トラネキサム酸静注は消化管出血に有効なのか?
消化管出血(Gastrointestinal bleeding: GIB)は、重篤な転帰を招く可能性があり、迅速かつ効果的な止血管理が必要とされます。
抗線溶薬であるトラネキサム酸(TXA)は、外科領域や外傷領域で止血効果が知られており、消化管出血への応用も検討されています。しかし、近年のランダム化比較試験(RCT)の結果は一貫せず、その有効性と安全性には議論があります。
そこで今回は、ランダム化比較試験を対象に、消化管出血に対するトラネキサム酸の効果を検証したメタ解析の結果をご紹介します。
試験結果から明らかになったことは?
- 研究デザイン:PRISMAに準拠したシステマティックレビュー・メタ解析
- 対象試験:成人消化管出血患者に対して静注TXAを使用したRCT
- データベース:PubMed, Google Scholar
- 解析対象:7件のRCT(計13,608例)
- 主要アウトカム:死亡、再出血、止血不成功、血栓塞栓症、輸血必要量
◆主な結果
アウトカム | TXA群 vs 対照群 |
---|---|
再出血 | OR 0.64(95%CI 0.45–0.91, P=0.01) |
止血不成功 | OR 0.55(95%CI 0.45–0.91, P=0.03) |
死亡 | OR 0.77(95%CI 0.56–1.07, P=0.12) |
輸血必要量 | OR 0.94(95%CI 0.61–1.43, P=0.76) |
血栓塞栓症 | ランダム効果モデル:OR 1.28(95%CI 0.51–4.51, P=0.46) 固定効果モデル:OR 1.28(95%CI 1.07–1.55, P=0.009) |
◆考察
- 有効性:TXAは消化管出血における「再出血」と「止血不成功」を有意に減少させた。
- 無効性:死亡率や輸血量の減少効果は示されなかった。
- 安全性:血栓塞栓症リスクについては、解析モデルによって結論が異なり、注意が必要。特に既往歴を有する患者群ではリスク増大の可能性が懸念される。
◆試験の限界
- 試験間の異質性(対象疾患、治療戦略の違い)が存在する。
- 一部のアウトカムで統計学的有意性がモデル依存で変動。
- 高リスク集団における有効性・安全性は不明。
◆まとめ
トラネキサム酸静注は、消化管出血の再出血予防および止血不成功のリスク低減に寄与する可能性があることが示されました。ただし、死亡率改善効果は確認されず、血栓塞栓症リスクには注意が必要です。今後は高リスク群を含めた大規模試験による検証が望まれます。
血栓塞栓症リスクについては、研究間の異質性の取扱いに影響されることから、結果の解釈に注意を要します。論文の抄録では、異質性について言及されていないため、あくまでも推測となりますが、研究間の異質性はゼロではないのが一般的です。また、実臨床において個人差があることから、有効性・安全性の評価はばらつくことに反論の余地はないでしょう。このため、解析にはランダム効果モデルを用いた方が、より実臨床に近い結果を反映しているものと考えられます。血栓塞栓症のリスクについて、過度に恐れる必要はないでしょう。
つまり、消化管出血に対してトラネキサム酸静注の使用を躊躇する必要性は低く、個々の患者に対するリスクベネフィットを勘案した方がより合理的であると考えます。例えば、低用量ピルを使用しているため他の治療法を選択するといったように、止血療法を実施する前に血栓塞栓症リスクの適切な評価が求められます。
再現性の確認を含め更なる検証が求められます。
続報に期待。

✅まとめ✅ ランダム化比較試験のメタ解析の結果、トラネキサム酸静注は、消化管出血の管理において、特に再出血および出血制御不全の減少において効果的な補助療法であると考えられる。しかしながら、死亡率への有意な影響はなく、潜在的な血栓塞栓症のリスクについては注意が必要である。
根拠となった試験の抄録
はじめに: 消化管出血は、高い罹患率と死亡率を伴う重篤な疾患であり、効果的な管理戦略が求められています。抗線溶薬であるトラネキサム酸(TXA)は、出血合併症を軽減するための治療選択肢として提案されています。しかしながら、近年のランダム化比較試験(RCT)では、その有効性と安全性に関して相反する結果が得られています。
方法: 本システマティックレビューおよびメタアナリシスは、PRISMAガイドラインに準拠し、消化管出血のある成人患者における静脈内TXAの使用を評価するランダム化比較試験(RCT)を対象としました。PubMedおよびGoogle Scholarで包括的な検索を実施し、518件の論文が抽出され、7件のRCTが選択基準を満たしました。データは主にランダム効果モデルを用いて統合され、死亡率、再出血、出血制御不全、血栓塞栓症、輸血の必要性などのアウトカムを評価しました。
結果: 本解析には13,608名を対象とした7件のRCTが含まれ、IV TXAは再出血率(OR 0.64、95%CI 0.45-0.91、P=0.01)および出血制御失敗(OR 0.55、95%CI 0.45-0.91、P=0.03)を統計的に有意に減少させたことが明らかになった。しかし、死亡率(OR 0.77、95%CI 0.56-1.07、P=0.12)および輸血必要数(OR 0.94、95%CI 0.61-1.43、P=0.76)には有意な減少は認められなかった。血栓塞栓症はランダム効果モデルでは有意差を示さなかったが(OR 1.28; 95%CI 0.51-4.51, P=0.46)、固定効果解析では統計的有意性が示唆された(OR 1.28; 95%CI 1.07-1.55, P=0.009)。
結論: 静脈内TXAは、消化管出血の管理において、特に再出血および出血制御不全の減少において効果的な補助療法であると考えられる。しかしながら、死亡率への有意な影響はなく、潜在的な血栓塞栓症のリスクについては注意が必要である。消化管出血管理における患者アウトカムを向上させるためには、TXAの使用を最適化し、高リスク集団を特定するためのさらなる研究が必要である。
キーワード: 消化管出血、静脈内、死亡率、系統的レビュー、トラネキサム酸
引用文献
Intravenous tranexamic acid in gastrointestinal bleeding: A systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials
Tarek Djoudjou et al. PMID: 40752050 DOI: 10.1016/j.ajem.2025.07.050
Am J Emerg Med. 2025 Jul 23:97:175-182. doi: 10.1016/j.ajem.2025.07.050. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40752050/
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