DAPTの早期中止として “4日間” は有効なのか?
急性冠症候群(ACS)で経皮的冠動脈インターベンション(PCI)を受けた患者では、アスピリン+P2Y12阻害薬による二剤併用抗血小板療法(DAPT)が標準治療として行われます。しかし、DAPTは出血リスクを伴うため、早期からアスピリンを中止してP2Y12阻害薬単剤とする戦略の有効性と安全性が注目されています。
そこで今回ご紹介するのは、ACSでPCIに成功した患者におけるP2Y12阻害薬単剤群とDAPT継続群について12か月間検証した非盲検ランダム化比較試験(NEO-MINDSET試験)の結果をご紹介します。
試験結果から明らかになったことは?
◆研究概要(NEO-MINDSET試験)
- 試験デザイン:多施設共同・オープンラベル・ランダム化試験
- 対象:ACSでPCIに成功した患者
- 介入:入院後4日以内に以下の2群へランダム化
- P2Y12阻害薬単剤群(チカグレロルまたはプラスグレル)
- DAPT継続群(アスピリン+P2Y12阻害薬)
- 治療期間:12か月
- 主要評価項目:
- 死亡・心筋梗塞・脳卒中・緊急再血行再建の複合(非劣性試験)
- 大出血または臨床的に有意な出血(優越性試験)
◆結果(12か月追跡)
アウトカム | P2Y12単剤群(n=1712) | DAPT群(n=1698) | 群間差・統計結果 |
---|---|---|---|
複合アウトカム(死亡・心筋梗塞・脳卒中・再血行再建) | 7.0%(119例) | 5.5%(93例) | 群間差:+1.47% (95%CI:-0.16~3.10) 非劣性は示されず(P=0.11) |
大出血または臨床的に有意な出血 | 2.0%(33例) | 4.9%(82例) | 群間差:-2.97% (95%CI:-4.20~-1.73) |
ステント血栓症 | 12例 | 4例 | 差あり(単剤群でやや多い) |
◆結果の解釈と臨床的意義
- P2Y12阻害薬単剤療法は出血リスクを半減させる一方で、虚血イベント抑制ではDAPTに劣らないとは言えなかった(非劣性未達成)。
- ステント血栓症が単剤群でやや多かった点は臨床的に重要であり、慎重な適応判断が必要です。
- 特に高リスク患者や早期イベントの多い症例では、DAPT継続が依然として安全策となる可能性があります。
◆試験の限界と今後の課題
- オープンラベル試験であり、イベント評価にバイアスが入り得る。ただし、複合アウトカムに含まれる
- 対象はブラジルの施設に限られた集団で、他の人種・地域への一般化には注意が必要。
- 高リスク集団やステント血栓症の詳細な解析は今後の検証が望まれます。
◆まとめ
NEO-MINDSET試験は、ACS後の治療戦略として「アスピリン早期中止+P2Y12阻害薬単剤」が出血抑制に有効である一方、虚血イベント抑制では非劣性を証明できなかったことを示しました。
現時点では、出血リスクの高い患者に選択肢として検討する余地はあるが、標準治療の置き換えには慎重な判断が必要といえます。
そもそもDAPT期間を4日に設定している根拠が乏しいと考えられます。これまでの試験結果から少なくとも3か月間はDAPT期間を設けた方が良さそうです。これも患者背景により異なるため、将来の心血管イベントの発症リスクを低減させるために、出血リスクの低い患者では半年から1年、出血リスクの高い患者では3か月経過後にSAPTなど、柔軟な対応が求められます。
続報に期待。

✅まとめ✅ 非盲検ランダム化比較試験の結果、急性冠症候群に対するPCIが成功した患者において、強力なP2Y12阻害剤単独療法は、12か月時点での死亡または虚血性イベントの複合に関して、抗血小板療法2剤併用療法に対して非劣性が認められなかった。
根拠となった試験の抄録
背景: 経皮的冠動脈インターベンション (PCI) が成功した直後に開始されるアスピリンを含まない強力な P2Y12 阻害剤単独療法が、急性冠症候群の患者に有効かつ安全であるかどうかは不明である。
方法: ブラジルにおいて、PCIが成功した急性冠症候群患者を対象とした多施設共同、非盲検、無作為化試験を実施した。患者は入院後4日以内に、アスピリン投与を中止し、強力なP2Y12阻害薬単剤療法(チカグレロルまたはプラスグレル)を受ける群、または2剤併用抗血小板療法(アスピリンと強力なP2Y12阻害薬)を受ける群に1:1の割合で割り付けられた。12ヶ月間評価された2つの主要評価項目は、全死因死亡、心筋梗塞、脳卒中、または緊急標的血管血行再建術(非劣性検定、非劣性マージン2.5パーセントポイント)と、重大または臨床的に重要な非重大出血(優越性検定)の複合であった。
結果: 計3,410例が治療意図集団(ITT)に含まれた(単剤療法群1,712例、抗血小板薬2剤併用療法群1,698例)。12ヵ月時点で、全死因死亡、心筋梗塞、脳卒中、または緊急血行再建術は、単剤療法群で119例(カプラン・マイヤー法推定値 7.0%)、抗血小板薬2剤併用療法群で93例(カプラン・マイヤー法推定値 5.5%)に認められた(絶対リスク差 1.47パーセントポイント、95%信頼区間[CI] -0.16 ~ 3.10、非劣性P=0.11)。重大出血または臨床的に重要な非重大出血は、単剤療法群で33例(カプラン・マイヤー法による推定値 2.0%)、抗血小板薬2剤併用療法群で82例(カプラン・マイヤー法による推定値 4.9%)に認められました(絶対リスク差 -2.97パーセントポイント、95%信頼区間 -4.20 ~ -1.73)。ステント血栓症は、単剤療法群で12例、抗血小板薬2剤併用療法群で4例に認められました。
結論: 急性冠症候群に対するPCIが成功した患者において、強力なP2Y12阻害剤単独療法は、12か月時点での死亡または虚血性イベントの複合に関して、抗血小板療法2剤併用療法に対して非劣性であるとは認められなかった。
資金提供: ブラジル保健省の資金提供、NEO-MINDSET ClinicalTrials.gov番号、NCT04360720 )。
引用文献
Early Withdrawal of Aspirin after PCI in Acute Coronary Syndromes
Patricia O Guimarães et al. PMID: 40888723 DOI: 10.1056/NEJMoa2507980
N Engl J Med. 2025 Aug 31. doi: 10.1056/NEJMoa2507980. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40888723/
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