軽症から中等症のCOVID-19患者に対する新規モノクローナル中和抗体レグダンビマブの安全性・有効性は?
2020年初頭に始まった新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックは、2021年8月現在、2億人を超える患者が確認され、少なくとも440万人が死亡しており、現在も進行中です(WHO)。COVID-19に対するいくつかのワクチンが開発され、多くの国でプログラムが進行中です(PMID: 33378609、PMID: 33301246、PMID: 33882225、PMID: 33704352)。いくつかの国では、ワクチン接種プログラムの開始後、COVID-19の発生率は一時的に減少しましたが、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)のデルタ変種株が新しい局面を開き、多くの国でCOVID-19患者が再び増加しています(GISAID)。
COVID-19に関連する罹患率と死亡率を減少させ、公衆衛生サービスに対する関連負担を軽減するために、効果的な治療法が緊急に必要とされています(WHO)。臨床疾患の経過の早期に適用される治療法は、臨床的回復を早め、ウイルス排出期間を短縮し、入院の必要性を制限し、それによって医療制度全体への負担を軽減することができます。SARS-CoV-2のスパイク(S)タンパク質に対するモノクローナル抗体は、アンジオテンシン変換酵素2受容体との相互作用を通じてSARS-CoV-2の細胞侵入を標的とし(PMID: 32698192、PMID: 32454512、PMID: 32404477、PMID: 32668443、PMID: 32142651)、COVID-19患者の入院、ウイルス力価、臨床症状を軽減し(PMID: 33332778、PMID: 33113295、PMID: 33475701)、また介護施設入居者のCOVID-19リスクを下げることが示されています(NCT04497987、Lilly)。
レグダンビマブ(CT-P59)は、D614G Sタンパク質変異体を含む様々なSARS-CoV-2分離体に対して活性を持つ中和抗体です(PMID: 33436577)。レグダンビマブは、SARS-CoV-2受容体結合ドメイン内の受容体結合モチーフに結合し、ACE2との相互作用を立体的に阻害することが示されています(PMID: 33436577)。レグダンビマブの投与は、SARS-CoV-2感染動物モデルにおいて、ウイルス量を減少させ、死亡率を低下させました(PMID: 33436577)。韓国食品医薬品安全部は、軽症から中等症のCOVID-19患者(50歳以上または特定の事前定義された病状を有する)に対するレグダンビマブの販売承認(2021年9月)を付与しました(MFDS)。2021年11月、欧州医薬品庁(EMA)は補助酸素を必要とせず、重度COVID-19への進行リスクが高いCOVID-19成人患者への使用についてレグダンビマブを承認しました(EMA)。
今回ご紹介するのは、軽症から中等症のCOVID-19外来患者を対象としたレグダンビマブの二重盲検ランダム化比較試験における28日間の結果をご紹介します。
本試験の主要評価項目は、28日目までの定量的逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-qPCR)に基づく鼻咽頭スワブからのSARS-CoV-2の陰性化までの時間および14日目までの臨床的回復までの時間でした。副次的評価項目は、COVID-19による入院、酸素療法、死亡を必要とした患者の割合でした。
試験結果から明らかになったことは?
レグダンビマブ 40mg/kg | レグダンビマブ 80mg/kg | プラセボ | |
RT-qPCRの陰性化までの時間 (中央値) | 12.8日 (95%CI 9.0〜12.9) P=0.06 | 11.9日 (8.9〜12.9) P=0.21 | 12.9日 (12.7〜13.9) P=0.08 |
14日目までの臨床的回復までの時間 (中央値) | 5.3日 (95%CI 4.0〜6.8) P=0.01 | 6.2日 (5.5〜7.9) P=0.04 | 8.8日 (6.8〜11.6) P=0.01 |
28日目までの入院または酸素療法を 必要とする患者の割合 | 4.0% (95%CI 1.6~9.8) | 4.9% (2.1~10.9) | 8.7% (4.6~15.6) |
RT-qPCRの陰性化までの期間の中央値(95%CI)は、レグダンビマブ40mg/kgで12.8(9.0〜12.9)日、レグダンビマブ80mg/kgで11.9(8.9〜12.9)日、プラセボで12.9(12.7〜13.9)日でした。
14日目までの臨床的回復までの期間の中央値(95%CI)は、レグダンビマブ40mg/kgで5.3(4.0〜6.8)日、レグダンビマブ80mg/kgで6.2(5.5〜7.9)日、プラセボで8.8(6.8〜11.6)日でした。
28日目までの入院または酸素療法を必要とする患者の割合(95%CI)は、レグダンビマブ40mg/kg(4.0%[1.6~9.8%])およびレグダンビマブ80mg/kg(4.9%[2.1~10.9%])がプラセボ(8.7%[4.6~15.6%])と比べて低率でした。
治療に起因する重篤な有害事象および死亡は発生しませんでした。
コメント
SARS-CoV-2による感染拡大は収束の兆しが見えません。With コロナ時代という言葉が使われるような世界になってきていることから、COVID-19に対する予防と治療戦略が求められます。COVID-19患者では無症候性キャリアが約半数程度いることが推定されています。そのため、感染予防対策を実施していてもSARS-CoV-2に感染してしまう恐れがあります。そのため、治療薬開発は依然としてニーズが高いです。
さて、本試験結果によれば、モノクローナル中和抗体薬であるレグダンビマブは、プラセボと比較して、軽症から中等症のCOVID-19外来患者におけるRT-qPCRの陰性化までの時間について減少傾向、14日目までの臨床的回復までの時間については有意に短いことが示されました。また、28日目までの入院または酸素療法を必要とする患者の割合は、プラセボと比較してレグダンビマブ群で低値でした。
2部構成のうちのパート1の報告であることから、今後の検討結果で有効性が示される可能性があります。しかし、本試験のみでレグダンビマブの有効性について結論づけることはできません。
続報に期待。
✅まとめ✅ レグダンビマブは、プラセボと比較してRT-qPCR結果の陰性化までの時間を短縮する傾向を示し、軽症から中等症のCOVID-19患者における入院および酸素療法の必要性を有意に減少させた。
根拠となった試験の抄録
背景:Regdanvimab(レグダンビマブ, CT-P59)は、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2型(SARS-CoV-2)に対する中和活性を有するモノクローナル抗体である。軽症から中等症の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の患者を対象とした2部構成のランダム化プラセボ対照二重盲検試験のパート1について報告する。
方法:軽症から中等症のCOVID-19外来患者にレグダンビマブ40mg/kg(100例)、レグダンビマブ80mg/kg(103例)、プラセボ(104例)を単回投与した。主要評価項目は、28日目までの定量的逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-qPCR)に基づく鼻咽頭スワブからのSARS-CoV-2の陰性化までの時間および14日目までの臨床的回復までの時間であった。副次的評価項目は、COVID-19による入院、酸素療法、死亡を必要とした患者の割合であった。
結果:RT-qPCRの陰性化までの時間の中央値(95%CI)は、レグダンビマブ40mg/kgで12.8(9.0〜12.9)日、レグダンビマブ80mg/kgで11.9(8.9〜12.9)日、プラセボで12.9(12.7〜13.9)日であった。臨床的回復までの時間の中央値(95%CI)は、レグダンビマブ40mg/kgで5.3(4.0〜6.8)日、レグダンビマブ80mg/kgで6.2(5.5〜7.9)日、プラセボで8.8(6.8〜11.6)日であった。入院または酸素療法を必要とする患者の割合(95%CI)は、レグダンビマブ40mg/kg(4.0%[1.6~9.8%])およびレグダンビマブ80mg/kg(4.9%[2.1~10.9%])がプラセボ(8.7%[4.6~15.6%])と比べて低率であった。治療に起因する重篤な有害事象および死亡は発生しなかった。
結論:レグダンビマブは、プラセボと比較してRT-qPCR結果の陰性化までの時間を短縮する傾向を示し、軽症から中等症のCOVID-19患者における入院および酸素療法の必要性を減少させた。
臨床試験登録:NCT04602000、EudraCT2020-003369-20
キーワード:COVID-19、CT-P59、SARS-CoV-2、regdanvimab
引用文献
Efficacy and Safety of Regdanvimab (CT-P59): A Phase 2/3 Randomized, Double-Blind, Placebo-Controlled Trial in Outpatients With Mild-to-Moderate Coronavirus Disease 2019
Anca Streinu-Cercel et al. PMID: 35295819 PMCID: PMC8903348 DOI: 10.1093/ofid/ofac053
Open Forum Infect Dis. 2022 Feb 2;9(4):ofac053. doi: 10.1093/ofid/ofac053. eCollection 2022 Apr.
— 続きを読む pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35295819/
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