ズラノロン(ザズベイ)はうつ病治療を変えるのか?(Am J Psychiatry. 2023)

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― 14日間投与で効果が示されたランダム化比較試験を解説 ―

うつ病(Major Depressive Disorder:MDD)は再発率が高く、治療開始から効果発現までに数週間を要することが、臨床上の大きな課題です。
こうした背景の中、GABAA受容体を標的とする経口薬「ズラノロン(zuranolone)」は「短期間投与で早期効果が期待される抗うつ薬」として注目されています。

本記事では、2023年に報告された14日間のズラノロン投与を検証したランダム化比較試験をもとに、有効性・安全性・解釈上の注意点(試験の限界)を整理します。


試験結果から明らかになったことは?

◆研究の概要

試験デザイン

  • ランダム化
  • 二重盲検
  • プラセボ対照
  • 多施設共同試験

対象患者

  • 年齢:18〜64歳
  • 重症の大うつ病性障害(severe MDD)
  • 合計543例が無作為化

介入

  • ズラノロン 50mg 1日1回(14日間)
  • プラセボ
  • 自己服用

主要評価項目

  • HAM-D(17項目)総スコアのベースラインから15日目までの変化量

◆試験結果

有効性(HAM-Dスコア)

評価時点ズラノロン群プラセボ群
15日目(主要評価項目)-14.1-12.3
3日目-9.8-6.8
  • 15日目において、ズラノロン群はプラセボ群より統計学的に有意な改善を示した
  • 3日目という非常に早期から数値上の改善が認められ、その効果は追跡期間(42日目)まで維持された
  • 群間差は12日目までは名目上有意と報告されている

※3日目の評価はあくまでも副次的な評価であり、仮説生成的な結果


安全性

項目ズラノロン群プラセボ群
重篤な有害事象2例2例
有害事象による中止9例4例
  • 新たな安全性シグナルは認められなかった
  • 既報の低用量試験と比較しても、安全性プロファイルは同様とされた

作用機序の位置づけ

ズラノロンは、GABAA受容体の陽性アロステリックモジュレーターであり、
従来のSSRIやSNRIとは異なる神経伝達系を標的とします。

  • GABA系:抑制性神経伝達
  • ステロイド様構造を持つ神経活性ステロイド系薬剤
  • 「即効性が期待される抗うつ薬」という点で、臨床的関心が高い

試験の限界

本試験結果を解釈するうえで、以下の限界が明確に存在します

1. 投与期間が14日間と短い

  • 長期継続投与時の有効性・安全性は評価されていない
  • 再発抑制効果については不明

2. 比較対象がプラセボのみ

  • 既存抗うつ薬(SSRI/SNRIなど)との直接比較は行われていない
  • 臨床的位置づけ(どの段階で使うか)は判断できない

3. 対象が「重症MDD」に限定されている

  • 軽症〜中等症うつ病への有効性は本試験からは不明

4. 主要評価項目は評価尺度(HAM-D)

  • 臨床アウトカム(就労、再入院、自殺関連指標など)は評価されていない

5. 有害事象による中止がズラノロン群で多い

  • 数は多くないものの、忍容性の個人差を考慮する必要がある

臨床的にどう考えるか

  • 「短期間投与で早期改善が示された」ことは事実
  • 一方で、既存治療を置き換える根拠は現時点では不足
  • 実臨床での位置づけには、
    • 長期試験
    • 既存抗うつ薬との比較
    • 再発率・安全性の検証
      が必要

コメント

◆まとめ

  • ズラノロンは、14日間投与で15日目に有意な抑うつ症状改善を示した
  • 3日目という早期から数値上の改善が観察された
  • 安全性は概ね許容範囲と報告されたが、試験期間・比較対象の限界は大きい
  • 本試験は「新規作用機序を持つ抗うつ薬の可能性」を示した段階と位置づけるのが妥当

ズラノロン(商品名:ザズベイ)は、2025年12月22日に承認され、効能効果に「うつ病・うつ状態」を有しています。既存薬との比較や併用効果、より長期的な安全性評価が求められます。

続報に期待。

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✅まとめ✅ 二重盲検ランダム化比較試験の結果、ズラノロン50mg/日投与は、15日目に抑うつ症状の有意な改善をもたらし、効果発現までの時間も速やか(3日目)であった。ズラノロンは概ね忍容性が高く、過去に研究された低用量投与と比較して新たな安全性所見は認められなかった。

根拠となった試験の抄録

目的: 本研究では、大うつ病性障害の治療を目的とした、γ-アミノ酪酸A型(GABAA)受容体の治験中の経口陽性アロステリック調節薬であるズラノロン50mgを1日1回投与する14日間の治療コースの有効性と安全性を評価しました。

方法: 重症大うつ病性障害(大うつ病性障害)を有する18~64歳の患者を、本ランダム化二重盲検プラセボ対照試験に登録した。患者は、ズラノロン50mgまたはプラセボを1日1回、14日間自己投与した。主要評価項目は、15日目における17項目ハミルトンうつ病評価尺度(HAM-D)合計スコアのベースラインからの変化量とした。安全性および忍容性は、有害事象の発現率によって評価した。

結果: ランダム化された患者 543 人のうち、534人(ズラノロン群 266人、プラセボ群 268人) が完全な解析セットを構成しました。プラセボ群の患者と比較して、ズラノロン群の患者は 15 日目に統計的に有意なうつ症状の改善を示しました(ベースラインのHAM-Dスコアからの最小二乗平均値変化 -14.1 vs. -12.3)。3日目までに、ズラノロンはプラセボよりもうつ症状の改善が数値的に大きく(ベースラインのHAM-Dスコアからの最小二乗平均値変化 -9.8 vs. -6.8)、この改善は研究の治療期間および追跡期間(42日目まで、差は12日目まで名目上有意)の全診察時に持続しました。各群の患者2人が重篤な有害事象を経験し、ズラノロン群の9人およびプラセボ群の4人の患者が有害事象のために治療を中止しました。

結論: ズラノロン50mg/日投与は、15日目に抑うつ症状の有意な改善をもたらし、効果発現までの時間も速やか(3日目)であった。ズラノロンは概ね忍容性が高く、過去に研究された低用量投与と比較して新たな安全性所見は認められなかった。これらの知見は、大うつ病性障害(ADHD)の成人患者におけるズラノロン治療の可能性を裏付けるものである。

キーワード: 抗うつ薬、うつ病、大うつ病

引用文献

Zuranolone for the Treatment of Adults With Major Depressive Disorder: A Randomized, Placebo-Controlled Phase 3 Trial
Anita H Clayton et al.
Am J Psychiatry. 2023 Sep 1;180(9):676-684. doi: 10.1176/appi.ajp.20220459. Epub 2023 May 3.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37132201/

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