薬剤師が介入することでストレス潰瘍予防薬の過剰使用を抑制できるのか?
ICUの患者では、しばしばストレス性潰瘍が認められることから、酸抑制薬などのストレス潰瘍予防薬(stress ulcer prophylaxis, SUP)が用いられます。しかし、リスク評価が不充分であるためにSUPが過剰使用されていることもあります。薬剤師が介入することで、SUP過剰使用を抑制できる可能性がありますが、充分に検証されていません。
そこで今回は、中国のICUの成人患者を対象に、薬剤師主導による介入を行い、通常のケアと比較して、ストレス潰瘍予防薬(stress ulcer prophylaxis, SUP)の過剰使用を減少できるか評価したクラスターランダム化比較試験の結果をご紹介します。
本試験は実用的、多施設、ステップウェッジ、クラスターランダム化比較験であり、2022年10月~2023年3月に中国の26件のICUで実施されました。試験対象となったのは、ICUに新規入院した18歳以上の患者2,199例でした。
複雑な介入策の開発と評価のための医学研究評議会の枠組みを用い、学際的チーム(シナリオ、介入策の改善と改良、研究理論の構築と改良と検証、利害関係者の取り込み、重要な不確実性の特定、経済学的考察)が多面的介入をデザインしました。
本試験の主要アウトカムは、SUPを受けた患者の割合と顕性消化管出血を認めた患者の割合でした。一般化線形混合モデルによりintention-to-treat解析が行われ、潜在的交絡因子(年齢、性別、急性生理・慢性健康評価IIスコア)の調整、部位についてはランダム効果が用いられました。
試験結果から明らかになったことは?
介入群 | 対照群 | オッズ比 OR (95%CI) | |
SUPを受けた患者の割合 | 45.5% | 49.5% | OR 0.81 (0.68~0.96) p=0.017 |
明らかな消化管出血を来した患者の割合 | 3.7% | 4.0% | OR 1.05 (0.65~2.85) p=0.81 |
介入群でSUPを受けた患者の割合は、対照群よりも低いことが示されました(45.5% vs. 49.5%;オッズ比[OR] 0.81、95%CI 0.68~0.96;p=0.017)。
明らかな消化管出血を来した患者の割合も同様でした(3.7% vs. 4.0%;OR 1.05、95%CI 0.65~2.85;p=0.81)。
コメント
ICU患者において、ストレス潰瘍予防薬(stress ulcer prophylaxis, SUP)がルーティン使用されています。薬剤師が介入することでSUP過剰使用を抑制できるのかについては充分に検証されていません。
さて、クラスターランダム化比較試験の結果、薬剤師主導の介入は、顕性消化管出血患者の割合に有意な影響を与えることなく、ICUにおいてストレス潰瘍予防薬を投与される患者の割合を減少させました。
治療必要数(NNT)は25ですが、群間の絶対差は4%です。この差が実臨床でどのくらいの効果があるのか、治療コスト、副作用発生時のコストなど医療費の観点からも更なる検証が求められます。
とはいえ、不要な薬剤を削減することも薬剤師の業務の一つであり、薬剤師の介入によりSUP使用割合が減少したことは非常に貴重な結果です。
続報に期待。

✅まとめ✅ クラスターランダム化比較試験の結果、薬剤師主導の介入は、顕性消化管出血患者の割合に有意な影響を与えることなく、ICUにおいてストレス潰瘍予防薬を投与される患者の割合を減少させた。
根拠となった試験の抄録
目的:本研究の目的は、中国のICUの成人患者を対象に、薬剤師主導による介入を行い、通常のケアと比較して、ストレス潰瘍予防薬(stress ulcer prophylaxis, SUP)の過剰使用を減少させる効果を評価することである。
試験デザイン:実用的、多施設、ステップウェッジ、クラスターランダム化対照試験。
試験設定:2022年10月~2023年3月に中国の26のICUで実施。
試験患者:ICUに新規入院した18歳以上の患者2,199例を登録した。
介入:複雑な介入策の開発と評価のための医学研究評議会の枠組みを用い、学際的チーム(シナリオ、介入策の改善と改良、研究理論の構築と改良と検証、利害関係者の取り込み、重要な不確実性の特定、経済学的考察)が多面的介入をデザインした。
測定と主要アウトカム:主要アウトカムは、SUPを受けた患者の割合と顕性消化管出血を認めた患者の割合とした。一般化線形混合モデルを用いてintention-to-treat解析を行い、潜在的交絡因子(年齢、性別、急性生理・慢性健康評価IIスコア)を調整し、部位についてはランダム効果を用いた。
結果:介入群でSUPを受けた患者の割合は、対照群よりも低かった(45.5% vs. 49.5%;オッズ比[OR] 0.81、95%CI 0.68~0.96;p=0.017)。明らかな消化管出血を来した患者の割合も同様であった(3.7% vs. 4.0%;OR 1.05、95%CI 0.65~2.85;p=0.81)。
結論:薬剤師主導の介入は、顕性消化管出血患者の割合に有意な影響を与えることなく、ICUにおいてSUPを投与される患者の割合を減少させた。これらの知見はICUでの医療上の意思決定の指針となるであろう。
コメント
Effectiveness of a Pharmacist-Led Intervention to Reduce Acid Suppression Therapy for Stress Ulcer Prophylaxis in ICUs in China: A Multicenter, Stepped-Wedge, Cluster-Randomized Controlled Trial
Hailong Li et al. PMID: 39887291 DOI: 10.1097/CCM.0000000000006589
Crit Care Med. 2025 Jan 31. doi: 10.1097/CCM.0000000000006589. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39887291/
コメント