タミフル服用で異常行動は増えたのか?|添付文書改訂後の処方動向と副作用報告を検証(Drugs Real World Outcomes. 2024)

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異常行動が心配な方へ

タミフル®(オセルタミビル)はインフルエンザ治療の中心的存在として長年使用されています。しかし2007年、10代での異常行動が相次いで報告され、添付文書に「10歳以上には原則使用しない」という制限が設けられました。

その後、安全性に関する知見の蓄積を経て、2018年にこの年齢制限は撤廃されました。
では、実際に年齢制限解除をきっかけに処方件数は増えたのか?
そして多くの人が気にする「異常行動の副作用報告は増えたのか?

本研究は、この2つの点を日本の医療データベースとJADERを用いて検証したエコロジカル研究です。


試験結果から明らかになったことは?

◆背景

・オセルタミビルと異常行動の因果関係は、これまでの疫学研究で明確な関連は示されていない
・ただし社会的関心の高さから、添付文書には長く「10歳以上は原則使用を差し控える」旨の記載が残っていた。
・2018年の添付文書改訂で、この制限が削除。
実データで安全性動向を評価する必要性が生じた


◆研究概要

項目内容
研究デザインエコロジカル研究
データソース①MDV Analyzer®(DPCデータ)
対象:0〜19歳の外来インフルエンザ患者
データソース②PMDA「医薬品副作用データベース(JADER)」
対象:0〜20歳の抗インフルエンザ薬の副作用報告
比較期間2016/2017シーズン vs 2019/2020シーズン
主評価項目・オセルタミビル処方割合の変化
・異常行動報告数の変化

◆試験結果

① オセルタミビルの処方割合(10〜19歳)

シーズン処方割合変化
2016/20179.3%基準
2019/202029.2%約3倍に増加

添付文書改訂後、10代への処方が大幅に増加


② 異常行動の副作用報告(JADER)

シーズン報告件数(10〜20歳)
2016/20172件
2019/20200件

処方は増えたにもかかわらず、異常行動報告は増加しなかった。


研究の解釈

本研究では以下のポイントが示唆されました:

● 10代でのタミフル処方は、添付文書改訂後に大幅に増加

→「使いやすくなった」影響が処方行動に反映されたと考えられる。

● 異常行動の副作用報告は増えなかった

→ 処方件数の増加に伴う報告増加は確認されていない。
安全性上の大きな懸念は見られないという結果。

なお、研究デザインはエコロジカル研究であるため、因果関係は評価できないが、社会全体としての「増加の兆候なし」という重要なデータが示された。


試験の限界

  • エコロジカル研究のため、個々の患者レベルの因果関係は不明。
  • 異常行動はインフルエンザ自体でも起こるため、正確な原因は特定できない。
  • JADERは自発報告であり、過少報告の可能性がある。
  • インフルエンザ流行状況がシーズンごとに異なるため、比較に影響を与える可能性がある。

今後の検討課題

  • インフルエンザ自体による神経症状を区別した解析
  • 地域差や医療機関別の処方動向分析
  • 他の抗インフルエンザ薬(ラニナミビル、バロキサビルなど)の副作用動向との比較
  • リアルワールドデータによる追加検証

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◆まとめ

本研究は、2018年の添付文書改訂により10代へのタミフル処方割合が約3倍に増えたにもかかわらず、異常行動の副作用報告は増加しなかったという結果を示しました。

現時点では、
「制限解除によって安全性の懸念が高まった」という証拠はない
といえます。

抗インフルエンザ薬の安全性は、社会的な関心が高い分野であり、今後もデータに基づく冷静な評価が求められます。

続報に期待。

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✅まとめ✅ データベース研究の結果、オセルタミビルの添付文書の改訂後、オセルタミビルの処方の割合が増加したにもかかわらず、10歳以上の未成年者におけるオセルタミビル関連の有害事象報告数は増加しなかった。

根拠となった試験の抄録

背景: オセルタミビル投与後の異常行動はメディアで報道されており、2007年にオセルタミビルリン酸塩の添付文書が改訂され、投与対象が10歳以上に制限された。しかし、2018年に添付文書に記載されていた年齢制限は撤廃された。本研究では、オセルタミビルの添付文書改訂後の小児外来患者における抗インフルエンザ薬の処方状況と有害事象(ADR)の動向を生態学的研究として評価した。

方法: 0~19歳のインフルエンザ小児外来患者に対する抗インフルエンザ薬処方箋は、MDVアナライザー®を用いて、急性期診断手順コンビネーション病院データベースからダウンロードした。また、医薬品医療機器総合機構のウェブサイトから、医薬品副作用報告データベースにおける0~20歳の患者に対する抗インフルエンザ薬処方箋に関する副作用報告をダウンロードした。データは、2016/2017年および2019/2020年のインフルエンザシーズンに収集された。

結果: インフルエンザ流行期(1月~3月)に、オセルタミビル添付文書の改訂後、10~19歳のインフルエンザ患者に対するオセルタミビル処方の割合は3倍に増加した(2016/2017シーズンは9.3%、2019/2020シーズンは29.2%)。しかし、異常行動の報告は増加しなかった(2016/2017シーズンは2件、2019/2020シーズンは0件)。

結論: オセルタミビルの添付文書の改訂後、オセルタミビルの処方の割合が増加したにもかかわらず、10歳以上の未成年者におけるオセルタミビル関連のADR報告数は増加しなかった。

引用文献

Trends in Anti-Influenza Drug Prescription and Adverse Drug Reaction Reporting After the Lifting of Oseltamivir Prescribing Restrictions in Pediatric Outpatients: An Ecological Study Using the MDV Analyzer® And the Japanese Adverse Drug Event Report Database
Misaki Tokunaga et al.
Drugs Real World Outcomes. 2024 Jun;11(2):177-184. doi: 10.1007/s40801-023-00414-x. Epub 2024 Jan 18.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38236514/

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