PAD患者における歩行運動は高強度が良い?
末梢動脈疾患(peripheral artery disease, PAD)患者における特徴的な症状の一つに”間欠性跛行”があげられます。これに対して、定期的な歩行運動が効果的であることが報告されていますが、患者報告アウトカムに対する影響や運動強度の比較は充分に行われていません。
そこで今回は、虚血性下肢症状を誘発するペース(高強度)での12ヵ月間の歩行運動が、患者報告アウトカム指標(patient-reported outcome measures, PROM)および6分間歩行の有意な改善達成に及ぼす影響について、快適なペース(低強度)での歩行運動および運動なしの対照と比較評価したランダム化比較試験の結果をご紹介します。
試験参加者は、客観的な歩行能力を評価するために6分間歩行試験(6-minute walk test, 6MWT)が行われました。PROMには、歩行障害質問票(Walking Impairment Questionnaire, WIQ)の距離と速度のスコア(範囲 0~100、最高点100、臨床的に重要な最小差 MCID*=それぞれ15と11)が含まれました。
*minimal clinically important difference
試験結果から明らかになったことは?
240人(黒人61.7%、女性48.3%)が試験に参加しました。
6MWT | |
高強度運動群 vs. 対照群 | +44.8m(95%CI 21.7~68.0) |
高強度運動群 vs. 低強度運動群 | +37.6m(95%CI 18.6~56.5) |
低強度運動群 vs. 対照群 | +7.3m(95%CI -16.3~30.9) |
高強度運動は対照(+44.8m、95%CI 21.7~68.0)あるいは低強度運動(+37.6m、95%CI 18.6~56.5)と比較して6MWTを増加させました。
低強度の運動は、対照と比較して有意な利益は示されませんでした(+7.3m、95%CI -16.3~30.9)。
オッズ比 OR | |
高強度運動群 vs. 対照群 | OR 5.22(95%CI 2.32~11.76) |
高強度運動群 vs. 低強度運動群 | OR 2.43(95%CI 1.35~4.38) |
高強度運動は、低強度運動(OR 2.43、95%CI 1.35~4.38)と対照(OR 5.22、95%CI 2.32~11.76)と比較して、6MWTのMCIDの達成を有意に増加させました。
MCIDを達成するオッズ | WIQ距離スコア | WIQスピードスコア |
高強度運動群 vs. 対照群 | OR 2.30 (95%CI 1.05~5.04) | OR 2.94 (95%CI 1.27~6.83) |
高強度運動群 vs. 低強度運動群 | OR 0.93 (95%CI 0.53~1.66) | OR 1.31 (95%CI 0.71~2.43) |
対照と比較して、高強度運動は、WIQ距離スコア(OR 2.30、95%CI 1.05~5.04)とWIQスピードスコア(OR 2.94、95%CI 1.27~6.83)でMCIDを達成する確率を有意に増加させました。
低強度運動と比較して、高強度運動は、WIQ距離(OR 0.93、95%CI 0.53~1.66)またはWIQスピードスコア(OR 1.31、95%CI 0.71~2.43)でMCIDを達成するオッズを有意に増加させませんでした。
コメント
PAD患者における歩行運動の効果については、多くのランダム化比較試験で有用であることが報告されています。しかし、患者報告アウトカムに対する効果についてはデータが限られています。
さて、ランダム化比較試験の結果、末梢動脈疾患(PAD)患者において、高強度の歩行運動は、対照と比較して患者報告アウトカム指標(PROMs)の有意な改善のオッズを増加させましたが、低強度運動では有意な効果が得られませんでした。にもかかわらず、高強度運動は低強度運動群および非運動対照群よりも6分間歩行試験を改善しました。
歩行運動を行う場合、高強度運動をした方が歩行距離の延長や歩行障害の改善において有益であると考えられます。どのような患者で歩行運動の効果が最大化するのか、運動メニューが適しているのか、更なる検証が求められます。
続報に期待。

✅まとめ✅ ランダム化比較試験の結果、末梢動脈疾患(PAD)患者において、高強度の歩行運動は、対照と比較して患者報告アウトカム指標(PROMs)の有意な改善のオッズを増加させたが、低強度運動では有意な効果が得られなかった。にもかかわらず、高強度運動は低強度運動群および非運動対照群よりも6分間歩行試験を改善した。
根拠となった試験の抄録
背景:末梢動脈疾患(peripheral artery disease, PAD)患者において、虚血性下肢症状を誘発するペース(高強度)での12ヵ月間の歩行運動が、患者報告アウトカム指標(patient-reported outcome measures, PROM)および6分間歩行の有意な改善達成に及ぼす影響を、快適なペース(低強度)での歩行運動および運動なしの対照と比較して評価した。
方法:試験参加者は、客観的な歩行能力を評価するために6分間歩行試験(6-minute walk test, 6MWT)を行った。PROMには、歩行障害質問票(Walking Impairment Questionnaire, WIQ)の距離と速度のスコア(範囲 0~100、最高点100、臨床的に重要な最小差 MCID*=それぞれ15と11)が含まれた。
*minimal clinically important difference
結果:240人(黒人61.7%、女性48.3%)が参加した。高強度運動は対照(+44.8m、95%CI 21.7~68.0)あるいは低強度運動(+37.6m、95%CI 18.6~56.5)と比較して6MWTを増加させた。低強度の運動は、対照と比較して有意な利益はなかった(+7.3m、95%CI -16.3~30.9)。高強度運動は、低強度運動(OR 2.43、95%CI 1.35~4.38)と対照(OR 5.22、95%CI 2.32~11.76)と比較して、6MWTのMCIDの達成を有意に増加させた。対照と比較して、高強度運動は、WIQ距離スコア(OR 2.30、95%CI 1.05~5.04)とWIQスピードスコア(OR 2.94、95%CI 1.27~6.83)でMCIDを達成する確率を有意に増加させた。低強度と比較して、高強度は、WIQ距離(OR 0.93、95%CI 0.53~1.66)またはWIQスピードスコア(OR 1.31、95%CI 0.71~2.43)でMCIDを達成するオッズを有意に増加させなかった。
結論:PAD患者において、高強度の歩行運動は、対照と比較してPROMsの有意な改善のオッズを増加させたが、低強度運動では有意な効果が得られなかった。にもかかわらず、高強度運動は低強度運動群および非運動対照群よりも6MWTを改善した(NCT02538900)。
キーワード:6分間歩行、運動、運動療法、在宅運動、間欠性跛行、移動能力、末梢動脈疾患、自己報告、歩行
引用文献
Home-Based Exercise and Patient-Reported Outcome Measures in Peripheral Artery Disease: The LITE Randomized Clinical Trial
Mary O Whipple et al. PMID: 40020770 DOI: 10.1016/j.amjcard.2025.02.027
Am J Cardiol. 2025 Feb 26:244:41-47. doi: 10.1016/j.amjcard.2025.02.027. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40020770/
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