妊娠高血圧症候群に使う降圧薬はどれを選ぶべきか?(Am J Obstet Gynecol. 2025)

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メチルドパ・ラベタロール・ニフェジピンを比較したネットワークメタ解析


妊娠高血圧症候群における安全性の高い薬剤とは?

妊娠高血圧症候群(hypertensive disorders of pregnancy)は、母体・胎児双方の予後に重大な影響を及ぼす疾患群です。
経口降圧薬としては、メチルドパ、ラベタロール、ニフェジピンの3剤が広く使用されていますが、これまでどの薬剤を第一選択とすべきかについて明確な結論は示されていませんでした。

今回ご紹介するのは、これら3剤をネットワークメタ解析という手法で比較し、母体および胎児・新生児アウトカムへの影響を包括的に評価した研究結果です。


試験結果から明らかになったことは?

◆背景

妊娠中の降圧治療では、

  • 血圧コントロールの有効性
  • 母体の安全性
  • 胎児・新生児への影響

を同時に考慮する必要があります。

しかし、妊婦を対象としたランダム化比較試験(RCT)は倫理的制約も大きく、直接比較(head-to-head)のエビデンスは限られているのが現状です。
このような状況で、複数治療を間接比較できるネットワークメタ解析は重要な手法といえます。


◆研究概要

項目内容
研究デザインシステマティックレビュー+ネットワークメタ解析
検索日2023年8月25日
データベースPubMed/MEDLINE、Embase、CENTRAL
対象研究妊娠高血圧症候群に対するRCT
対象薬剤メチルドパ、ラベタロール、ニフェジピン、プラセボ/無治療
解析対象23試験・3989人
主要評価項目重症高血圧
副次評価項目子癇前症、早産、母体・胎児/新生児の罹患率・死亡率
バイアス評価Cochrane Risk of Bias tool、Trustworthiness checklist

◆試験結果

① 重症高血圧(Primary outcome)

比較相対リスク(RR)95%信頼区間試験数
ラベタロール vs プラセボ/無治療0.200.09–0.488
メチルドパ vs プラセボ/無治療0.440.20–0.998
ニフェジピン vs プラセボ/無治療有意差なし
ラベタロール vs ニフェジピン有意差なし
メチルドパ vs ラベタロール有意差なし

② 子癇前症(Secondary outcome)

比較相対リスク(RR)95%信頼区間試験数
ラベタロール vs ニフェジピン0.500.28–0.8715
その他の比較有意差なし

③ 早産(Secondary outcome)

比較相対リスク(RR)95%信頼区間試験数
ラベタロール vs ニフェジピン0.680.52–0.9014
その他の比較有意差なし

④ その他の母体・胎児/新生児アウトカム

  • 母体死亡
  • 周産期死亡
  • 新生児合併症

いずれの薬剤間でも有意差は検出されなかった


試験の限界

本研究の結果を解釈するうえで、以下の点に注意が必要です。

  1. 組み入れ試験の質が低〜中等度
    • 古いRCTが多く、ランダム化・盲検化の方法が不十分な研究が含まれる
  2. アウトカム定義のばらつき
    • 「重症高血圧」、「子癇前症」、「早産」の定義が試験間で完全には統一されていない
  3. 投与量・治療開始時期の不均一性
    • 各試験で用いられた用量、妊娠週数、併用治療が異なる
  4. ネットワークメタ解析特有の前提条件
    • 直接比較が少なく、間接比較に依存する推定が含まれている
  5. 稀なアウトカムに対する検出力不足
    • 母体死亡や新生児死亡など、発生頻度の低いイベントでは有意差を検出できない可能性

著者自身も「全体としてエビデンスの質が低く、結果の解釈には慎重さが必要」と明記しています。


臨床的な考察

本解析から読み取れるポイントは以下の通りです。

  • 重症高血圧の抑制効果
    → メチルドパ・ラベタロールはいずれもプラセボより有効
  • ラベタロールの相対的優位性
    → ニフェジピンと比較して、
    • 子癇前症
    • 早産
      のリスクが低下
  • ただし効果は「限定的(modest)」
    → 明確な第一選択を断定できるほどの差ではない

まとめ

  • 妊娠高血圧症候群に対する経口降圧薬3剤(メチルドパ・ラベタロール・ニフェジピン)間で、重症高血圧に関する明確な優劣は示されなかった
  • 一方で、ラベタロールはニフェジピンと比較して子癇前症・早産のリスク低下と関連していた
  • ただし、組み入れ研究の質が低い点から、結論は慎重に解釈すべき

現時点では、

「患者背景・副作用プロファイル・施設経験を踏まえた個別化選択」

が引き続き重要であり、今後は質の高い前向きRCTが求められます。

とはいえ、妊婦を対象としたランダム化比較試験は、倫理的観点から実施困難であり、試験デザインを “上手く” 組む必要があります。再現性の確認を含め更なる検証が求められるところですが、レジストリ研究やコホート研究等も活用し、結果の方向性を確かめるだけでも価値ある研究となるでしょう。

続報に期待。

crop doctor showing pills to patient in clinic

✅まとめ✅ ランダム化比較試験23件のメタ解析の結果、現在利用可能な経口降圧薬を直接比較した場合、主要評価項目である重症高血圧症のみならず、対象となる副次評価項目のほとんどにおいても有意差は認められなかった。

根拠となった試験の抄録

目的: 妊娠高血圧症候群の治療における経口降圧薬の安全性と有効性を考慮すると、現在利用可能な3種類の薬剤の間で優劣を述べることはできない。そこで、本システマティックレビューおよびネットワークメタアナリシスは、妊娠高血圧症候群に対するメチルドパ、ラベタロール、またはニフェジピンによる出産前治療が、母体または胎児/新生児の罹患率および死亡率に及ぼす影響を明らかにすることを目的とする。

データソース: 2023年8月25日に、PubMed/Medline、Embase、CENTRALで電子検索を実施しました。

研究の適格基準: 対象の経口降圧剤 (メチルドパ、ラベタロール、またはニフェジピン) またはプラセボ/無治療で治療した高血圧妊娠の周産期転帰を報告するランダム化比較試験を特定しました。

研究評価および統合方法: 品質評価は、ランダム化比較試験用のコクラン・バイアスリスクツールを用いて実施し、信頼性はランダム化比較試験の信頼性チェックリストを用いて評価した。事前に定義したアウトカムに関するデータを抽出し、可能な場合はネットワーク推定値を用いて相対リスクを算出した。

結果: 23件の試験(3,989名の女性)がネットワークメタアナリシスに含まれ、その質は全体的に低~中等度であった。プラセボ/無治療と比較して、ラベタロールおよびメチルドパは重症高血圧の発生率を有意に減少させた(8件の研究、相対リスクはそれぞれ0.20 [95%信頼区間0.09-0.48]、0.44 [0.20-0.99])。ネットワークメタアナリシスにおいて、ラベタロールはニフェジピンと比較して、妊娠高血圧症候群(相対リスク0.50 [0.28-0.87]、15件の研究)および早産(相対リスク0.68 [0.52-0.90]、14件の研究)の減少と関連していた。その他の対象アウトカムについては有意差は認められなかった。

結論: 現在利用可能な経口降圧薬を直接比較した場合、主要評価項目である重症高血圧症のみならず、対象となる副次評価項目のほとんどにおいても有意差は認められなかった。妊娠中毒症および早産に関しては、ニフェジピンよりもラベタロールが優れていることを考慮すると、ラベタロールがわずかに優れていると言える。しかしながら、対象とした研究は全体的に質が低く、結果の解釈には注意が必要である。

キーワード: 降圧薬、血圧、高血圧、妊娠性高血圧症、ネットワークメタ分析

引用文献

Oral antihypertensive treatment during pregnancy: a systematic review and network meta-analysis
Rosalie J Hup et al. PMID: 40216176 DOI: 10.1016/j.ajog.2025.04.011
Am J Obstet Gynecol. 2025 Oct;233(4):250-262. doi: 10.1016/j.ajog.2025.04.011. Epub 2025 Apr 10.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40216176/

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