COVID-19入院患者における抗菌薬使用と併発感染症の頻度はどのくらいなのか?
最近のメタアナリシス(PMID: 32711058、PMID: 33418017)および前向き研究(PMID: 34100002)により、COVID-19感染症患者における細菌の重複感染や二次感染はまれであることが報告されています。しかし、これらの研究では、本疾患患者の約70%に抗菌薬が処方されていました(PMID: 33418017)。 したがって、この患者集団における真の同時感染率を明らかにするために、抗菌薬の処方を日常的に受けていないCOVID-19感染患者に関するデータが必要であると考えられます。
そこで今回は、国立病院機構栃木医療センター(栃木県宇都宮市)において、COVID-19感染者における入院中の抗菌薬使用状況および同時感染状況について検討した横断研究の結果をご紹介します。
国立病院機構栃木医療センターでは、COVID-19の流行開始以来、COVID-19感染者に対し、症状から他の感染症が疑われる場合を除いて抗菌薬の処方を行わないことにしています。
試験結果から明らかになったことは?
解析対象患者1,056例(年齢中央値[IQR]50[36〜61]歳、男性669[63.4%]、女性387[36.7%])において、533例(50.5%)が軽症、313例(29.6%)が中等症、203例(19.2%)が重症、7例(0.7%)が重篤なCOVID-19感染症を有していました。
患者数(率) | |
入院中に微生物学的に確認された COVID-19以外の感染症 | 6/1,056例(0.6%)で7件 |
軽症のCOVID-19を除いた場合 | 5/1,056例(0.9%) |
入院中、9例(0.9%)が死亡、1,046例(99.1%)が回復、1例が社会的理由により回復前に他院に転院しました。入院前に104例(9.9%)に抗菌薬が処方されていたが、入院中に抗菌薬が投与された患者は18例(1.7%)でした。この18例のうち15例は治療として使用し、3例は予防として使用されました。また、入院中に微生物学的に確認されたCOVID-19以外の感染症は6例(0.6%)で7件でした。また、軽症のCOVID-19を除いても5例(0.9%)でした。
コメント
COVID-19の流行初期に、治療薬開発のための臨床研究において、抗菌薬が併用されることがありました。これは、続発性の細菌感染症の併発を防ぐ目的が主です。臨床現場においては、重症化を防ぐために、原因菌の特定の前にエンピリック(経験的)に抗菌薬を使用するケースもありますが、これはCOVID-19に細菌感染症が併発する前提です。実臨床における併発割合によっては、抗菌薬の使用を考え直す必要があります。
さて、本試験結果によれば、COVID-19感染者では、入院中の抗菌薬使用頻度が低いにもかかわらず、感染症の併発はほとんどなく(0.6%)、そのほとんどが非重症例である可能性が示唆されました。あくまでも単施設かつ横断研究の結果ではありますが、COVID-19と細菌感染症の併発はほぼなさそうです。とはいえ細菌感染症を併発するCOVID-19患者もいることから、エンピリックな抗菌薬使用は避け、検査結果を待ち、かつ患者の重症度も踏まえて抗菌薬の使用を考慮した方が良さそうです。AMR対策にもつながる非常に重要な研究結果であると考えます。
続報に期待。
✅まとめ✅ 日本の単施設における横断研究の結果、COVID-19入院患者では、抗菌薬使用頻度が低いにもかかわらず、感染症の併発はほとんどなく、そのほとんどが非重症例であるかもしれないことが明らかとなった。
根拠となった試験の抄録
はじめに:最近のメタアナリシス(PMID: 32711058、PMID: 33418017)および前向き研究(PMID: 34100002)により、COVID-19感染症患者における細菌の重複感染や二次感染はまれであることが報告されている。しかし、これらの研究では、本疾患患者の約70%に抗菌薬が処方されていた(PMID: 33418017)。 したがって、この患者集団における真の同時感染率を明らかにするために、抗菌薬の処方を日常的に受けていないCOVID-19感染患者に関するデータが必要である。国立病院機構栃木医療センター(栃木県宇都宮市)では、COVID-19の流行開始以来、COVID-19感染者に対し、症状から他の感染症が疑われる場合を除いて抗菌薬の処方を行わないことにしている。そこで、COVID-19感染者における入院中の抗菌薬使用状況および同時感染状況について検討した。
方法:この後方視的横断研究は、電子カルテからデータを取得し、分析したものである。国立病院機構栃木医療センターの施設倫理委員会はこの研究を承認し、患者と接触することなく非識別化データを収集したため、インフォームドコンセントの必要性を正式に免除した。我々は、Strengthening the Reporting of Observational Studies in Epidemiology(STROBE)報告ガイドラインに従った。
2020年11月1日から2021年10月9日までに国立病院機構栃木医療センターに入院した、検査でCOVID-19感染が確認された症候性患者全員を対象とした。集中治療のために他院に転院した47例を除き、最終的に1056例を解析対象とした。病院では、COVID-19感染症患者は世界保健機関のガイドラインに従って治療された(PMID: 32887691)。COVID-19ケアチームには、抗菌薬スチュワードシップチームの医師2名が含まれていた。
人口統計学的特性、微生物検査結果、入院中の薬剤使用に関する情報は、電子カルテから抽出した。COVID-19の重症度はWHO分類を用いて評価した(WHO)。主要アウトカムは、入院中の抗菌薬使用率および微生物学的に確認された同時感染症の患者の割合であった。患者特性およびアウトカムの報告には記述統計学を用いた。Stata, version 15(LightStone)を使用した。
結果:解析対象患者1,056例(年齢中央値[IQR]50[36〜61]歳、男性669[63.4%]、女性387[36.7%])において、533例(50.5%)が軽症、313例(29.6%)が中等症、203例(19.2%)が重症、7例(0.7%)が重篤なCOVID-19感染症を有していた。入院中、9例(0.9%)が死亡、1,046例(99.1%)が回復、1例が社会的理由により回復前に他院に転院した。入院前に104例(9.9%)に抗菌薬が処方されていたが、入院中に抗菌薬が投与された患者は18例(1.7%)にとどまった。この18例のうち15例は治療として使用し、3例は予防として使用した。また、入院中に微生物学的に確認されたCOVID-19以外の感染症は6例(0.6%)で7件であった。また、軽症のCOVID-19を除いても5例(0.9%)であった。
考察:COVID-19感染者では、入院中の抗菌薬使用頻度が低いにもかかわらず、感染症の併発はほとんどなく、そのほとんどが非重症例であることが明らかとなった。この結果は、COVID-19感染症患者において細菌感染症の併発は稀であることを示した最近の研究結果を支持するものである(PMID: 32711058、PMID: 33418017、PMID: 34100002)。 非重症患者のほとんどが抗菌薬なしで回復したことから、多くの病院で非重症患者の治療にほとんどの抗菌薬を使用する必要はない可能性がある。COVID-19感染症患者の治療には、抗菌薬の使用を慎重に行う必要がある。
本研究の長所と重要性は、すべての抗菌薬(使用理由にかかわらず)の使用を評価したことと、抗菌薬の使用率が過去の研究と比較して極めて低いことである(PMID: 33418017)。また、微生物検査が陽性であっても、必ずしも真の感染症であるとは限らない。さらに、活動性の癌や免疫不全の患者を含む少数の患者を対象とした。
引用文献
Evaluation of Antimicrobial Drug Use and Concurrent Infections During Hospitalization of Patients With COVID-19 in Japan
Junpei Komagamine et al. PMID: 35179589 DOI: 10.1001/jamanetworkopen.2022.0040
JAMA Netw Open. 2022 Feb 1;5(2):e220040. doi: 10.1001/jamanetworkopen.2022.0040.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35179589/
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