3千3百万円 |
調査対象5,575薬局のうち、818薬局から回答が得られました(回答率14.7%)。このうち、問い合わせにより変更された処方箋の割合は74.9%でした。その結果、薬剤費の削減で1億3百万円、重篤な副作用の防止による医療費で1億3千3百万円の削減効果があったと推定されました。処方箋の変更率を医薬分業率の高い地域の薬局と低い地域の薬局とで比較したところ、医薬分業率の高い地域の薬局の方が、処方変更率が有意に高いことが明らかとなりました(78.2% vs. 69.9%、p<0.01)。
コメント
医薬分業のメリット、つまり薬局薬剤師による医療の適正化や医療費削減効果についての検証が求められています。
さて、本アンケート調査の結果によれば、薬局薬剤師による処方せんの問い合わせは、薬物療法の安全性確保や医療費抑制に有効であることが示唆されました。問い合わせにより変更された処方箋の割合は74.9%、1億3百万円の薬剤費削減、重篤な副作用の防止により1億3千3百万円の医療費の削減効果が示されました。また、医薬分業率の高い地域の薬局の方が、より処方変更率が高いことも示されました。
地域薬剤師による薬学的疑義紹介を通じた重篤な副作用の防止、これに伴う薬剤費・医療費の削減効果が数値的に示されました。医薬分業のメリットはあると考えられます。
✅まとめ✅ 薬局薬剤師による処方せんの問い合わせは、薬物療法の安全性確保や医療費抑制に有効であることが示唆された。問い合わせにより変更された処方箋の割合は74.9%、1億3百万円の薬剤費削減、重篤な副作用の防止により1億3千3百万円の医療費の削減効果が示された。
根拠となった試験の抄録
背景:本調査は、地域薬剤師による薬学的疑義紹介を通じた重篤な副作用の防止による薬剤費・医療費の削減効果を評価し、医薬分業率との関連性を検討することを目的とした全国調査である。
方法:全国の薬局リストをもとに都道府県別に10%の薬局をランダムに抽出し、インターネットによる調査への参加を依頼した。調査期間は2015年7月21日から7月27日の7日間だった。
結果:調査対象5,575薬局のうち、818薬局から回答があった(回答率14.7%)。このうち、問い合わせにより変更された処方箋の割合は74.9%であった。その結果、薬剤費の削減で1億3百万円、重篤な副作用の防止による医療費で1億3千3百万円の削減効果があったと推定される。処方箋の変更率を医薬分業率の高い薬局と低い薬局で比較したところ、高い薬局の方が低い薬局よりも変更率が有意に高かった(78.2% vs. 69.9%、p<0.01)。
結論:以上のことから、処方せんの問い合わせは、薬物療法の安全性確保や医療費抑制に有効であることが示唆された。また、医薬分業は問い合わせを通じて処方の変更を促し、医薬品の適正使用につながることが示唆された。
引用文献
Reduction of Medical Cost through Pharmaceutical Inquiries by CommunityPharmacists and Relation withIyaku BungyoRates:A Nationwide Survey on Prescription Inquiries
Yoshiaki Shikamura et al.
YAKUGAKU ZASSHI 136(9) 1263-1273. 2016.
— 読み進める www.jstage.jst.go.jp/article/yakushi/136/9/136_16-00024/_article/-char/ja/
コメント