トリプル・ワーミーと急性腎障害の発症タイミングとの関連性
レニン-アンジオテンシン系阻害薬、利尿薬、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)からなる「Triple Whammy トリプル・ワーミー」薬物療法に関連する急性腎障害(AKI)が報告されています。しかし、医薬品副作用報告データベースを用いて「トリプル・ワーミー」薬物療法とAKI発症までの期間を調査した報告はありません。
そこで今回は、JADERのデータベースを用いて、トリプル・ワーミーとAKIとの発症タイミングとの関連性について検証したデータベース研究の結果をご紹介します。
研究結果から明らかになったことは?
◆方法
- データソース:日本のJADER(Japanese Adverse Drug Event Report database)
- 対象:18,415例のAKI症例のうち、7,466例がTriple Whammy薬剤を使用していた。
- 解析手法:Kaplan–Meier曲線、一般化Wilcoxon検定、Weibull分布解析を用いて、AKI発症までの期間(time to onset)を評価。
◆主な結果
1. 発症リスク(報告オッズ比)
- すべてのTriple Whammy薬剤の組み合わせは、AKI発症リスクの有意な上昇と関連。
2. 発症までの期間(中央値)
- NSAIDsを含む組み合わせで非常に早期に発症する傾向。
薬剤組み合わせ | AKI発症中央値(日) |
---|---|
トリプル併用(RAS阻害薬+利尿薬+NSAIDs) | 8日 |
RAS阻害薬+NSAIDs | 7日 |
利尿薬+NSAIDs | 9日 |
NSAIDs+利尿薬 | 6日 |
NSAIDs単剤 | 9日 |
→ いずれも初回投与から2週間以内に集中して発症。
3. Weibull解析
- 多くの併用パターンで「early failure type(早期発症型)」の傾向が示された。
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◆臨床的含意
- Triple WhammyによるAKIは治療早期に発症しやすいことが明らかになった。
- 特にNSAIDsの追加直後が危険期間であり、服薬開始後 2週間以内の腎機能モニタリングが推奨される。
◆研究の限界
1. 自発報告データベースの性質
- 本研究はJADER(自発報告データベース)を用いており、報告バイアス(重篤例や新薬関連の症例が過大に報告されやすい)が存在します。
- 実際の発症頻度(絶対リスク)は推定できず、報告オッズ比(ROR)や発症時期の傾向に限定した評価となります。
2. 症例背景情報の欠如
- JADERには、腎機能、NSAIDsの投与量、併用薬、脱水や感染などのリスク因子に関する詳細情報が十分に記録されていません。
- そのため、交絡因子の調整が不十分であり、NSAIDs使用が直接の原因かどうかは断定できません。
3. 発症時期データの不確実性
- 発症日や投与開始日の入力が不正確な場合があり、time to onsetの解析には誤差を含む可能性があります。
- Kaplan–Meier法やWeibull解析の結果は「傾向」を示すに留まります。
4. 一般化の限界
- データは日本国内の報告症例に限定されており、他国の処方状況や患者背景に必ずしも当てはまらない可能性があります。
- また、主に重篤例が集積されるため、軽症のAKIは過小評価されている可能性があります。
5. 因果関係の証明はできない
- シグナル解析の枠組みであり、Triple Whammy薬剤がAKIを「引き起こした」との因果関係は証明できません。
- 臨床的判断には、今後の前向き研究やリアルワールドデータベースでの検証が必要です。
✅ まとめ
この研究は、Triple Whammy薬剤(RAS阻害薬+利尿薬+NSAIDs)と治療開始早期(1〜2週間以内)のAKI発症との関連性が示唆されました。
臨床では、NSAIDsを追加する際に特に注意を払い、腎機能の定期的なチェックを行う必要があることに変わりはありません。
ただし、シグナル分析は仮説生成的な研究結果であることから、因果関係を述べることができません。このため、本論文の結論部分は、断定的な表現が過ぎると考えられます。研究デザイン、得られた結果、結果の考察、これらを混同しない表現が求められます。
再現性の確認を含めて更なる検証が求められます。
続報に期待。

✅まとめ✅ 日本のデータベース研究の結果、Triple Whammy薬剤(RAS阻害薬+利尿薬+NSAIDs)とAKI発症(1〜2週間以内)との関連性が示唆された。更なる研究が求められる。
根拠となった試験の抄録
背景: レニン-アンジオテンシン系阻害薬、利尿薬、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)からなる「トリプル・ワーミー」薬物療法に関連する急性腎障害(AKI)が報告されている。しかし、医薬品副作用報告データベースを用いて「トリプル・ワーミー」薬物療法とAKI発症までの期間を調査した報告はない。本研究の目的は、AKI発症までの期間と「トリプル・ワーミー」薬物療法との関連性を明らかにすることであった。
方法: 本研究では、日本の医薬品副作用報告データベースに登録されたAKI症例を解析した。データは、カプラン・マイヤー法、一般化ウィルコクソン検定、およびワイブル分布を用いて解析した。
結果: AKIは18,415件報告され、そのうち7,466件でトリプル・ワーミー薬物が使用されていた。トリプル・ワーミー薬物のすべての組み合わせは、AKI報告のオッズ比が有意に高かった。ワイブル分布解析では、トリプル・ワーミー薬物のほとんどの組み合わせにおいて、AKI発症は早期であった。カプラン・マイヤー法では、NSAIDs使用例におけるAKI発現までの治療期間がはるかに短いことが示されました。発現までの中央値は、3剤併用で8日、レニン・アンジオテンシン系阻害薬にNSAIDsを追加した場合は7日、利尿薬にNSAIDsを追加した場合は9日、NSAIDsに利尿薬を追加した場合は6日、NSAIDs単独の場合は9日でした。
結論: トリプル・ワーミー薬に関連するAKIは、特にNSAIDsを併用している場合は、治療初期に発生する可能性が高くなります。患者は、治療開始後2週間はAKIの発現についてモニタリングを受ける必要があります。
引用文献
Time until onset of acute kidney injury by combination therapy with “Triple Whammy” drugs obtained from Japanese Adverse Drug Event Report database
Yuki Kunitsu et al. PMID: 35139129 PMCID: PMC8827454 DOI: 10.1371/journal.pone.0263682
PLoS One. 2022 Feb 9;17(2):e0263682. doi: 10.1371/journal.pone.0263682. eCollection 2022.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35139129/
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