75歳以上の高血圧患者における最適な血圧コントロール目標は?
高齢者の高血圧管理において「血圧をどこまで下げるべきか」は、長年議論されてきたテーマです。従来、日本高血圧学会のガイドライン(2019年版)では、75歳以上の推奨目標は収縮期血圧(SBP)140mmHg未満とされていました。しかし、その後の臨床試験では、より厳格な管理(130mmHg未満)によって心血管イベントや死亡リスクが減少する可能性が示されています。
そこで今回は、75歳以上を対象に「厳格な降圧管理の有効性と安全性」を改めて検証したシステマティックレビュー・メタ解析の結果をご紹介します。
試験結果から明らかになったことは?
- データベース:MEDLINE、Cochrane Library、医中誌Webを検索(2024年5月まで)
- 対象者:75歳以上の高血圧患者
- 比較:
- 厳格降圧:収縮期血圧 <130mmHg
- 通常降圧:収縮期血圧 ≥130mmHg
- 解析:7つのランダム化比較試験(RCT)を統合
主な結果
リスク比 RR(95%CI) | P値 | |
心血管イベントの複合リスク | RR 0.61(0.40–0.94) | p=0.03 |
全死亡リスク | RR 0.72(0.56–0.93) | p=0.01 |
心血管死亡リスク | RR 0.55(0.35–0.88) | p=0.01 |
重篤な有害事象 | RR 1.00(0.93–1.08) | p=0.97 |
脳卒中発症率 | – | 有意差なし |
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◆試験の限界
- 含まれるRCTの数は7つと限定的で、試験デザインや背景因子にばらつきがある。
- 高齢者の多様な併存疾患やフレイルを必ずしも反映していない可能性がある。
- 脳卒中の発症率には差がなく、すべての心血管アウトカムに一貫した効果があるわけではない。
◆今後の検討課題
- フレイル高齢者や多疾患併存例における至適血圧目標の検証
- 日本を含む地域別の人種差や生活習慣を考慮した解析
- 長期追跡による認知症や生活の質(QOL)への影響の検討
75歳以上の高齢高血圧患者においても、収縮期血圧130mmHg未満を管理目標にした方が良いのかもしれません。ただし、人種を考慮した解析ではなく、試験規模も100例未満~3000例弱とまばらです。
再現性の確認を含めて更なる検証が求められます。
続報に期待。

✅まとめ✅ 7件のランダム化比較試験のメタ解析の結果、75歳以上の患者において、集中的な収縮期血圧低下療法は、複合心血管イベント、全死亡率および心血管疾患による死亡率の有意な低下と関連しており、重篤な有害事象の増加は認められなかった。
根拠となった試験の抄録
背景:最近の臨床試験により、高齢者高血圧の至適血圧値に関する重要な疑問が提起されている。2019年日本高血圧学会ガイドラインでは、75歳以上の人に対して収縮期血圧(SBP)の目標値として140mmHg未満を推奨している。しかし、その後のランダム化比較試験(RCT)では、厳格な血圧目標値に関連する心血管疾患および死亡率の潜在的なベネフィットが示されている。我々は、75歳以上の高血圧患者におけるSBPの厳格なコントロール(130 mmHg未満)とそれほど強力ではないコントロール(130 mmHg以上)を比較した有効性と安全性を評価するために、最新のシステマティックレビューとメタアナリシスを実施した。
方法:2024年5月30日までの出版物について、MEDLINE、コクラン・ライブラリ、医中誌Webを検索し、手動検索で補完した。事前に定義された適格基準を満たした7つのRCTが最終的なメタアナリシスに含められた。
結果:75歳以上の患者において、集中的な収縮期血圧低下療法は、複合心血管イベント(リスク比[RR] 0.61、95%信頼区間[CI] 0.40-0.94、p=0.03)、全死亡率(RR 0.72、95%信頼区間[CI] 0.56-0.93、p=0.01)、および心血管疾患による死亡率(RR 0.55、95%信頼区間[CI] 0.35-0.88、p=0.01)の有意な低下と関連しており、重篤な有害事象の増加は認められなかった(RR 1.00、95%信頼区間[CI] 0.93-1.08、p=0.97)。脳卒中発症率は群間で有意差は認められなかった。
結論:70歳以上の参加者を対象とした研究に解析範囲を拡大した場合でも、同様の結果が得られた。これらの結果は、高血圧の高齢者においてSBPを130mmHg未満に目標とすることの安全性と臨床的利点を裏付けています。
キーワード: 実装高血圧、メタ分析、高齢者、ランダム化比較試験、系統的レビュー
引用文献
Targeting a systolic blood pressure of <130 mmHg is beneficial in adults with hypertension aged ≥75 years: a systematic review and meta-analysis
Yoichi Nozato et al. PMID: 40790093 DOI: 10.1038/s41440-025-02302-z
Hypertens Res. 2025 Aug 12. doi: 10.1038/s41440-025-02302-z. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40790093/
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