高齢高血圧患者における厳格な血圧管理は長期的にも有益か?|STEP試験の延長追跡結果から(RCT; J Am Coll Cardiol. 2025)

woman taking the blood pressure of a man in blue sweater 02_循環器系
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高齢者の血圧コントロールはどのように行うとよいのか?

「高齢者では、血圧を下げすぎないほうがよい」という考えは長く議論されてきました。しかし、近年のSTEP試験(Strategy of Blood Pressure Intervention in the Elderly Hypertensive Patients)では、収縮期血圧(SBP)を厳格に管理することで、主要心血管イベント(MACE)を有意に減らせることが報告されました。

今回ご紹介する論文は、このSTEP試験の延長追跡研究(extended follow-up study)であり、厳格な血圧管理を長期的に続けることの意義を検証しています。


試験結果から明らかになったことは?

◆背景

オリジナルのSTEP試験(NEJM, 2021)では、60〜80歳の高血圧患者8,511例を対象に、

  • 厳格治療群:SBP目標 110〜<130 mmHg
  • 標準治療群:SBP目標 130〜<150 mmHg
    に無作為割付し、約3.3年の追跡で心血管イベントリスクが26%低下することが示されました。

しかし、試験終了後に両群とも厳格治療を受けた場合、その後の心血管イベントや安全性がどう変化するかは明らかではありませんでした。


◆研究概要

項目内容
試験デザイン多施設・ランダム化比較試験(延長追跡解析)
対象STEP試験の登録患者8,511例(高血圧・年齢60〜80歳)
介入初期割付に基づく2群比較:
持続厳格治療群(当初からSBP 110〜130 mmHg)
遅延厳格治療群(当初標準→延長期から厳格管理へ)
追跡期間中央値 6.11年
主要評価項目複合心血管イベント(脳卒中、ACS、心不全、冠血行再建、心房細動、心血管死)
解析手法Fine–Gray subdistribution hazard model, G-formula解析

◆試験結果(表)

評価項目持続厳格治療群遅延厳格治療群HRまたはRR (95%CI)備考
平均SBP127.9 mmHg129.5 mmHg有意差あり
主要複合イベント発生率1.12%/年1.33%/年HR 0.82 (0.71–0.96)有意に低下
低血圧発生やや高頻度少ない有意差あり(その他有害事象差なし)
G-formula解析厳格治療を即時開始
vs.
1年遅延
RR 0.83 (0.70–0.96)
vs.
RR 0.88 (0.76–0.99)
即時開始で最も効果大

◆結果の解釈

この結果から、厳格な血圧管理を早期に開始し、継続することで長期的な心血管保護効果が得られることが明らかになりました。
とくに注目すべきは、g-formula解析による「治療開始時期の違い」に関する検討で、1年遅れて厳格管理を開始した場合でもリスク低減効果は減弱しており、早期介入の重要性が示唆されました。

また、安全性については、低血圧イベントを除いて両群間に差はなく、高齢者でも慎重にモニタリングすれば厳格治療は概ね安全に実施可能と考えられます。


◆試験の限界

  • 中国人高齢者を対象とした試験であり、他の人種・医療環境への外挿には注意が必要
  • 延長期では全例が厳格管理に移行しており、長期的な標準治療群との直接比較は困難
  • 一部イベントは自己申告ベースであり、判定のばらつきの可能性を否定できない。

◆今後の課題

  • 他の民族集団や合併症を有する患者における再現性の検証。
  • 長期厳格管理による認知機能・腎機能・転倒リスクなど非心血管アウトカムの評価。
  • 厳格治療をいつまで続けるべきかという至適期間の検討

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◆まとめ

STEP試験の延長追跡研究では、

  • 厳格なSBP管理(110〜130 mmHg)を早期に開始し、継続することで長期的な心血管イベントを有意に減少させることが示されました。
  • 治療開始が遅れると、その効果は部分的に減弱する可能性があります。
  • 一方で、低血圧のリスクはやや上昇するため、特に高齢者では個々の耐容性を考慮した管理が必要です。

本研究は「いつから、どこまで下げるか」という高齢高血圧治療の実臨床課題に対し、早期からの厳格介入の有用性を裏付けるエビデンスとなりました。

ただし、延長試験であることから、当初設定されたランダム化は破綻しています。あくまでも傾向が過ぎされたにすぎません。

より長期的な追跡となるとランダム化比較試験だけでは困難であり、コホート研究などで補完することも一つの選択肢となります。

いずれにしても再現性の確認を含めて更なる検証が求められます。

続報に期待。

hand resting on a person s forearm

✅まとめ✅ STEP試験の延長追跡調査の結果、高血圧患者に対し、持続的な強化血圧コントロールは、開始が遅延した場合と比較して有益性が高いことが示唆された。高血圧診断後、強化治療を早期に開始するほど、心血管系へのベネフィットは大きくなるかもしれない。

根拠となった試験の抄録

背景: STEP (高齢高血圧患者に対する血圧介入戦略) 試験では、収縮期血圧 (SBP) の徹底的な管理により心血管リスクが軽減されることが示されました。

目的: 研究者らは、強化血圧 (BP) コントロールの長期的な影響を明らかにするために、STEP 試験の延長追跡調査を実施しました。

方法: このランダム化比較試験では、高血圧患者 8,511 名が、収縮期血圧目標が 110 mmHg ~ 130mmHg未満の強化治療群、または収縮期血圧目標が 130 mmHg ~ 150 mmHg 未満の標準治療群にランダムに割り当てられた。最初の試験終了後、標準群または強化治療群に以前所属していた生存患者全員が、延長期間に集中治療を受け、遅延強化治療群または持続強化治療群と呼ばれた。主要評価項目は、脳卒中、急性冠症候群、急性非代償性心不全、冠動脈血行再建術、心房細動、または心血管系の原因による死亡の複合であった。Fine-Gray サブ分布ハザード モデルを使用して 2 群間の HR を推定し、g 式法を使用して、ランダム化から開始された強化治療とランダム化後毎年開始される強化治療の全体的な主要評価項目のリスクを比較した。

結果: 中央値6.11年の追跡期間後、平均収縮期血圧(SBP)は持続強化治療群で127.9mmHg、遅延強化治療群で129.5mmHgであった。主要アウトカムの発生率は、持続強化治療群で1.12%/年、遅延強化治療群で1.33%/年であった(HR 0.82、95%信頼区間 0.71-0.96)。安全性イベント発生率は、持続強化治療群でより高頻度に認められた低血圧を除き、両群間に差は認められなかった。さらに、パラメトリックg式を使用した解析により、標準的なBP治療と比較して、ランダム化 (0か月) から開始した集中治療で最大の利益 (相対リスク [RR] 0.83、95%CI 0.70-0.96) が得られ、12 か月以降に開始した場合は心血管系の利点が弱まる (RR 0.88、95%CI 0.76-0.99) ことが示されました。

結論: 本研究の結果は、長期追跡調査において、高血圧患者に対し、持続的な強化血圧コントロールは、遅延した強化治療と比較して有益性が高いことを示唆した。高血圧診断後、強化治療を早期に開始するほど、心血管系へのベネフィットは大きくなる。

試験登録番号: 高齢高血圧患者における血圧介入戦略 [STEP]; NCT03015311

キーワード: 心血管疾患の結果、高血圧、集中的な血圧管理

引用文献

Intensive Blood Pressure Control in Older Patients With Hypertension: 6-Year Results of the STEP Trial
Qirui Song et al. PMID: 41105077 DOI: 10.1016/j.jacc.2025.06.045
J Am Coll Cardiol. 2025 Sep 8:S0735-1097(25)07023-8. doi: 10.1016/j.jacc.2025.06.045. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41105077/

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