赤ちゃんの夜間睡眠パターンはいつ整う? ― アクチグラフと睡眠日誌からみた6ヶ月間の発達軌跡(ミニスコーピングレビュー; Front Neurosci. 2025)

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はじめに:この論文でわかること

乳児期の睡眠と覚醒リズムの発達は、神経発達の基盤となる重要なプロセスです。しかし、「夜にどれだけ眠るのか」、「どれくらい起きるのか」といった客観的データは乏しく、多くの研究は保護者の主観的な記録に頼ってきました。

本レビュー論文では、アクチグラフィ(加速度センサー)と睡眠日誌という2つの方法で得られた夜間睡眠データを分析し、生後6か月までの夜間睡眠の発達パターンを明らかにしています。


研究の概要

対象と方法

  • 対象:生後0~6か月の乳児を含む研究
  • 測定方法:
     ・アクチグラフィ(加速度計による睡眠推定)
     ・睡眠日誌(保護者による記録)
  • 抽出データ:
     ・夜間総睡眠時間(TNS)
     ・最長連続睡眠時間(LSS)
     ・夜間覚醒回数(NW)

試験結果から明らかになったことは?

  • 対象論文:全35報
     ・アクチグラフィのみ:16報
     ・睡眠日誌のみ:8報
     ・両方併用:11報
  • 各研究の参加者数:13~320人(ばらつきあり)
  • 大半の研究はデータ収集時点が1~2回に限られており、縦断的変化の評価が難しかった

■ 睡眠パターンの全体的な傾向

指標生後0~6か月での変化傾向
夜間総睡眠時間(TNS)徐々に増加する傾向
最長連続睡眠時間(LSS)発達とともに明らかに延長
夜間覚醒回数(NW)時間とともに減少する傾向

6か月に近づくにつれ「まとまって眠れる時間」が増えてくる傾向が共通して観察されました。

■主な結果と傾向

1. 夜間総睡眠時間(TNS)

  • 生後4週で7〜8時間からスタートし、生後20週頃に9.5時間程度で安定
  • アクチグラフと睡眠日誌の間で大きな乖離は少ない
  • ただし、日誌の方がやや長く見積もる傾向(例:16週でアクチグラフ9.4h vs. 日誌10h)

2. 最長連続睡眠時間(LSS)

  • 日誌:生後24週で約6.5時間
  • アクチグラフ:同時期で約4時間にとどまる
  • アクチグラフは「動き=覚醒」と解釈されやすく、実際の覚醒と異なる可能性あり

3. 夜間覚醒回数(NW)

  • 日誌では出生時3回→生後16週で2回程度まで減少
  • アクチグラフでは10回近く報告される研究もあり、大きなばらつき
  • 動きを細かく拾うアクチグラフでは、保護者が気づかない「非アラート覚醒」も記録されるため、過大評価の可能性あり

コメント

◆臨床的意義

  • 赤ちゃんの夜間睡眠は、生後6か月までに徐々にまとまりを持ち始めることが確認されました。
  • ただし、個人差が大きく、家庭での観察では一律に判断できないことも本レビューは示しています。
  • 「夜に何時間眠るのが普通なのか?」という問いに対し、この研究は標準的な発達の目安(ベンチマーク)の構築に向けた第一歩となるといえます。

◆試験の限界

  • 収載された35の研究のうち、年齢ごとの測定データが2点以下のものが80%超と、連続的な成長パターンの把握が困難
  • アクチグラフィと睡眠日誌の間で測定結果に系統的な差異があり、比較の際には注意が必要
  • 多くの研究が小規模かつ方法論がバラバラであり、集計による不確実性が大きい
  • 各研究の方法論的限界(装着時間、解析アルゴリズム、定義の違いなど)が明記されていないものも含まれる

◆今後の検討課題

  • 客観的かつ標準化された睡眠測定手法の確立(たとえばアクチグラフの統一的な解析法)
  • より大規模かつ頻回なデータ収集による縦断的な発達パターンの描出
  • 睡眠の質と脳発達、情緒・行動発達との関連性の探索
  • 保護者教育や子育て支援策に活かせるエビデンス構築

生後間もなくは1~2時間おきに覚醒することは、子育てを経験している方にとっては一般的でしょう。これは、乳幼児の胃容量が2mL程度であるため、栄養摂取をこまめに行う必要があるからです。

とはいえ子育て世代にとっては、まとまった睡眠時間の確保と成長との相関性についてデータとして把握しておきたいところです。本レビューの結果、生後6か月に近づくにつれて、まとまった睡眠時間が確保されるようです。

男性が早期に育休を取得することで、妊婦の睡眠不足解消を実現できると良さそうですね。

続報に期待。

close up of baby feet

✅まとめ✅ 小規模なスコーピングレビューの結果、生後6か月に近づくにつれ「まとまって眠れる時間」が増えてくる傾向が共通して観察された。ただし、個人差が大きく、更なる検証が求められる。

根拠となった試験の抄録

はじめに: 乳児期の初期数ヶ月間には、神経発達の基礎的な側面がいくつか形成されますが、中でも特に顕著なのは、覚醒/睡眠サイクルの成熟と定着です。これまでの研究では、乳児の睡眠を定量化することが困難であり、多くの研究者が低解像度の養育者調査に依存していました。夜間の測定から得られたデータは、発達の軌跡や母集団の標準値を明らかにするために、複数の研究間で集約されていません。本ミニスコーピングレビューでは、乳児の夜間睡眠を測定する最も一般的な2つの方法であるアクティグラフィーと睡眠日誌から収集されたデータを評価します。

方法: PubMedデータベースを用いて、2000年から2024年までのアクティグラフィー(actigraphy)および/または睡眠日誌を用いて、生後6ヶ月間の夜間総睡眠時間(TNS)、最長睡眠時間(LSS)、および/または夜間覚醒頻度(NW)を報告している研究を特定した。その後、指標ごとにデータを集計し、研究間および研究内変動の程度を明らかにし、発達の軌跡を浮き彫りにするために曲線を当てはめた。

結果: 合計35件の論文が包含基準を満たした(アクティグラフィーのみを用いた研究16件、睡眠日誌のみを用いた研究8件、アクティグラフィーと睡眠日誌の両方を用いた研究11件)。これらの研究のサンプル数は13人から320人であった。大多数の研究(N=28)では、年齢データポイントは2つ以下であった。

結論: 集計と回帰分析により縦断的な傾向が明らかになったものの、研究内および研究間のばらつき、ならびに測定方法間の系統的な差異が浮き彫りになった。信頼できるベンチマークを確立するためには、今後の研究では、睡眠に関する明確かつ客観的な指標に加え、方法論の一貫性の向上、コホートの大規模化、より頻繁なサンプリング、そして方法論的限界の明確な開示が求められる。

キーワード: アクティグラフィー、乳児の睡眠、最長睡眠期間、睡眠、睡眠日記、睡眠モニタリング、夜間覚醒回数、夜間睡眠回数

引用文献

Maturation of infant sleep during the first 6 months of life: a mini-scoping review
Abriana Gilchrist et al. PMID: 4037066 PMCID: PMC12075199 DOI: 10.3389/fnins.2025.1581325
Front Neurosci. 2025 Apr 30:19:1581325. doi: 10.3389/fnins.2025.1581325. eCollection 2025.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40370662/

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