プロトンポンプ阻害薬(PPI)とクロストリジオイデス・ディフィシル感染症(CDI)との関連性
クロストリジオイデス・ディフィシル感染症(CDI)は、世界的に見ても医療関連感染症の主要な原因の一つであり、PPI使用は重要な修正可能なリスク因子として知られています。
しかし、PPI使用量や使用期間とCDIリスクの「量反応関係」はこれまで系統的に検討されていませんでした。
今回紹介するのは、PPIの用量・使用期間とCDIリスクの関係を明らかにするために行われた、系統的レビューおよびメタ解析です。
試験結果から明らかになったことは?
試験概要
項目 | 内容 |
---|---|
データソース | PubMed、Embase、Web of Science、Cochrane Library |
対象研究 | 観察研究(コホート、症例対照研究) |
メタ解析対象数 | 15研究(DDDベース:7研究[n=483,821]、期間ベース:7研究[n=516,441]) |
手法 | 2段階ランダム効果量反応メタ解析 |
主な結果
指標 | 推定リスク(RR) | 95%信頼区間(CI) | 異質性(I²) |
---|---|---|---|
PPI 10mg増量ごとのCDIリスク | 1.05 | 0.89~1.23 | 91.4% |
PPI療法1日延長ごとのCDIリスク | 1.02 | 1.00~1.05 | 99.4% |
- 全体的に線形の量反応関係が認められた。
- 用量・期間が増加するほどCDIリスクが上昇する傾向が示唆された。
- 残存異質性(I²)が高く、潜在的な原因特定は困難だった。
コメント
このメタ解析では、PPI使用量や使用期間が増えるほど、CDIリスクが上昇する可能性を支持しています。
ただし、リスク増加の幅は緩やかであり(1日あたりRR 1.02)、臨床的に有意な閾値(安全使用量や安全使用期間)については依然として不明です。
また、解析に組み入れられたのが観察研究であるためか、異質性が非常に高いことが気にかかります(I²>90%)。このため、対象患者群の違い、PPIの種類、併用薬、基礎疾患背景などがリスクに影響している可能性も考慮した方がよさそうです。
結論としては、PPIは最小限の用量・最短期間での使用を心がけ、やはり漫然投与は避けた方がよさそうという既存の指針を、今回の結果が裏付けたといえるでしょう。
今後、再現性の確認やボノプラザンなどのP-CABも含めた解析が求められます。
続報に期待。

✅まとめ✅ 観察研究のメタ解析の結果、PPI使用量および使用期間の増加に伴い、CDIリスクが上昇する可能性が示唆された。ただし、基礎的なメカニズムや臨床的に意味のあるリスク増加の閾値については、今後の研究が必要である。
根拠となった試験の抄録
背景:クロストリジオイデス・ディフィシル(CDI)は、世界的に医療関連感染症の主要な原因であり、プロトンポンプ阻害薬(PPI)使用は重要な修正可能なリスク因子とされる。本研究は、PPI使用量とCDIリスクとの用量反応関係を系統的に検討し、CDIに関連する安全なPPI使用閾値を特定することを目的とした。
方法:PubMed、Embase、Web of Science、Cochrane Libraryを検索し、PPI使用とCDI発症に関する縦断研究を対象とした。データは、定義された1日用量(Defined Daily Dose:DDD)およびPPI療法期間に基づき、それぞれ2段階ランダム効果量反応メタ解析に組み込んだ。PPI非使用者との比較において、調整後相対リスク(RR)と95%信頼区間(CI)を推定した。
結果:全体で15件の観察研究が含まれた(DDDに基づくメタ解析は7研究、n=483,821;療法期間に基づくメタ解析は7研究、n=516,441)。バイアスリスクは中程度だった。
統合された量反応推定では、DDDあたりRR 1.05(95%CI 0.89~1.23)、療法期間1日あたりRR 1.02(95%CI 1.00~1.05)と、線形的な増加傾向が示された。両解析において高い残存異質性が検出された(DDD解析I²=91.4%、療法期間解析I²=99.4%)が、原因特定は困難だった。
解釈:PPI使用量および使用期間の増加に伴い、CDIリスクが上昇する可能性が示唆された。ただし、基礎的なメカニズムや臨床的に意味のあるリスク増加の閾値については、今後の研究が必要である。
引用文献
Proton Pump Inhibitor Use and Risk of Clostridioides difficile Infection: A Dose-Response Meta-analysis
Philipp Geyrhofer et al. PMID: 40239816 DOI: 10.1016/j.lanepe.2025.100793
Lancet Reg Health Eur. 2025 Apr;39:100793. doi: 10.1016/j.lanepe.2025.100793. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40239816/
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