創造性は「ひらめき」だけでは生まれない?|人は努力を過小評価し、ひらめきを過大評価する(Trends Cogn Sci. 2022)

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インサイト・バイアスが認知をゆがめる

「創造性はひらめきだ」、「良いアイデアは突然降ってくる」
こうしたイメージは、多くの人が共有している直感的な理解でしょう。

一方で、トーマス・A・エジソンの有名な言葉にあるように「創造性は努力の積み重ね」であるという考え方も根強く存在します。

今回ご紹介する論文は、人々の創造性に関する信念(lay beliefs)が、実際の創造プロセスと乖離している可能性を示した心理学研究です。

著者らは、人は「ひらめき(insight)」を過大評価し、「粘り強さ(persistence)」を過小評価する傾向があるとし、これをinsight bias(インサイト・バイアス)と呼んでいます。


試験結果から明らかになったことは?

◆背景:創造性は2つの認知経路から生まれる

創造性研究では、創造的アイデアは主に次の2つの認知経路から生じるとされています。

  • Persistence(持続的努力)
    意識的で、努力を伴い、粘り強く解決策を探し続ける過程。
  • Insight(ひらめき)
    突然・直感的に「分かった」と感じる、いわゆる A-ha! 体験。

実証研究では、どちらの経路も創造的成果に寄与することが示されています。しかし、著者らは「人々の信念はこの二重経路を正しく反映していない」と問題提起します。


研究の中心仮説:Insight bias とは何か

本論文が提示する中心的な仮説は以下です。

人は、創造性において
「努力(persistence)を過小評価し、ひらめき(insight)を過大評価する」傾向がある

これが “(インサイト・バイアス)insight bias” です。


研究知見①:人は「続ければもっとアイデアが出る」ことを予測できない

複数の研究から、次のような一貫した傾向が報告されています。

  • 人は、アイデア出しを続けた場合に生まれるアイデア数を過小評価する
  • 実際には、創造性は時間とともに維持または向上するにもかかわらず、
    人は「後半になるほど枯渇する」と予測する
  • 問題解決においても、人は
    • 「もう解決策は出尽くした」と感じる時点で
    • 実際には解空間*の20〜30%程度しか探索できていない
      *問題に対する合理的な解決策の集合

これらはすべて、持続することの価値を正しく見積もれていないことを示唆しています。


◆研究知見②:人は「ひらめき由来の創造性」を好む

さらに、研究では以下のような信念の偏りも示されています。

  • 人は、創造的アイデアは
    • 「柔軟性」、「直感」、「無意識的思考(ひらめき、insight)」から生まれる
      と考えやすい
  • 一方で、実際に自分の創造体験を振り返らせると
    • 多くの場合、「集中して考え続けていた」後にアイデアが出ている
  • 起業家や創作者の評価においても
    • 努力型より
    • 「生まれつきの才能・ひらめき型」が好まれる

つまり、評価・期待・好意のすべてが insight 側に傾いていることが示されています。


◆なぜインサイト・バイアスが生じるのか?

著者らは、有力な説明として主観的体験の違いを挙げています。

  • ひらめき(insight)
    • 努力感が少ない
    • 気持ちよい
    • 疲労感が少ない
  • 粘り強い思考(persistence)
    • 努力感が強い
    • 認知的に消耗する

この「努力感(メタ認知的流暢性)」の違いが、
「楽に感じる=価値が高い」という誤った推論につながり、
インサイト・バイアスを生むと考えられています。


試験の限界

本論文および関連研究には、以下の限界があります。

  • 多くの研究は
    • 自己報告(主観評価)
    • 実験課題ベースの創造性指標
      に依存しており、実社会の創造活動(研究・臨床・開発)への外挿には注意が必要
  • 「創造性」の定義や測定方法は研究ごとに異なり、統一された客観指標が存在しない
  • 主に欧米圏の被験者を対象とした研究であり、文化差(努力観・才能観)の影響は十分に検討されていない
  • 因果関係(信念が創造性を下げるのか、低成果が信念を生むのか)は横断研究では完全に明らかにできない

実務・教育への示唆

本研究は、以下の点で重要な示唆を与えます。

  • 「アイデアが出ない=才能がない」ではない
  • 続けること自体が創造性を高める戦略である
  • 教育・指導・評価の場で “ひらめき型” だけを称賛すると持続的努力を阻害する可能性がある

医療・研究・薬剤師業務のように、反復・試行錯誤・改善が本質となる分野では、このインサイト・バイアスを自覚すること自体が、パフォーマンス向上につながると考えられます。


コメント

◆まとめ

  • 創造性は「ひらめき」と「粘り強さ」の両輪から生まれる
  • しかし人は努力を過小評価し、ひらめきを過大評価する(insight bias)
  • この誤った信念は
    • 早期の諦め
    • 創造活動からの離脱
      を招く可能性がある
  • 創造性を高めるには
    「続けることの価値」を正しく理解する視点が重要

そもそもインプットしている量が少なければアウトプットを継続できない、ということでしょうか。

国や地域、人種差はあるかもしれませんが、ヒトであることに変わりはないと考えられることから、本試験結果は充分な示唆を与えてくれるものと考えられます。

続報に期待。

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✅まとめ✅

根拠となった試験の抄録

研究によると、創造的なアイデアは洞察と粘り強さという2つの認知経路によって生み出されることが分かっています。しかしながら、新たな研究では、人々の一般的な信念が両方の経路を十分に反映していない可能性が示唆されています。私たちは、人々が洞察バイアスを示し、創造プロセスにおいて粘り強さを過小評価し、洞察を過大評価しているのではないかと提唱しています。

キーワード: 創造的プロセス、創造性、洞察力、判断力、一般の信念、粘り強さ

引用文献

Lay people’s beliefs about creativity: evidence for an insight bias
Brian J Lucas et al.
Trends Cogn Sci. 2022 Jan;26(1):6-7. doi: 10.1016/j.tics.2021.09.007. Epub 2021 Oct 16.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34666941/

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