心筋梗塞後の二重抗血小板療法は短縮できる?P2Y12阻害薬単剤への移行で出血リスクを減らせる可能性(Open-RCT; TARGET-FIRST試験; N Engl J Med. 2025)

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DAPTは短縮できるのか?

急性心筋梗塞(AMI)を発症した患者に対しては、経皮的冠動脈形成術(PCI)後に二剤併用抗血小板療法(DAPT:アスピリン+P2Y12阻害薬)が標準的に行われています。しかし、近年の治療技術の進歩により、短期間のDAPT後にP2Y12阻害薬単剤へ移行しても安全なのではないか、という点が注目されています。しかし、充分に検証されていません。

そこで今回は、1ヵ月のDAPT後にP2Y12阻害薬(プラスグレルあるいはチカグレロル)に移行した場合とDAPTを12ヵ月実施した場合の患者転帰について比較検証した非盲検ランダム化比較試験(TARGET-FIRST試験)の結果をご紹介します。


試験結果から明らかになったことは?

◆研究の概要

  • 対象:急性心筋梗塞を発症し、PCIで完全血行再建を受けた患者
  • 条件:1か月間DAPTを継続し、その間に合併症(虚血や大出血)なし
  • 介入
    • P2Y12阻害薬単剤に移行した群(961人)
    • DAPTをさらに11か月継続した群(981人)
  • 主要評価項目:死亡・心筋梗塞・ステント血栓症・脳卒中・重度出血の複合アウトカム
  • 副次評価項目:臨床的に意味のある出血(BARC type 2, 3, 5)

◆主な結果

アウトカムP2Y12単剤群DAPT群結果
複合アウトカム(死亡/心筋梗塞/ステント血栓症/脳卒中/重度出血)2.1%2.2%差なし(非劣性)
臨床的に意味のある出血2.6%5.6%有意に減少
(HR 0.46, P=0.002)
ステント血栓症低頻度低頻度差なし
重篤有害事象類似類似差なし

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◆結果の解釈

  • P2Y12阻害薬単剤への移行は、心血管イベントの抑制効果を保ちながら出血リスクを有意に減らす可能性が示されました。
  • 特に低リスクのAMI患者では、DAPTを長く続けるよりも、早期に単剤へ切り替える方が有益なケースがあるかもしれません。

◆研究の限界

  • 対象は低リスク患者に限定されており、高リスク群(例:糖尿病、複雑病変)の結果は不明。
  • オープンラベル試験であるため、観察や診断にバイアスが入り込む可能性あり。ただし、アウトカムは客観的な指標が多いため、バイアスリスクは最小限であると考えられる。
  • フォローアップ期間は12か月と比較的短く、より長期の安全性は今後の検討が必要。

◆まとめ

今回の研究は「1か月DAPT → P2Y12阻害薬単剤」という治療戦略が、イベント抑制効果を損なわずに出血を減らせる可能性を示しました。
今後は、より多様な患者層や長期フォローアップでの検証が待たれます。

再現性の確認を含めて更なる検証が求められます。またクロピドグレルとの比較検証も求められます。これは、アスピリンよりもクロピドグレルの方が患者転帰に優れていることが示されているためです。

続報に期待。

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✅まとめ✅ 非盲検ランダム化比較試験の結果、早期に完全血行再建術を受け、合併症なく1か月間の抗血小板2剤併用療法を完了した急性心筋梗塞の低リスク患者において、P2Y12阻害剤単独療法は、心血管系および脳血管系の有害事象の発生に関して抗血小板2剤併用療法の継続より非劣性であり、出血事象の発生率も低かった。

根拠となった試験の抄録

背景: ガイドラインで推奨されている完全な血行再建術と最新の薬剤溶出ステントで治療された急性心筋梗塞に対する経皮的冠動脈介入後の二重抗血小板療法の適切な期間は依然として不明である。

方法: 欧州40施設で多施設共同、非盲検、無作為化試験を実施した。心筋梗塞後7日以内に完全血行再建術を成功させ、その後虚血または重篤な出血イベントなく1か月間の2剤併用抗血小板療法を完了した急性心筋梗塞の成人患者を、P2Y12阻害剤の単剤療法に移行するか、またはさらに11か月間2剤併用抗血小板療法を継続する群に無作為に割り付けた。主要評価項目は、無作為化後11か月における全死因死亡、心筋梗塞、ステント血栓症、脳卒中、または重篤な出血(出血学術研究コンソーシアム[BARC]の定義ではタイプ3または5の出血イベント)の複合であった(1.25パーセントポイントのマージンで非劣性を検証)。主要な副次的評価項目は、無作為化後11か月におけるBARCタイプ2、3、または5の出血(臨床的に関連する出血)であった(優越性を検証)。

結果: 登録患者2,246名のうち、1,942名が無作為化され、うち961名がP2Y12阻害薬単独療法群、981名が抗血小板薬2剤併用療法継続群に割り付けられた。主要評価項目イベントは、P2Y12阻害薬単独療法群で20名(2.1%)、抗血小板薬2剤併用療法群で21名(2.2%)に発現した(群間差:-0.09パーセントポイント、95%信頼区間[CI] -1.39 ~ 1.20、非劣性P=0.02)。 BARCタイプ2、3、または5の出血は、P2Y12阻害薬単独療法群の患者で2.6%、抗血小板薬2剤併用療法群の患者で5.6%に認められました(ハザード比 0.46、95%信頼区間 0.29~0.75、優越性P=0.002)。ステント血栓症はまれであり、両群で発生率は同程度でした。重篤な有害事象の発生率は両群で同程度であると考えられました。

結論: 早期に完全血行再建術を受け、合併症なく1か月間の抗血小板2剤併用療法を完了した急性心筋梗塞の低リスク患者において、P2Y12阻害剤単独療法は、心血管系および脳血管系の有害事象の発生に関して抗血小板2剤併用療法の継続より非劣性であり、出血事象の発生率も低かった。

資金提供: MicroPort [フランス]

試験登録番号: ClinicalTrials.gov番号 NCT04753749

引用文献

Early Discontinuation of Aspirin after PCI in Low-Risk Acute Myocardial Infarction
Giuseppe Tarantini et al. PMID: 40888726 DOI: 10.1056/NEJMoa2508808
N Engl J Med. 2025 Aug 31. doi: 10.1056/NEJMoa2508808. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40888726/

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