日本における「鼻出血(epistaxis)」治療の実態は?|全国データベースから見えた季節性・地域差・患者背景(Auris Nasus Larynx. 2025)

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鼻出血が多い時期と地域は?

■ 導入

鼻出血は日常的によくみられる症状ですが、その治療には「ガーゼパッキング」と「焼灼(cauterization)」という2つの主要な方法が使われます。
しかし、これらの治療がどの季節に多いのか、どの年代で多いのか、地域差はあるのかといった全国的な傾向は、これまで詳細に解析されていませんでした。

今回ご紹介するのは、日本の全国レセプトデータ(National Database: NDB)を用いて、2019〜2022年度における鼻出血治療の実態を明らかにした研究です。鼻出血治療の「季節性・年齢分布・男女差・地域差」を示した初の全国規模分析となっています。


試験結果から明らかになったことは?

■ 研究概要

項目内容
研究デザイン全国保険請求データ(NDB)を用いた記述的観察研究
対象期間2019〜2022年度
解析対象2つの治療手技
① ガーゼパッキング(hemostasis with gauze packing)
② 焼灼(cauterization)
評価指標月別件数、年齢層、性別、都道府県別件数、標準化請求比(SCR)
目的鼻出血治療の全国的なパターンと地域差を可視化

■ 結果:鼻出血治療の特徴

1. 全体件数

治療手技期間中の総件数
ガーゼパッキング870,819件
焼灼(止血術)523,591件

2. 季節性:冬にピーク

季節傾向
冬(12〜2月)両手技が最も多い(ピーク)
春〜秋比較的少ない

鼻出血の季節変動は古くから指摘されていますが、本研究は全国規模でも一貫して冬季に増加することを示しました。


3. 年齢分布:子どもと高齢者の二峰性(バイモーダル)

年齢層傾向
小児発症多い/ガーゼパッキングを選択されやすい
高齢者男女差が目立つ

小児の鼻出血は前鼻出血が多く、処置もガーゼパッキングが多くなる点が要因として推察されます(ただし論文に解釈は記載なし)。
本研究はあくまで「処置の傾向」を示した記述研究です。


4. 性差:全年齢で男性が多い

性別発生頻度
男性明確に多い
女性全年代で男性より少ない

5. 地域差:西日本 vs 北日本で治療選択が異なる

地域よく使われる治療手技
西日本ガーゼパッキングが多い
北日本焼灼術が多い

研究では、地域差について次の点を指摘しています:

  • 緯度(寒冷地)と焼灼術の選択に関連がある可能性
  • ただし、気候以外の要因(治療文化、医療体制、医師の判断傾向など)も影響している可能性があるとされています(論文より)。

■ 考察

本研究は、鼻出血治療に関する以下の特徴を明確化しました:

  1. 全国的に冬季に増加する一貫した季節パターン
  2. 小児と高齢者に発症が多い「二峰性」分布
  3. 男性優位の性差
  4. 地域差(西日本=パッキング、北日本=焼灼術)

研究者らは「気候条件だけで説明できる現象ではない」と述べており、医療現場の治療方針、地域の医療提供体制、医師の嗜好など複数の要因が考えられるとしています。


■ 試験の限界

本研究の限界点:

  • 本研究は記述的研究(descriptive study)であり、因果関係は評価できない
  • NDBは診療報酬上の手技の算定を反映しており、臨床所見の詳細は含まれない
  • 各地域での医療文化・診療スタイルの違いが背景にある可能性があるが評価できない
  • 外来と入院の区分、重症度、再発回数などの詳細情報は不明

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■ まとめ

本研究は、日本全体の鼻出血治療を4年間・約140万件以上のデータで解析した初の研究であり、以下の重要な知見を示しました:

  • 冬に最も多く発生する季節性
  • 小児と高齢者で多い二峰性の年齢分布
  • 全年齢で男性が多い
  • 西日本はガーゼパッキングが多く、北日本は焼灼術が多い

これらの結果は、鼻出血診療の全国的な特徴を示すだけでなく、地域特性や医療提供体制を理解するうえでの重要な基礎データとなります。

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✅まとめ✅ 日本のデータベース研究の結果、鼻血治療における季節性、人口動態、地域性の明確な変動が明らかとなった。西日本はガーゼパッキングが多く、北日本は焼灼術が多かった。

根拠となった試験の抄録


目的: 
本研究の目的は、日本における鼻血治療の全国的な傾向、人口分布、地域差などを分析することであった。本研究は、全国規模の行政データベースを用いた記述的観察研究である。

方法: 2019~2022年度のレセプトデータベースのオープンデータを分析し、鼻出血に対する2種類の治療法(ガーゼパッキングによる止血と焼灼)を検討した。治療パターンは、月、年齢、性別、居住都道府県別に評価した。地域比較のため、間接標準化を用いて標準化請求比率を算出した。結果:研究期間中、870,819件のガーゼパッキング処置と523,591件の焼灼処置が記録された。両処置は一貫した季節パターンを示し、冬(12月から2月)にピークを迎えた。年齢分布は二峰性パターンを示し、小児と高齢者で発生率が高く、全年齢層で男性が多かった。小児患者はガーゼパッキングを受ける可能性が高かった。地理的分析では、西日本でガーゼパッキングが好まれ、北日本で焼灼術がより頻繁に行われており、高緯度との潜在的な関連が示唆された。

結論: 本研究は、日本における鼻血治療における季節性、人口動態、地域性の明確な変動を明らかにした初の全国調査である。これらの知見は、気候以外の要因が治療選択に影響を与える可能性を示唆している。

キーワード: 焼灼術、鼻血、ガーゼパッキング、止血、全国データベース

引用文献

Nationwide descriptive epidemiological study of epistaxis treatment using the national database of Japan
Seiichiro Makihara et al. PMID: 40876073 DOI: 10.1016/j.anl.2025.08.001
Auris Nasus Larynx. 2025 Oct;52(5):575-580. doi: 10.1016/j.anl.2025.08.001. Epub 2025 Aug 27.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40876073/

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