日本のプライマリ・ケアにおける“低付加価値医療”の提供実態(日本の横断研究; JAMA Health Forum. 2025)

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はじめに

患者に明確な利益をもたらさない「低付加価値医療(low-value care)」は、医療資源の浪費や不必要な副作用リスクの原因として、国際的に注目されています。これまでの研究は主に米国を対象としており、日本における医師の特性と低付加価値医療の関連を明らかにしたデータは限られていました。

今回紹介する研究は、日本全国のプライマリ・ケアにおける医師単位の低付加価値医療の提供実態と、その背景要因を明らかにした初の大規模横断研究です。


試験結果から明らかになったことは?

◆研究の概要

  • 対象データ:日本全国の電子カルテと診療報酬請求データ(2022年10月〜2023年9月)
  • 対象患者数:254万2630人(平均年齢 51.6歳、女性 58.2%)
  • 対象医師数:1019人(平均年齢 56.4歳、男性 90.4%、ソロプラクティス診療所)
  • 評価指標:10項目の低付加価値医療の年間提供件数(100人あたり)
  • 統計処理:患者背景や地域差などを補正した多変量解析

試験結果から明らかになったことは?

◆主な結果

  • 全体の低付加価値医療件数43万6317件100人あたり17.2件
  • 提供の偏在性全件数の約50%が、上位10%の医師によって提供

◆医師の属性と低付加価値医療の提供量(調整後)

医師の特性増加した件数(100人あたり)95%信頼区間
60歳以上 vs. 40歳未満+2.1件1.0〜3.3
非専門医 vs. 総合内科専門医+0.8件0.2〜1.5
高患者数 vs. 低患者数+2.3件1.5〜3.2
西日本 vs. 東日本+1.0件0.5〜1.5

◆考察:なぜこのような傾向が?

  • 年齢と臨床慣習:年齢が高い医師は、従来の慣習に基づいた処方や検査を継続している可能性。
  • 専門医資格の有無:継続的な教育機会やEBMへの感度が、低付加価値医療の抑制に影響を与える可能性。
  • 診療ボリューム:患者数が多い医師は、時間的制約や診療の効率性を重視する中で、診療ガイドラインに反する対応が生じているかもしれない。
  • 地域差:西日本では検査や投薬の傾向が強いとする以前の研究結果と一致する部分がある。

評価指標である10項目は下表の通りです。

【評価指標】

分類項目名内容・基準対象患者
薬剤急性上気道感染症(AURI)に対する去痰薬慢性呼吸器疾患・抗菌薬適応の併存がないにもかかわらず、AURI診察時にアセチルシステインまたはカルボシステインを処方AURI診察を1回以上受けた患者
薬剤AURIに対する抗生物質抗生物質が必要な新たな診断がないAURI診察時に、経口抗生物質を処方AURI診察を1回以上受けた患者
薬剤AURIに対するコデイン慢性呼吸器疾患・慢性疼痛・抗菌薬適応の併存がないにもかかわらず、AURI診察時にコデインを処方AURI診察を1回以上受けた患者
薬剤腰痛に対するプレガバリン線維筋痛症、糖尿病、帯状疱疹後神経痛、動脈硬化症、椎間板障害、三叉神経痛、末梢神経障害の診断がないにもかかわらず、腰痛患者にプレガバリンを処方腰痛と診断された患者
薬剤糖尿病性神経障害に対するビタミンB12薬ビタミンB12欠乏を示す併存疾患がないにもかかわらず、糖尿病性神経障害患者にビタミンB12を処方糖尿病と診断された患者
検査短期反復BMD(骨密度)検査骨粗鬆症と診断された同年内に2回目以降の骨密度検査を実施骨粗鬆症と診断された患者
検査甲状腺機能低下症に対するT3レベル検査甲状腺機能低下症の患者に対し、T3(総T3または遊離T3)を測定甲状腺機能低下症と診断された患者
検査不必要なビタミンD検査慢性腎臓病、カルシウム代謝障害、二次性副甲状腺機能亢進症、ビタミンD欠乏症の診断を受けておらず、非副甲状腺ホルモン依存性高カルシウム血症(サルコイドーシス、結核、特定の腫瘍)を示唆する診断を受けていない患者に対するビタミンD検査18歳以上のすべての患者
手技腰痛に対する注射(硬膜外・椎間関節など)神経根障害が疑われない腰痛に対して、硬膜外、椎間関節、トリガーポイント注射を実施腰痛と診断された患者
手技不必要な内視鏡検査(消化不良・便秘)消化器癌・貧血・体重減少・嚥下障害等のリスク所見のない18~54歳の患者への内視鏡検査(胃・大腸)
便秘と診断され、貧血、体重減少、消化器系癌、またはその他の消化器系疾患の診断がない18〜49歳の患者に対する大腸内視鏡検査。
消化不良:18~54歳
便秘:18~49歳の該当患者

結論と政策的示唆

本研究は、日本における低付加価値医療の提供が一部の医師に集中的に偏在していることを示し、全体への画一的な介入よりも、特定グループに焦点を当てた介入の方が効率的である可能性を示唆しています。

たとえば:

  • 高齢医師への継続教育
  • 非専門医への臨床指針の普及
  • 地域別の診療慣行の見直し

こうした介入が、限られた医療資源の最適配分に貢献しうると考えられます。

とはいえ、あくまでも相関関係が示されたにすぎません。外的妥当性は高いものの、内的妥当性の評価には疑問が残ります。再現性の確認を含めて更なる検証が求められます。また、同様の結果が示された場合においても、介入は慎重に行う必要があるでしょう。

続報に期待。

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✅まとめ✅ 日本の横断研究の結果、価値の低い医療サービスが少数のプライマリケア医に広く行き渡っており、高齢の医師や専門医資格を持たない医師が価値の低い医療を提供する可能性が高いことが示唆された。

根拠となった試験の抄録

試験の重要性: 特に米国以外では、プライマリケアにおける低価値サービスの提供に関連する医師の特性に関する証拠は限られています。

目的: 純粋な臨床的利益をもたらさない10種類の価値の低い医療サービスの医師レベルの使用を測定し、日本で価値の低い医療を頻繁に提供するプライマリケア医の特徴を調査すること。

試験デザイン、設定、および参加者: この横断分析では、日本の請求データにリンクされた全国的な電子健康記録データベースを使用して、2022年10月1日から2023年9月30日までの個人開業プライマリケア医師への成人患者(年齢18歳以上)の受診を評価しました。データ分析は2024年6月から2025年2月まで実施されました。

主な結果と評価基準: ケースミックスやその他の特性を考慮した後、10個の低価値評価基準にわたって集計した、年間100人の患者あたりに提供される低価値ケア サービスの多変量調整複合率。

結果: 1,019人のプライマリケア医師 (平均年齢 56.4 [SD 10.2] 歳、男性 90.4%) が治療した 2,542,630人の患者 (平均年齢 51.6 [SD 19.8] 歳、女性 58.2%) のうち、436,317件の価値の低い医療サービスが特定されました(全体では患者100人あたり17.2件)。これらの価値の低い医療サービスのほぼ半分は、10%の医師によって提供されていました。患者の症例ミックスを考慮すると、高齢の医師(年齢60歳以上)は40歳未満の医師よりも患者100人あたり2.1件(95%信頼区間 1.0-3.3)多くの価値の低い医療サービスを提供しました。非専門医は、一般内科の専門医資格を持つ医師よりも患者100人あたり0.8件(95%信頼区間 0.2-1.5)患者数の多い医師は、患者数の少ない医師よりも患者100人あたり2.3人(95%CI 1.5-3.2)多く診察しており、西日本で開業している医師は東日本で開業している医師よりも患者100人あたり1.0人(95%CI 0.5-1.5)多く診察していることが明らかとなった。

結論と関連性: 本横断分析の結果は、日本において価値の低い医療サービスが少数のプライマリケア医に広く行き渡っており、高齢の医師や専門医資格を持たない医師が価値の低い医療を提供する可能性が高いことを示唆している。価値の低い医療を大量に提供している特定の少数の医師を対象とした政策介入は、すべての医師を一律に対象とする政策介入よりも効果的かつ効率的である可能性がある。

引用文献

Primary Care Physician Characteristics and Low-Value Care Provision in Japan
Atsushi Miyawaki et al. PMID: 40478554 PMCID: PMC12144622 DOI: 10.1001/jamahealthforum.2025.1430
JAMA Health Forum. 2025 Jun 7;6(6):e251430. doi: 10.1001/jamahealthforum.2025.1430.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40478554/

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