重度アシデミア+急性腎障害に重炭酸ナトリウムは有効か?|大規模RCTが示した「死亡率改善なし」(BICARICU-2試験; JAMA. 2025)

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AKIを呈する代謝性アシデミアに対する重炭酸ナトリウムの効果は?

集中治療領域では、重度の代謝性アシデミア(pH≤7.20)を呈する患者に対し、重炭酸ナトリウム(商品名:メイロン®など)の投与が行われることがあります。しかし、急性腎障害(AKI)を合併した重症患者に本当に有効なのかについては、これまで明確なエビデンスがありませんでした。

今回ご紹介するのは、フランス43施設、640例を対象とした多施設ランダム化比較試験(RCT)で、重炭酸ナトリウム投与が予後に与える影響を検証した重要な研究です。


試験結果から明らかになったことは?

◆背景

従来、重度アシデミアは循環不全や心機能低下の悪化要因となり、緊急の補正が求められる状況です。一方、AKIを合併すると内因性代謝性アシデミアが重くなり、重炭酸ナトリウム投与が選択される場面が増えます。

しかし、

  • 重炭酸投与が死亡率改善につながるか
  • 逆に容量負荷による悪影響が生じないか
  • AKIに対する腎代替療法(RRT, KRT)の必要性に影響するか

といった点は、臨床現場で長年議論されてきました。


◆研究概要

項目内容
研究デザイン多施設・ランダム化・オープンラベル臨床試験
国・施設数フランス 43 ICU
対象患者重度代謝性アシデミア(pH ≤ 7.20)かつ中等度〜重度のAKI
登録数640例(解析対象 627例)
介入群重炭酸ナトリウムを投与し、pH ≥ 7.30を目標に補正
対照群重炭酸ナトリウムなし(通常治療)
主要評価項目90日全死亡
副次評価項目28・180日死亡、腎代替療法(RRT)、血管作動薬、人工呼吸、ICU滞在期間、感染症など

◆試験結果

● 主要評価項目:90日死亡率

死亡率絶対差95%CIp値
重炭酸Na群(n=314)62.1%+0.4%-7.2 〜 8.00.91
対照群(n=313)61.7%

死亡率に差はなし(有意差なし)


● 主な副次評価項目

評価項目結果
腎代替療法(RRT)実施率重炭酸群 35% vs 対照群 50%
(絶対差 -15.5%, 95%CI -23.1 〜 -7.8)
28日死亡群間差なし
180日死亡群間差なし
SOFAスコア(Day7)群間差なし
有害事象群間差なし

RRT必要率は有意に減少したが、死亡率改善は見られず


試験結果の解釈

この試験の最も重要なポイントは次の通りです:

① 死亡率の改善はまったく見られなかった

  • 主要アウトカムの90日死亡率
  • 28日死亡
  • 180日死亡

いずれも差がなく、重炭酸ナトリウム投与は生命予後を改善しないという結果です。


RRT導入は減ったが、臨床アウトカムの改善とは別問題

重炭酸ナトリウム投与群ではRRT導入が35% → 50%より低くなりました。

ただし、

  • RRT導入が減っても
  • 死亡率改善につながらなかった

という点は重要です。
これは「RRT回避=予後改善」とは限らないことを示しています。


安全性は概ね問題なし

重炭酸ナトリウム投与による容量負荷や電解質異常などが懸念されましたが、有害事象に有意差はありませんでした。


試験の限界

  • オープンラベルであり、治療介入の判断にバイアスが入り得る。
  • フランスICUという限定された環境で行われ、他国での一般化は慎重を要する。
  • pH補正以外の治療戦略(循環管理・RRT基準)が施設間で異なる可能性がある。

今後の課題

  • 死亡率以外のアウトカム(腎機能回復、RRT期間、QOLなど)の詳細解析
  • 「どのサブグループに効果があり得るのか」を特定する研究
  • AKI重症度や乳酸値などの背景別解析
  • 生理学モデルに基づいた最適なアシデミア管理戦略の確立

まとめ

このRCTは、これまで議論の多かった「重度アシデミア+AKIへの重炭酸投与」の効果について、最も確実なエビデンスを提供しました。

  • 死亡率:改善なし
  • RRT導入:やや減少
  • その他アウトカム:改善なし

つまり、重炭酸ナトリウム投与は生命予後を改善しないという結論が示されました。

ただし、RRT導入率が低下した点は臨床的に解釈が分かれるため、今後さらなる解析と研究が必要です。

もともと別試験のサブグループ解析の結果で有望だったわけですが、検証試験では否定されたことになります。一方で腎代替療法RRT(論文中ではkidney replacement therapy, KRT)の導入リスク低下は予後改善につながる可能性があります。

続報に期待。

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✅まとめ✅ ランダム化比較試験の結果、重度の代謝性アシデミアおよび中等度から重度の急性腎障害の患者の場合、静脈内重炭酸ナトリウムは死亡率に影響を与えなかった。

根拠となった試験の抄録

試験の重要性: 重度の代謝性酸血症および中等度から重度の急性腎障害の患者に対する重炭酸ナトリウム注入の転帰への影響は不明です。

目的: 重度の代謝性アシデミアおよび中等度から重度の急性腎障害の患者における重炭酸ナトリウムの注入が 90 日目の全死亡率と関連しているかどうかを判断する。

試験デザイン、設定、および参加者: 2019年10月6日から2023年12月19日まで、フランスの43の集中治療室に入院中の患者640人を対象に、ランダム化非盲検臨床試験を実施し、90日間の追跡調査を行った。追跡調査の最終日は2024年6月17日であった。重症代謝性アシデミア(pH≦7.20と定義)および中等度から重度の急性腎障害を有する成人患者が登録された。

介入: 患者は、動脈pHを7.30以上とすることを目標に、重炭酸ナトリウムの静脈内注入を受ける群と、重炭酸ナトリウムを投与しない群に1:1で無作為に分けられました。

主要評価項目および評価基準: 主要評価項目は90日目の全死亡率とした。副次評価項目は、28日目および180日目の全死亡率、臓器サポート療法、昇圧薬、または侵襲的人工呼吸器の使用、集中治療室および入院期間、集中治療室感染症、体液バランス、7日目のSequential [Sepsis-related] Organ Failure Assessment(敗血症関連臓器不全評価)スコア(6つの臓器系の機能を評価し、0 [機能不全なし] から4 [機能不全] までスコア化する。合計スコアは0 [正常] から24 [最大機能不全] までの範囲)、および90日目の主要な有害腎イベントとした。

結果: 無作為に割り付けられた640名の患者のうち、627名が解析対象となった(対照群313名、重炭酸塩群314名)。年齢中央値は67歳(IQR 59~74歳)であり、重炭酸塩群では314名中194名(62%)、対照群では313名中185名(59%)が男性であった。主要解析において、90日目の全死亡率は、重炭酸塩群で314名中195名(62.1%)、対照群で313名中193名(61.7%)であった(絶対差0.4、95%信頼区間 -7.2 ~ 8.0、P=0.91)。28日目および180日目の全死亡率に対する群間影響は認められなかった。 18の副次評価項目のうち、重炭酸塩群の患者314名中109名(35%)、対照群の患者313名中157名(50%)で腎代替療法が実施されました(絶対差 -15.5、95%信頼区間 -23.1 ~ -7.8)。有害事象を含むその他の副次評価項目については、群間の影響を示すエビデンスは認められませんでした。

結論と関連性: 重度の代謝性アシデミアおよび中等度から重度の急性腎障害の患者の場合、静脈内重炭酸ナトリウムは死亡率に影響を与えなかった。

試験登録: ClinicalTrials.gov 識別子 NCT04010630

引用文献

Sodium Bicarbonate for Severe Metabolic Acidemia and Acute Kidney Injury: The BICARICU-2 Randomized Clinical Trial
Boris Jung et al. PMID: 41159812 PMCID: PMC12573113 (available on 2026-04-29) DOI: 10.1001/jama.2025.20231
JAMA. 2025 Oct 29:e2520231. doi: 10.1001/jama.2025.20231. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41159812/

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