薬剤師のコミュニケーション戦略と患者の計算能力が服薬意欲に与える影響とは?(オンライン調査; Int J Pharm Pract. 2025)

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薬剤師による服薬指導の仕方で患者の服薬意欲が変化する?

薬剤師による服薬指導では、患者が薬を「飲むかどうか」を決定する過程に大きな影響を与えることが知られています。

その際、副作用リスクの伝え方や、患者の数的スキル(numeracy)が意思決定を左右することが知られていますが、実臨床における検証は充分ではありません。

そこで今回は、薬剤師の説明方法と患者の数的スキルの組み合わせが、薬を服用する意思(willingness to take medication)にどのように影響するかを検証したオンライン調査の結果をご紹介します。


試験結果から明らかになったことは?

  • 試験デザイン:オンライン調査によるランダム化比較
  • 対象者:日本の成人 554名
  • 介入:4種類の薬剤師カウンセリングシナリオを提示
    1. 非数値/非ナッジ
    2. 非数値/社会的規範ナッジ
    3. 数値情報/非ナッジ
    4. 数値情報/社会的規範ナッジ
  • 主要評価項目:服薬意思(willingness)
  • 解析:患者の数的スキル別に層別化し、オッズ比(OR)を算出

◆主な結果

患者の数的スキル介入服薬意思への影響オッズ比 OR
(95%CI)
高数的スキル群数値情報の提示意思が有意に増加OR 2.64(1.29–5.52)
高数的スキル群数値情報の提示
+社会的規範ナッジ
効果は弱まり有意差減少
低数的スキル群社会的規範ナッジ意思が有意に増加OR 2.06(1.07–4.02)
低数的スキル群数値情報の提示のみ効果なし

コメント

本研究の結果から、患者の数的スキルによって最適な説明方法が異なることが示されました。

  • 高数的スキルの患者:副作用確率を数値で明確に提示することで服薬意思が高まる
  • 低数的スキルの患者:同調行動を促す社会的規範ナッジが有効

一方で、数値とナッジを同時に用いると、むしろ高数的スキル群で効果が減弱する可能性も示されました。


◆試験の限界

  • オンライン調査のため、実際の薬局現場での患者行動を完全に反映しているわけではない
  • 日本人成人を対象としており、他国での一般化可能性は限定的
  • 自己申告データのため、実際の服薬行動と乖離する可能性がある

◆今後の検討課題

  • 臨床現場での実証研究による外的妥当性の確認
  • 患者属性(年齢、教育水準、疾病理解度)に応じた説明手法の最適化
  • 数値とナッジを併用する際の「逆効果」のメカニズム解明

◆まとめ

  • 高数的スキルの患者には 数値での副作用提示 が有効
  • 低数的スキルの患者には 社会的規範ナッジ が有効
  • 数値+ナッジの併用は必ずしも望ましいとは限らず、患者特性に応じた説明戦略が重要

日本人を対象に実施されたオンライン調査であることから、外的妥当性はある程度担保されているものと考えられますが、実臨床においても同様の結果が得られるのかについては更なる検証が求められます。

続報に期待。

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✅まとめ✅ オンライン調査によるランダム化比較の結果、意思決定の最適化と服薬アドヒアランスの向上のために、患者の数的思考力レベルに合わせたカウンセリング戦略の調整が重要である可能性が示された。

根拠となった試験の抄録

目的: この研究では、薬物カウンセリングにおいて数値的な有害事象情報と社会規範のナッジを提供することで、患者の数的処理能力に応じて異なる方法で薬を服用する意欲が高まるかどうかを調査しました。

方法: 554名の日本人成人を対象にオンライン調査を実施し、被験者は4つの服薬カウンセリングシナリオ(数値的および非数値的有害事象情報の組み合わせ、社会規範ナッジの有無)に無作為に割り付けられた。架空の糖尿病薬に関するカウンセリングビデオを視聴した後、参加者の服薬意欲と主観的な数的思考力を評価した。

主な知見: 結果は、数値的な有害事象情報は、数値能力の高い参加者の服薬意欲を有意に向上させたが、数値能力の低い参加者には有意な効果を示さなかったことを示唆した。対照的に、社会規範のナッジは、数値能力の低い参加者にはより効果的であったが、数値能力の高い参加者には有意な効果を示さなかった。

結論: 本研究の結果は、意思決定の最適化と服薬アドヒアランスの向上のために、患者の数的思考力レベルに合わせたカウンセリング戦略の調整の重要性を強調する。実際的な示唆としては、服薬カウンセリング前に簡単な数的思考力スクリーニングを実施することで、薬剤師がコミュニケーション戦略を最適化できる可能性があることが示唆される。さらに、本研究の結果は、薬剤師が臨床カウンセリングにおいて数的思考力に基づいたコミュニケーション戦略を実施し、患者中心のコミュニケーションを強化するための基盤を提供する。

キーワード: 遵守、意思決定支援、証拠に基づく実践、健康促進、投薬リスク、患者行動、患者安全、薬学公衆衛生

引用文献

Effects of pharmacists’ communication strategies and patients’ numeracy skills on willingness to take medication
Akira Yoshida et al. PMID: 40693927 DOI: 10.1093/ijpp/riaf062
Int J Pharm Pract. 2025 Jul 22:riaf062. doi: 10.1093/ijpp/riaf062. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40693927/

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