電解質異常が起こりやすい背景とは?
◆導入
高血圧や心不全の治療で広く用いられる利尿薬。しかし、その有用性の一方で、低カリウム血症や高カリウム血症などの電解質異常は代表的な副作用として知られています。
今回ご紹介するのは、日本の実臨床データを用いて、性別・腎機能・年齢が利尿薬による電解質異常にどのように影響するかを解析した研究結果報告です。
特に、高齢女性での低カリウム血症リスクが明確に示されており、薬剤管理の現場に重要な示唆を与えます。
試験結果から明らかになったことは?
◆背景
利尿薬は、ナトリウム・水分排泄を促すことで血圧や体液量を調整する薬剤です。しかし、同時にカリウムやナトリウム、マグネシウムなどの電解質も排泄されやすくなります。
特に、ループ利尿薬(フロセミドなど)やチアジド系利尿薬では低カリウム血症、カリウム保持性利尿薬では高カリウム血症が問題となることがあります。
これまでの報告から、女性や高齢者では利尿薬による電解質異常が起こりやすいとされていましたが、その背景にある腎機能との関連を含めた包括的解析は限られていました。
◆研究概要
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 研究デザイン | 日本のレセプトデータ(DeSC Healthcare, Inc.)を用いた後ろ向き解析 |
| 対象期間 | 2020年4月〜2021年3月 |
| 対象患者数 | 67,135例(利尿薬処方患者) |
| 目的 | 性別・年齢・腎機能(eGFR)が利尿薬誘発性電解質異常に及ぼす影響を評価する |
| 主要評価項目 | 高カリウム血症および低カリウム血症の発生率 |
| 解析手法 | カイ二乗検定、オッズ比(95%信頼区間)算出による層別解析 |
◆試験結果(表)
1. 性別による電解質異常の違い
| 異常の種類 | 男性(例数) | 女性(例数) | p値 | 傾向 |
|---|---|---|---|---|
| 高カリウム血症 | 326 | 271 | 0.003 | 男性に多い |
| 低カリウム血症 | 285 | 413 | <0.001 | 女性に多い |
➡ 低カリウム血症は女性に多く、高カリウム血症は男性に多い傾向が統計的に有意でした。
2. 高齢女性における低カリウム血症リスク
高齢者(75歳以上)を対象に、eGFR別に解析した結果が以下の通りです。
| 年齢層 | eGFR区分 (mL/min/1.73m²) | 女性 vs. 男性 オッズ比(95%CI) | 傾向 |
|---|---|---|---|
| ≥75歳 | 60〜30 | 1.47(1.13–1.91) | 女性で有意に高い |
| ≥75歳 | <30 | 2.05(1.08–4.10) | 女性で約2倍高い |
➡ 腎機能が低下した高齢女性ほど低カリウム血症リスクが上昇。
特にeGFR<30群では、男性に比べ約2倍の発生リスクが認められました。
◆考察
この研究は、性別・腎機能・年齢という3要因が重なった際に副作用リスクが顕著に上昇することを明らかにしました。
とくに高齢女性では、体内水分量の減少、腎尿細管でのカリウム再吸収能の低下、さらにホルモン(エストロゲン)の影響など、複数の要因が重なる可能性があります。
一方で、男性では筋肉量が多く、細胞内カリウムの割合が高いことから、高カリウム血症が起こりやすい傾向が見られました。
◆臨床的意義
- 利尿薬投与時は性差を考慮したモニタリングが重要
- 特にeGFR<60 mL/min/1.73m²の高齢女性では血清K値の定期チェックが推奨される
- 低カリウム血症の早期兆候(筋力低下、食欲不振、不整脈など)に注意
- 他剤(ACE阻害薬、ARB、β遮断薬など)との併用時は電解質変動の方向性が逆転する場合もあり、薬物相互作用を含めた総合的リスク評価が必要
◆試験の限界
- レセプトデータを用いた解析のため、投与量・薬剤種類・血清電解質値の時系列変化までは把握できない
- 高カリウム血症や低カリウム血症の診断基準はコードベースであり、軽度の異常は除外されている可能性がある
- 因果関係の確認には前向き研究が必要
◆まとめ
本研究は、日本の6万7千人を超える実臨床データを解析し、以下を明らかにしました:
- 低カリウム血症は女性で有意に多い(特に75歳以上)
- 腎機能が低い高齢女性ではリスクが最大(OR 2.05)
- 高カリウム血症は男性でやや多い
この結果から、利尿薬使用時は「高齢・女性・腎機能低下」の3要素に注目したモニタリングが極めて重要であることが示唆されます。薬剤師や医師は、性差と腎機能を意識したフォローアップ体制を整えることが望まれます。
本研究は、実臨床のデータを採用しており、かつ客観的なデータが採用されていることから、バイアスが入り込む余地は少ないでしょう。
そもそも腎機能低下の有無に関わらず、K値とCa値の測定はルーティンに行われているでしょう。低K血症の場合、Mg値が低下していることがあります。この場合は、先にMg値の是正が必要です。
基準値からの “ズレ” がどこから生じているのか背景情報の取得が求められます。
続報に期待。

✅まとめ✅ 日本のデータベース研究のうち、75歳以上の女性のうち、eGFRが低い群(60~30歳および30歳未満)では、男性と比較して低カリウム血症のオッズが高かった。
根拠となった試験の抄録
はじめに: 利尿薬は、高血圧症および心不全の治療に日本において広く使用されています。電解質異常は利尿薬の一般的な副作用であり、生命を脅かす可能性があります。過去の研究では、利尿薬誘発性の電解質異常は女性に多く見られることが示されています。電解質バランスは腎臓によって調節されており、腎機能は加齢とともに低下する傾向があります。
目的: 本研究の目的は、性別、腎機能、年齢が利尿薬誘発性電解質異常に対する感受性に及ぼす影響を考慮し、利尿薬に対する有害反応のリスクが高い患者を特定することであった。
方法: 日本における利尿薬服用患者67,135名の請求データは、DeSCヘルスケア株式会社から入手した。データは2020年4月から2021年3月までの期間を対象としている。
結果: カイ二乗検定を用いた患者数の解析では、高カリウム血症は男性で女性より多く(326 vs. 271; p=0.003)、低カリウム血症は女性で男性より多く(413 vs. 285; p<0.001)認められた。女性については、年齢と腎機能(推定糸球体濾過率[eGFR])を考慮して、オッズ比(OR)と95%信頼区間(CI)を算出した。 75歳以上の高齢患者では、女性が男性と比較し低カリウム血症を発症するオッズは、eGFR 60~30 mL/分/1.73m2では1.47(95%CI 1.13 ~1.91)、eGFR 30 mL/分/1.73m2未満では2.05(95%CI 1.08~4.10)であった。
結論: 75歳以上の女性のうち、eGFRが低い群(60~30歳および30歳未満)では、男性と比較して低カリウム血症のオッズが高かった。これらのデータは、eGFRが低い高齢女性において、利尿薬の副作用、特に低カリウム血症のモニタリングの重要性を浮き彫りにしている。
引用文献
Sex Differences in Electrolyte Disturbances Among Diuretic Users According to Renal Function and Age
Narumi Maida et al. PMID: 40560472 PMCID: PMC12422990 DOI: 10.1007/s40264-025-01564-3
Drug Saf. 2025 Oct;48(10):1149-1159. doi: 10.1007/s40264-025-01564-3. Epub 2025 Jun 25.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40560472/

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