オミクロン変異株は従来の流行株と比較して感染力が強く、入院や死亡リスクが低いとされているが、、、
重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2型(SARS-CoV-2)のB.1.1.529(Omicron, オミクロン)変異株は、南アフリカ、スコットランド、イギリス、カナダなど様々な場所で、これまでの変異株よりも感染力は強いが、重症度は低いと報告されています(PMID: 35065011、PMID: 35468332、Imperial College London 2021、PMID: 35175280)。しかし、オミクロン変異株の本質的な重症度を理解することは困難です(PMID: 35108465)。COVID-19の重症度に影響を与える多くの交絡因子は、パンデミックの開始以来変化しており、今後も変化し続ける可能性があります。その交絡要因には、新しいワクチンや治療薬の開始(PMID: 34942067)、様々な公衆衛生戦略の実施(PMID: 34077448)、人口統計学的な要因から推測される脆弱性の変化(PMID: 33035468)、医療機関や時間帯による医療利用方法の違いなどです。
SARS-CoV-2の変異株間の比較は、重要な交絡因子を適切に調整することなく行われています。SARS-CoV-2変異株間の比較において、ワクチン接種状況や医療利用状況など、時間とともに変化する可能性のある重要な交絡因子の調整とコントロールが不充分な場合、国民と医療専門家の両方に対して、変異株の真の危険性について誤解を与えかねません。また、一般市民の不信感や医療政策の専門家による誤った選択にもつながりかねません。
そこで今回は、オミクロン変異株とそれ以前の変異株の重症度を比較したデータベース研究の結果をご紹介します。
本試験では、さまざまな交絡バイアスを減らすために、因果関係モデリングアプローチ – 治療の逆確率重み付け(IPTW)を用いて、マサチューセッツ州全体のワクチン登録とキュレーションアウトカムおよびMass General Brigham(MGB)の長期電子健康記録からのリンクデータが適用されました。MGBは、英国地域で年間約150万人の患者に医療を提供する米国最大の医療システムの一つです。複数病院のネットワーク型医療システムを選択することで、医療利用要因を一定に保つことができ、MGB傘下の病院システムも同様の手順を踏んでいます。 観察研究において交絡をコントロールする方法には、多変量回帰法(PMID: 21487487)、層別化法(PMID: 29201888) や傾向スコアマッチング法(PMID: 21818162)などがあります。IPTWは傾向スコア重付法の一種で、近年、医学における因果関係の評価に用いられることが多くなっています(PMID: 35035932)。COVID-19の重症度を定量化するモデルとしてIPTWが選択された理由はいくつかあります。第一に、一般的に傾向スコアベース法は、多くの共変量を一つの共変量に要約することができ、これはCOVID-19研究における共変量の数が多いことを考えると有用です。第二に、他の傾向スコアマッチング手法と比較して、マッチングされなかった個人はIPTW分析から除外されません。さらに、極端に大きな重みなどの異なる問題に対処するために、複数の重付定式化が導入されています。これらの定式化は、文脈によって異なる治療効果を見出すのに役立つとされています(PMID: 20396628)。
試験結果から明らかになったことは?
The Mass General Brigham(MGB)システム全体では、2020年12月1日から2022年2月28日の間にポリメラーゼ連鎖反応(PCR)が陽性となった患者は148,876例でした。131,174例のCOVID-19患者は、本試験の対象および除外基準を満たした。どの流行においても、男性よりも女性の方が多いことが示されました(範囲:57.8%〜61.5%)。2020年〜2021年冬季に感染した患者の年齢は、それ以降と比較して高いことが示されました(47.4±21.2歳)。非白人の感染者数は、前半の2波に比べて後半の2波で減少していた。Charlson comorbidity indexのスコアは4つの期間でほぼ同様でした。しかし、2020年〜2021年冬期にはスコア0点の患者が減り、4点以上の患者が増えました。予想されるように、2020年〜2021年冬期にはワクチン予防接種が導入され、その後の各期で接種患者の割合は大きく変化しています。SARS-CoV-2感染者のうち、ワクチン接種を受けたことのある患者の割合は、最初の2期間では非常に少ないことが示されました。一方、後期にはワクチン接種を受けた感染者の割合が大きく増加しました。検出された症例数は、春季と夏季に比べ、冬季に比較的多いことも示されました。2020年〜2021年冬季に36,682例、2021年の春季に10,281例、デルタ変異株の流行期には18,892例でした。そしてオミクロン変異株の流行期では65,317例に増加しました。オミクロン変異株の流行期においては、患者数の増加にもかかわらず、入院リスクと死亡リスクは他の3つの時期より低いことが示されました。
オミクロン変異株の流行期における入院リスクは検出された症例の約12.7%でした。一方、他の3つの流行期間では、入院リスクは14.2%から15.8%の間で変動していました。オミクロン変異株の流行期間と比較して、入院の危険性は、2020年〜2021年冬季(OR 1.24、95%CI 1.19〜1.29、p<0.01)、2021年春季(OR 1.26、95%CI 1.19〜1.33、p<0.01) およびデルタ変異株の流行期(OR 1.11、95%CI 1.06〜1.17、p<0.01)で、オミクロン変異株の流行期間で低いことが明らかになりました。
オミクロン変異株の流行期 | 入院リスク |
vs. 2020年〜2021年冬季 | OR 0.92 (95%CI 0.89〜0.95) p<0.005 |
vs. 2021年春季 | OR 1.10 (95%CI 0.99〜1.21) p=0.06 |
vs. デルタ変異株の流行期 | OR 1.00 (95%CI 0.99〜1.01) p=0.67 |
検出された症例の院内死亡リスクも、2020年〜2021年冬季(OR 1.85、95%CI 1.57〜2.18、p<0.01)、2021年春季(OR 1.40、95%CI 1.05〜1.85、p<0.01) そしてデルタ変異株の流行期(OR 1.60、95%CI 1.29〜1.97、p<0.01)に比べオミクロン変異株の流行期はかなり低値を示していました。しかし、オミクロン変異株は他の変異株と比較して重症ではないという一般的な認識と異なり、交絡変数で調整した後のオミクロン変異株の流行期の入院リスクは実際にはこれまでの期間と非常に似通っていました:オミクロン変異株の流行期と比較して、2020年〜2021年冬季の入院リスクは低いことが示されました(OR 0.92、95%CI 0.89〜0.95、p<0.005)。オミクロン変異株の流行期と2021年春季(OR 1.10、95%CI 0.99〜1.21、p=0.06)、オミクロン変異株の流行期とデルタ変異株の流行期(OR 1.00、95%CI 0.99〜1.01、p=0.67)の調整後入院リスクを比較すると、検出されない差異でした。
オミクロン変異株の流行期 | 死亡リスク |
vs. 2020年〜2021年冬季 | OR 1.00 (95%CI 1.00〜1.01) p=0.4 |
vs. 2021年春季 | OR 1.00 (95%CI 1.00〜1.01) p=0.08 |
vs. デルタ変異株の流行期 | OR 1.00 (95%CI 1.00〜1.01) p=0.01 |
オミクロン変異株の流行期と比較すると、2020年〜2021年冬季(OR 1.00、95%CI 1.00〜1.01、p=0.4) とデルタ変異株の流行期(OR 1.00、95%CI 1.00〜1.01、p=0.08)では死亡リスクが非常に似ていました。そして、2021年春季と比較すると、オミクロン変異株の流行期は統計的に有意に死亡リスクを減少させましたが、調整オッズ比はほぼ同等でした(OR 1.00、95%CI 1.00〜1.01、p=0.01)。
コメント
SARS-CoV-2の変異株間の比較は、重要な交絡因子を適切に調整することなく行われています。したがて、オミクロン変異株の特徴について、より正確に把握するためには、交絡因子等の調整が求められます。
さて、本試験結果によれば、オミクロン変異株の流行期と以前の流行期において、様々な人口統計、Charlson comorbidity indexスコア、ワクチン接種状況などの交絡因子で調整した後(医療利用は一定とした)、入院および死亡のリスクはほぼ同様であることが明らかとなりました。
基本的な感染予防対策やワクチン接種率の増加により、オミクロン変異株の流行期では、以前の流行期と比較して、入院や死亡リスクが低いように捉えられていましたが、実際はこれまでの変異株と同様の入院・死亡リスクである可能性が示されました。
✅まとめ✅ オミクロン変異株の本質的な重症度は、これまでの変異株と同程度である可能性が示唆された。
根拠となった試験の抄録
背景:重症急性呼吸器症候群コロナウイルス 2 型(SARS-CoV-2)の B.1.1.529(Omicron, オミクロン) 変異株は、他のSARS-CoV-2変異株よりも感染力は強いが重症度は低いと以前に報告されている。
方法:この仮説を検証するため、米国マサチューセッツ州の13病院を含む大規模医療システムの品質管理された電子カルテと州レベルのワクチン接種データをリンクさせた。次に、13万人以上のCOVID患者を対象に、SARS-CoV-2流行に応じた入院と死亡のリスクを比較する加重ケースコントロール研究を実施した。
結果:調整前の入院率および死亡率は、オミクロン期と比較して以前の波で高いように見えたが、様々な人口統計、Charlson comorbidity indexスコア、ワクチン接種状況などの交絡因子で調整した後(医療利用は一定とした)、入院および死亡のリスクは期間間でほぼ同じであることが分かった。
結論:我々の分析は、オミクロン変異株の本質的な重症度は、これまでの変異株と同程度である可能性を示唆している。
引用文献
SARS-CoV-2 Omicron Variant is as Deadly as Previous Waves After Adjusting for Vaccinations, Demographics, and Comorbidities
Research Square 2022
Posted Date: May 2nd, 2022 DOI:https://doi.org/10.21203/rs.3.rs-1601788/v1
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