子供も大人も「親切の効果を過小評価」する?|ランダムな親切行動が相手に与える影響を測った実験研究(J Exp Psychol Gen. 2023)

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親切な行動における心理的ハードルとは?

他者に親切にすると、自分自身の幸福感が高まることは多くの研究で示されています。しかし実際には、
「迷惑だと思われないかな…」
「大したことないと思われそう…」
といった不安から、親切な行動をためらってしまう場面も少なくありません。

今回ご紹介する研究は「他者に親切にすると、相手はどれくらい喜ぶのか?」、「その評価を、人は正しく予測できているのか?」という問いを、4歳〜17歳の子どもと大人を対象に実験的に検証したものです。

結果は非常にシンプルかつ強烈で、年齢を問わず共通した心理傾向が明らかになりました。


試験結果から明らかになったことは?

◆研究概要

項目内容
研究デザイン実験的研究(二つの独立実験)
対象Experiment 1:8〜17歳の子ども+大人
Experiment 2:4〜7歳の幼児
課題参加者が他者に「ランダムな親切(random act of kindness)」を行う
主要評価項目・親切を受け取る側(recipient)がどれほど「大きな親切」と感じるか
・親切でどれだけ気分が良くなるか
比較行為者(giver)の予測 vs. 実際の受け手の評価
目的親切の影響を人が「過小評価」してしまう傾向が、何歳頃から現れるのかを検証する

◆結果

◎すべての年齢層で一貫した傾向

子ども(4歳〜17歳)も大人も共通して、
「自分がした親切は、相手にとって大したことではない」
「相手はそこまで喜ばない」
と予測しました。

しかし実際は、受け取り手は
行為者が予測する以上に “大きな親切” と感じ、気持ちが大きく向上していました。

◎年齢による差はほとんどなし

“親切の過小評価バイアス(underestimation bias)”は

  • 幼児(4〜7歳)
  • 小中高生(8〜17歳)
  • 大人
    すべてに共通しており、非常に早期に出現する心理傾向であることが示唆されました。

結果の解釈

研究者はこの結果について、次のような意味を指摘しています。

●心理的ハードルは「幼児期から存在」

人は他者がどう感じるかを正確に想像することが苦手で、
親切の“効果”を一貫して過小評価します。

この誤差は幼児期から確認されているため、

  • 「迷惑かも…」
  • 「大したことないと思われるかも…」
    といった認知的ハードルは社会経験とは関係なく、発達の早期に形成される可能性が示されました。

●過小評価により、親切行動が抑制される

「そこまで喜ばれないはず」と思い込むことで、
本来は相手に大きなプラスをもたらす行動が行われないこともあり得ます。

これは、学校・家庭・職場など、あらゆる場面での人間関係構築の障壁になりうると論文は示唆しています。


試験の限界

  • 親切行為は実験状況下での「特定のタスク」に限定される
  • 文化的差異や文脈による影響は未検証
  • 実験で測定される親切と、日常生活の多様な親切は異なる可能性
  • 長期的な関係性構築への影響までは評価していない

今後の課題

  • 多文化、多言語環境での再現性検証
  • 思春期の社会性発達と「他者の感情予測」の関連分析
  • 親切行動を促す心理的介入(nudgesなど)の実践研究
  • 学校教育における社会情緒スキルの育成プログラムとの連携

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◆まとめ

今回の研究は、
「親切のインパクトを、人は一貫して過小評価する」
という重要な心理メカニズムを、幼児から大人まで幅広い年齢で実証しました。

  • 行為者の予測 →「大したことない」
  • 実際の受け手 →「とても嬉しい」

このギャップは非常に大きく、かつ普遍的であることがわかりました。

親切は、行った本人が想像する以上のポジティブな効果を持ちます。
もし「迷惑かも?」と感じた時は、この研究結果を思い出すことで、
より多くの自然な社会的つながりが生まれる可能性があります。

ただし、いわゆる “お節介” との境界線については言及されていません。もしかすると、やや過小評価であることこそ、過度の親切、過剰なお節介にならないために必要なのかもしれません。

再現性の確認を含めて更なる検証が求められます。

続報に期待。

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✅まとめ✅ 親切な行為は過小評価されていることが明らかとなり、この社会的つながりに対する誤った心理的障壁は、人生の早い段階で生じる可能性が示唆された。

根拠となった試験の抄録

向社会性*は、与える側と受ける側の双方の幸福感を高める社会的つながりを生み出す可能性がありますが、他者がどのように反応するかという懸念から、向社会的な行動をとることを躊躇してしまうことがあります。既存の研究では、こうした懸念が誤っており、人々が自らの向社会性が受ける側にもたらすプラスの影響を過小評価している可能性が示唆されています。発達過程において、誤った期待がいつ生じるかを理解することは、誤った認知的障壁がいつ社会参加を阻害するのかを理解し、関係構築のための介入をいつ開始すべきかを理解するために重要です。子ども(実験1:8~17歳、実験2:4~7歳)と大人に、他者に対して同じ親切な行為をランダムに行ってもらう2つの実験では、両グループとも、親切な行為が受ける側にとってどれほど「大きな」ものに見えるか、そしてその行為が受ける側にどれほどポジティブな感情をもたらすかを著しく過小評価していることが示されています。参加者は、年齢を問わず、向社会性のプラスの影響を著しく過小評価していました。社会的つながりに対する誤った心理的障壁は、人生の早い段階で生じる可能性があります。
*Prosociality: 他者や社会全体に利益をもたらす行動や傾向を指す。援助、共有、寄付、協力などが含まれる。親切とも。

引用文献

Undervaluing the positive impact of kindness starts early
Margaret Echelbarger et al. PMID: 37227842 DOI: 10.1037/xge0001433
J Exp Psychol Gen. 2023 Oct;152(10):2989-2994. doi: 10.1037/xge0001433. Epub 2023 May 25.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37227842/

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