はじめに:この論文でわかること
「コーヒーを飲むとお通じが良くなる気がする」そんな経験はありませんか?
カフェインの腸への影響は以前から議論されてきましたが、その実態について明確なエビデンスは乏しい状況でした。
今回ご紹介するのは、米国の大規模調査データ(NHANES)を用い、カフェイン摂取量と便秘・下痢・炎症性腸疾患(IBD)との関連を解析した横断研究の結果です。
試験結果から明らかになったことは?
■研究デザイン
- NHANES(米国国民健康栄養調査:2005~2010年分)を用いた横断解析
- 対象:12,759人の成人(自己申告による腸症状の有無を評価)
■主要アウトカム
- 慢性便秘、慢性下痢との関連
- 炎症性腸疾患(IBD)との関連
主な結果
■ カフェイン摂取量と慢性下痢
- カフェイン摂取量が多いほど、慢性下痢の発症率は低下
- 「カフェイン量 ↑ ⇒ 下痢 ↓」の逆相関関係
■ カフェイン摂取量と慢性便秘
- カフェイン摂取量と便秘の関係にはU字型の非線形関係があった
- ある程度まで摂取することで便秘リスクが下がる
- しかし過剰摂取になると、かえって便秘リスクが上昇
カフェイン摂取量 | 便秘との関連性 | オッズ比(OR) [95%CI] |
---|---|---|
~約200mg/日(ブレークポイント2.04) | 便秘リスク低下 | OR 0.82 [0.74–0.90] |
約200mg超/日 | 便秘リスク上昇 | OR 1.06 [1.00–1.12] |
※カフェイン200mgはコーヒー約2杯に相当
■ カフェインとIBDの関連
- 炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎・クローン病)との関連はなし
■ サブグループ解析
- 特に高齢者(65歳以上)では、
- 適度なカフェイン摂取が便秘リスクを有意に下げる傾向がみられた
コメント
◆臨床的意義
この研究結果からわかる重要な点は次の通りです:
- 適度なカフェイン(コーヒー1~2杯程度)は腸の蠕動運動を促し、便秘対策として有用である可能性がある
- ただし、過剰なカフェイン摂取は逆に便秘を悪化させる可能性もある
- 特に高齢者では、便秘予防の一助としてコーヒー摂取が有効かもしれない
◆試験の限界
- 横断研究であり、因果関係は証明できない(あくまで関連性)
- 自己申告による排便状況の評価であり、客観的指標が用いられていない
- カフェインの摂取源(コーヒー以外も含む)が詳細に区別されていない
◆今後の検討課題
- 前向きコホート研究や介入研究による因果関係の検証
- カフェイン以外の成分(クロロゲン酸など)の影響評価
- IBD患者における安全性・効果の再評価
あくまでも仮説生成的な結果ではありますが、カフェイン摂取量により、下痢や便秘症状が変化する可能性が示されました。
米国での観察研究の結果であることから、日本人でも同様の結果が示されるのかについては不明です。再現性の確認を含めて更なる検証が求められます。
続報に期待。

✅まとめ✅ 米国のデータベース研究の結果、適度なカフェイン摂取は便通を促進する可能性があるが、過剰なカフェイン摂取は慢性便秘を引き起こす可能性がある。高齢者における適切なカフェイン摂取は慢性便秘の予防に役立つ可能性がある。
根拠となった試験の抄録
背景: 人気の飲料であるコーヒーに含まれるカフェインが胃腸症状に及ぼす影響は、世界中で議論が続いている。本研究では、カフェイン摂取量と排便習慣、そして炎症性腸疾患(IBD)との関連性を調査した。
方法: 2005年から2010年までの全国健康栄養調査(NHANES)のデータを用いて、本横断調査を実施した。排便習慣と炎症性腸疾患(IBD)は自己申告により定義された。ロジスティック回帰モデルを用いて、カフェイン摂取量と慢性便秘の線形関係を評価した。非線形関連は、平滑化曲線の当てはめと閾値効果分析を用いて明らかにした。最後に、サブグループ分析と交互作用を用いて、結果の安定性を検証した。
結果: この人口ベースの研究には、合計12,759人の成人が参加しました。カフェイン摂取量は慢性下痢と負の相関関係にあることが分かりました。カフェイン摂取量と慢性便秘の間には、U字型の非線形関係が認められました。ブレークポイント2.04(100 mg/1単位)の左側では、カフェイン摂取量は慢性便秘と負の相関を示しました(OR 0.82 [95%CI 0.74~0.90])が、ブレークポイントの右側では正の相関を示しました(OR 1.06 [95%CI 1.00~1.12])。また、カフェイン摂取量と炎症性腸疾患(IBD)の間には有意な相関は認められませんでした。サブグループ解析および相互作用検定の結果、高齢者においてカフェイン摂取量は慢性便秘と単純に負の相関を示すことが示されました。
結論: 結論として、適度なカフェイン摂取は便通を促進する可能性があるが、過剰なカフェイン摂取は慢性便秘を引き起こす可能性がある。高齢者における適切なカフェイン摂取は慢性便秘の予防に役立つ可能性がある。このことは、臨床現場では、個々の排便状況に応じてカフェイン摂取量を戦略的に決定する必要があることを示唆している。
キーワード: NHANES、U 字型、カフェイン摂取、慢性便秘、慢性下痢
引用文献
Association Between Caffeine Intake and Bowel Habits and Inflammatory Bowel Disease: A Population-Based Study
Xiaoxian Yang et al. PMID: 40600201 PMCID: PMC12212077 DOI: 10.2147/JMDH.S512855
J Multidiscip Healthc. 2025 Jun 27:18:3717-3726. doi: 10.2147/JMDH.S512855. eCollection 2025.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40600201/
コメント