「最近の研究」は本当に最近か?|医学論文における “recent” 表現の実態を検証した横断解析(BMJ 2025)

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Recentの意味するところとは?

医学論文を読んでいると、

“Recent studies have shown that …”

という表現を頻繁に目にします。「最近の研究」と書かれていれば、多くの読者は数年以内の新しい知見を想像するでしょう。しかし、その「recent」は本当に最近なのでしょうか。

今回ご紹介する論文は、医学論文における “recent” という表現が、実際にはどれほど古い研究を指しているのかを定量的に検証した、ややユーモラスでありながら重要なメタ研究です。


試験結果から明らかになったことは?

◆背景

「recent」という言葉は、新規性・最新性・妥当性を暗に示す修辞表現として、医学論文で広く使われています。しかし、

  • 「何年以内なら recent なのか」
  • 「分野によって感覚は違うのか」

といった点について、明確な定義は存在しません。
本研究は、この曖昧さに着目し “recent” という語が引用されている論文と、その引用先研究との時間差(citation lag)を実証的に分析しました。


◆研究概要

項目内容
研究デザイン後ろ向き横断解析
データソースPubMed
対象英語で書かれた全文閲覧可能な医学論文 1,000本
条件“recent” を含む表現が、特定の文献引用と直接結び付けられているもの
解析対象表現“recent study”, “recent studies”, “recent discovery” など事前定義した20表現
主要評価項目論文発表年と「recent」として引用された研究の発表年との差(年)

◆試験結果

1. 「recent」とされた研究の年数分布

指標結果
最小値0年
最大値37年
平均5.53年
中央値4年
四分位範囲(IQR)2–7年
最頻値1年(15.9%)
10年以上前の研究17.7%

「recent」と表現されながら、10年以上前の研究が約2割存在していました。


2. 診療分野別の citation lag(中央値)

分野中央値
集中治療、感染症、遺伝学、免疫学、放射線科約2年
腎臓内科約8.5年
獣医学約10年
歯科約14年

分野によって「recent」の時間感覚が大きく異なることが示されました。


3. 表現別の傾向

表現傾向
“recent study”, “recent discovery”, “recent approach”比較的古い研究を指す傾向
“recent publication”, “recent article”より新しい研究を指す傾向

➡ 同じ “recent” でも、修飾語によって実質的な新しさが異なることが示唆されました。


4. その他の結果

  • 地域差:世界地域間で citation lag に大きな差はなし
  • 時系列変化:近年になるほど citation lag は短縮傾向
  • 雑誌の影響:Impact Factor ≥12 の雑誌では、より新しい研究が引用されやすい

試験の限界

本研究には以下の制約があります。

  1. 対象は PubMed 掲載・英語論文に限定されており、非英語文献や地域誌は含まれていない。
  2. 「recent」という語の使用が意図的か慣習的かは判別できない。
  3. 引用の妥当性(その研究が今も有効かどうか)までは評価していない。
  4. 分野ごとの研究進展速度の違い(研究が少ない分野では古い研究が参照されやすい)を完全には補正できない。
  5. あくまで 表現の実態分析であり、臨床的アウトカムやエビデンスの質を直接評価した研究ではない。

考察

本研究は「recent=新しい」という暗黙の前提が必ずしも成立しないことを、定量データで示しました。

特に批判的吟味の文脈では、

  • 「recent studies have shown…」
  • 「最近の報告では…」

という表現は、読者の批判的吟味を弱める可能性があります。

読者は、

  • 実際の発表年を確認する
  • “recent” という語に依存しすぎない

といった姿勢が求められます。


コメント

◆まとめ

  • 医学論文における「recent」は、0年〜37年と極めて幅広く使われている
  • 約2割は「10年以上前の研究」を「recent」と表現
  • 分野・表現・雑誌によって「recent」の意味は大きく異なる
  • 読者・査読者は、「recent」という言葉を年代確認なしに受け取るべきではない

本研究はやや遊び心のある解析でありながら、医学論文の読み方そのものを問い直す重要な示唆を与えています。

BMJクリスマスの特集は、研究の切り口が斬新ですね。続報に期待。

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✅まとめ✅ 読者と査読者は「Recent」という主張を時系列的に鵜呑みにしないよう注意すべきである。

根拠となった試験の抄録

目的: 生物医学論文と、論文で「最近」と表現される研究との間のタイムラグを定量化すること。「最近」という用語は、引用された証拠の実際の古さを反映することはほとんどないにもかかわらず、適時性を示すために広く使用されています。

デザイン: 事前に定義された 20 個の「最近の」表現の構造化された PubMed 検索に基づく、疑わしいほど時代を超越した引用の遡及的分析。

サンプル: 「最近の」表現が引用に直接リンクされている英語の全文生物医学記事 1,000 件。

主な結果指標: 引用記事と参照されている「最近の」研究間の年数によるタイムラグ。

結果: 引用された「最近の」研究の引用年数は大きく異なっていました。引用ラグは0~37年(平均5.53年、中央値4年、四分位範囲2~7)でした。最も頻繁なラグは1年(n=159、15.9%)で、177件(17.7%)は10年以上前のものでした。引用パターンは医学専門分野によって異なり、集中治療、感染症、遺伝学、免疫学、放射線学ではラグの中央値が比較的短かった(約2年)のに対し、腎臓学、獣医学、歯科ではラグが大幅に長く(8.5~14年)なりました。「最近のアプローチ」「最近の発見」「最近の研究」という表現は古い参考文献にリンクされていましたが、「最近の出版物」と「最近の記事」はより新しい引用でした。引用の遅れは世界各地でほぼ同程度で、時間の経過とともに徐々に減少し、最新の出版物の遅れは最も短くなりました。インパクトファクターの高い(12以上の)ジャーナルは、より最新の研究を引用していました。

結論: この遊び心のある分析は「最近」という言葉が生物医学文献全体にわたって驚くほど柔軟に適用されていることを示唆している。真に最近の研究を引用する著者もいる一方で、その定義を数十年にも及ぶものにまで拡大解釈する著者もいる。読者と査読者は「最近」という主張を時系列的に鵜呑みにしないよう注意すべきである。

引用文献

How recent is recent? Retrospective analysis of suspiciously timeless citations
Alejandro Díez-Vidal et al.
BMJ. 2025 Dec 11:391:e086941. doi: 10.1136/bmj-2025-086941.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41381096/

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