一包化後の薬剤保管で注意することとは?
高齢患者では服薬管理の利便性を高めるため、一包化調剤(同時刻に服用する複数の薬剤を1袋にまとめる方法)が広く行われています。
しかし、一包化により薬剤同士が物理的・化学的に影響し合い、安定性や溶出性が変化する “配合変化” が起こる場合があります。
旭川医科大学病院の薬剤師チームは、実際の持参薬確認業務中に、バイアスピリン®錠100mg(アスピリン腸溶錠)とミカルディス®錠40mg(テルミサルタン錠)が一包化状態で融合している事例を複数確認しました。
この現象の原因と影響を検証した研究結果をご紹介します。
背景:なぜアスピリンとテルミサルタンを一包化するのか
バイアスピリン®(アセチルサリチル酸)は抗血小板薬、ミカルディス®(テルミサルタン)はARB(高血圧治療薬)であり、心血管疾患の二次予防で併用されることが多い組み合わせです。
両薬剤を一包化することで、服薬アドヒアランスを高める狙いがあります。
しかし、腸溶錠であるバイアスピリンと、素錠であるミカルディスを直接接触させた状態で保存した場合、湿度や添加物の違いが相互作用を起こす可能性があります。
研究概要
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 目的 | バイアスピリン®錠とミカルディス®錠の一包化による配合変化とそのメカニズムを評価 |
| 対象薬剤 | バイアスピリン®錠100mg、ミカルディス®錠40mg |
| 条件 | 30℃・相対湿度(RH)75%および93%で1週間保存 |
| 評価項目 | 外観変化、重量・硬度、アスピリン含量、溶出率 |
| 分析法 | 高速液体クロマトグラフィー(HPLC)でアセチルサリチル酸(ASA)およびサリチル酸(SA)を定量 |
| 比較 | 一包化群(BA+Mic40) vs 単独保存群(BA単独) vs コントロール(PTP) |
主な結果
| 項目 | 結果概要 | 判定 |
|---|---|---|
| 外観 | 30℃/75%RHおよび93%RHで錠剤同士が接着・融合。特に高湿度下では変色・形状変化が著明。 | 規格外変化 |
| 重量変化率 | ミカルディスで最大18.1%増加(吸湿) | 吸湿性高 |
| 硬度 | ミカルディスが軟化し測定不能(30℃/93%RH) | 規格外変化 |
| アスピリン含量 | 一包化群で約9.2%低下(p<0.05) | 規格外変化 |
| サリチル酸(分解物) | 一包化群で有意に上昇(分解促進) | — |
| 溶出率(pH6.8) | 一包化群で30分時点3.8%、120分時点32.9%と著しく低下 | 規格外変化 |
| ASA分解率 | 一包化群で26%(コントロール8%) | 分解促進 |
配合変化のメカニズム
研究の詳細解析により、以下の要因が関与していることが明らかになりました。
1. ミカルディス錠の吸湿・塩基化作用
ミカルディス錠にはメグルミン(吸湿性・塩基性添加物)が含まれており、湿度下で塩基性溶液を生成します(pH約9.7)。
この塩基性環境により、バイアスピリンの腸溶性コーティング(メタクリル酸コポリマーLD)が溶解し、粘着性を持つことで錠剤同士が融合します。
2. アスピリンの加水分解促進
腸溶膜が崩壊することで、アセチルサリチル酸(ASA)が水分や塩基と反応し、サリチル酸(SA)へ加水分解されます。
これにより、有効成分量が減少し、溶出率も低下しました。
3. 他の腸溶性製剤でも同様の傾向
同じコーティング剤(メタクリル酸コポリマーLD)を含むパキシルCR錠やカルナクリン錠とミカルディスの一包化でも同様の融合現象が確認されました。
考察
この研究により、以下の重要な知見が得られました:
- 湿度が高い環境下では、吸湿性添加物を含む素錠と腸溶錠の組み合わせは極めて危険
- アスピリン腸溶錠の有効成分(ASA)は、塩基性環境で分解しやすい
- 腸溶コーティング剤(メタクリル酸コポリマーLD)は塩基に不安定
したがって、メグルミン含有製剤(例:ミカルディス®)と腸溶錠(例:バイアスピリン®)の一包化は避けるべきと結論づけられました。
臨床的意義
- 調剤現場では、「併用薬としての相性」だけでなく、剤形や添加物の相互作用に注意が必要。
- 特に、湿度管理(分包機・保管庫内RH)の徹底が重要。
- 医師・薬剤師間で「一包化禁忌の組み合わせ」を共有する体制づくりが求められます。
まとめ
| 要点 | 内容 |
|---|---|
| 発見 | バイアスピリン®とミカルディス®の一包化で錠剤が融合 |
| 原因 | ミカルディスの添加物メグルミンが吸湿し塩基化 → アスピリン腸溶膜を溶解 |
| 影響 | アスピリン含量低下・溶出遅延・分解促進 |
| 対策 | 両剤の一包化は避ける/湿度管理を徹底 |
この研究は、腸溶錠と素錠の一包化リスクを初めて科学的に検証した報告であり、実務において非常に示唆に富む結果です。
薬剤師は「成分の相互作用」だけでなく、「剤形・添加物・保存条件」の観点からも配合変化を予測・回避する必要があります。
エアコンをつけない高齢者も増えていますので、特に夏場の医薬品管理状況の確認は重要です。きちんと飲んでいても、そもそも薬の含有量が低下していれば、充分な効果は得られないでしょう。
他の薬剤でも同様の変化が生じるのか気にかかるところです。
続報に期待。

✅まとめ✅ アスピリン腸溶錠とテルミサルタン錠の一包化包装を30℃/相対湿度(RH)75%または93%の条件で1週間保存すると、アスピリン腸溶錠の含有量と溶出速度の低下が観察された。
根拠となった試験の抄録
背景: 高齢者における複雑な服薬管理において、単回投与包装(一包化)は有用である。我々は薬剤照合時に、バイアスピリン®錠100mg(BA)とミカルディス®錠40mg(Mic 40)が単回投与包装内で融合した症例を経験した。我々の知る限り、この物理的不適合による錠剤品質への影響を評価した先行報告は存在しない。そこで本研究では、この現象と薬剤組成への影響を検証するとともに、そのメカニズムの解明を目的とした。
方法: 単回投与包装内のBAおよびMic 40を30℃/相対湿度(RH)75%または93%の条件で1週間保存した。安定性評価は外観変化、硬度、含有量、溶出速度について実施した。メカニズム解明のため各錠剤の有効成分を調査した。
結果: Mic 40では外観と硬度の変化が認められた一方、BAでは外観の変化に加え、含有量と溶出速度の低下が観察された。BAの腸溶性コーティングとMic 40の添加剤が不適合のメカニズムに影響を与えた。Mic 40に含まれるメグルミンは吸湿性・潮解性を有する。このためメグルミンは水分を吸収し塩基性溶液となる。この塩基性溶液に溶解したメタクリル酸共重合体LDはMic 40と付着し、BAにおける含有量と溶出速度の低下を招く。
結論: 本研究は、単回投与包装におけるアスピリン腸溶錠と非コーティングテルミサルタン錠の物理的不適合性を分析した初めての研究であり、臨床実践に有用な情報を提供する。
キーワード: 単回投与包装、不適合性、アスピリン、テルミサルタン
引用文献
The Physical Incompatibilities of Enteric-coated Aspirin Tablets with Non-coated Telmisartan Tablets in One-dose Packages Lead to a Decreased Content and Dissolution Rate of Aspirin
医療薬学44(7): 333―340; 2018年
ー 続きを読む https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjphcs/44/7/44_333/_pdf

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