脳卒中後のてんかん発作とは?
脳卒中後発作(poststroke seizures, PSS)は、脳卒中(脳梗塞、脳出血、くも膜下出血など)の後に発生する単発または複数回の発作を指します。脳卒中は成人における後天性てんかんの主要な原因の一つであり、特に高齢者での発症が多いとされています。
PSSに対して抗てんかん薬が使用されますが、最も効果的な抗てんかん薬(antiseizure medications, ASM)は依然として不明です。
そこで今回は、PSS患者におけるASMと関連した転帰を明らかにすることを目的に実施されたネットワークメタ解析の結果をご紹介します。
本解析の前に、ASMを使用しているPSS患者に関する研究について電子データベースを用いた系統的な検索が実施されました。
本解析の転帰は発作の再発、有害事象、投薬中止率、死亡率でした。ランダム化比較試験に関するCochrane Risk of Biasツールと介入に関するRisk Of Bias In Non-randomized Studies of Interventionsツールにより、バイアスのリスクが評価されました。
レベチラセタムを参照治療とし、頻度論的ネットワークメタ解析(Frequentist network meta-analysis)が実施され、Grading of Recommendations Assessment, Development, and Evaluation(GRADE)の手法によりエビデンスの確実性が決定されました。
試験結果から明らかになったことは?
検索により、13のASMを比較した15件の研究(ランダム化3件、非ランダム化12件、N=18,676人の患者:早期発作121人、後期発作18,547人、60%が男性、平均年齢69歳)が得られました。バイアスリスクは3試験が中等度、12試験が高リスクでした。発作の再発は24.8%でした。
(フェニトイン vs. レベチラセタム) | オッズ比 OR (95%CI) |
発作再発 | OR 7.3(3.7~14.5) 非常に確実性の低いエビデンス |
有害事象 | OR 5.2(1.2~22.9) 非常に確実性の低いエビデンス |
レベチラセタムとの比較において、フェニトインはより高い発作再発(オッズ比[OR] 7.3、95%CI 3.7~14.5)およびより多くの有害事象(OR 5.2、95%CI 1.2~22.9)と関連することを示唆する非常に確実性の低いエビデンスが示されました。
(vs. レベチラセタム) | 服薬中止率のオッズ比 OR (95%CI) |
カルバマゼピン | OR 1.8(1.5~2.2) 確実性の低いエビデンス |
フェニトイン | OR 1.9(1.4~2.8) 確実性の低いエビデンス |
確実性の低いエビデンスでは、カルバマゼピン(OR 1.8、95%CI 1.5~2.2)およびフェニトイン(OR 1.9、95%CI 1.4~2.8)が高い服薬中止率と関連していることが示唆されました。
(vs. レベチラセタム) | 死亡率のオッズ比 OR (95%CI) |
バルプロ酸 | OR 4.7(3.6~6.3) |
フェニトイン | OR 8.3(5.7~11.9) |
バルプロ酸(OR 4.7、95%CI 3.6~6.3)とフェニトイン(OR 8.3、95%CI 5.7~11.9)は、高い死亡率と関連することが中~高確実性のエビデンスから示唆されました。
すべての治療を考慮し、治療の順位付けにGRADEアプローチを用いたところ、非常に確実性の低いエビデンスでは、エスリカルバゼピン(eslicarbazepine)、ラコサミド、レベチラセタムが発作の再発が最も少ないことが示唆されました。
低~非常に低い信頼性のエビデンスでは、ラモトリギンの有害事象および服薬中止が最も少ないことが示唆され、中程度の信頼性のエビデンスでは、ラモトリギンとレベチラセタムによる治療が、死亡率が低いことと関連していることが示されました。
コメント
脳卒中後発作に対する最適な抗てんかん薬に関する検証は充分に行われていません。
さて、ネットワークメタ解析の結果、レベチラセタムおよびラモトリギンは脳卒中後発作(PSS)に対する安全かつ忍容性の高い抗てんかん薬である可能性が示されました。抗てんかん薬の使用にもかかわらず、PSS集団における発作再発率は依然として高いことも明らかとなりました。
まだまだデータが限られていますが、現時点においては、レベチラセタムやラモトリギンが優れていそうです。
再現性の確認も含めて更なる検証が求められます。
続報に期待。
※それぞれの薬剤の特徴とモニタリングについて、以下に簡単にまとめます。
+α 追加情報
ラモトリギン
利点:
- 認知機能への影響が少なく、高齢者にも適している
- 血中濃度モニタリングが必須ではない(ただし、併用薬により調整が必要)
- 眠気や倦怠感が比較的少ない
欠点:
- 皮膚障害(スティーブンス・ジョンソン症候群、TEN)のリスクがあるため、漸増投与が必須
- 併用薬(特にバルプロ酸)で血中濃度が大きく変動する
- 低用量から開始し、効果が出るまで時間がかかる
患者モニタリング:
- 導入期:
- 皮膚障害(薬疹)の確認:特に発疹(紅斑、紫斑)が出た場合は中止
- 開始時は低用量から漸増(急激な増量で皮膚障害リスク増大)
- バルプロ酸との併用では用量を半減(代謝抑制による蓄積)
- 維持期:
- 血中濃度測定は通常不要(ただし、相互作用が疑われる場合は測定)
- 認知機能低下や倦怠感の有無
- 骨粗鬆症リスク(長期使用で骨密度低下の可能性)
レベチラセタム
利点:
- 作用発現が速い(即効性があり、急性期にも使いやすい)
- 認知機能への影響が少ない
- 腎排泄型のため、肝機能障害の影響を受けにくい
- 血中濃度モニタリング不要
- 薬物相互作用が少なく、併用しやすい
欠点:
- 精神症状(抑うつ、不安、攻撃性)のリスク
- 高齢者では眠気や疲労感が出ることがある
- 腎機能低下時に投与量調整が必要
患者モニタリング:
導入期:
- 精神症状のチェック(抑うつ、不安、攻撃性)
- 腎機能評価(eGFRが低下している場合、減量が必要)
- 眠気や倦怠感の有無
維持期:
- 精神症状の持続確認(攻撃性や抑うつが出た場合は減量または変更)
- 腎機能の定期モニタリング(eGFRが低下してきたら減量)
- 認知機能のチェック
比較表:ラモトリギン vs. レベチラセタム
項目 | ラモトリギン | レベチラセタム |
---|
作用機序 | Naチャネル遮断 等 | シナプス小胞タンパク質2A(SV2A)結合 等 |
適応 | ○てんかん患者の下記発作に対する単剤療法 ・部分発作(二次性全般化発作を含む) ・強直間代発作 ・定型欠神発作 ○他の抗てんかん薬で十分な効果が認められないてんかん患者の下記発作に対する抗てんかん薬との併用療法 ・部分発作(二次性全般化発作を含む) ・強直間代発作 ・Lennox-Gastaut症候群における全般発作 ○双極性障害における気分エピソードの再発・再燃抑制 | ○てんかん患者の部分発作(二次性全般化発作を含む) ○他の抗てんかん薬で十分な効果が認められないてんかん患者の強直間代発作に対する抗てんかん薬との併用療法 |
認知機能への影響 | ほぼなし | ほぼなし |
精神症状 | 少ない | 抑うつ・攻撃性に注意 |
薬物相互作用 | あり(特にバルプロ酸) | ほぼなし |
肝代謝の影響 | あり(CYP代謝) | なし(腎排泄) |
腎機能の影響 | なし | 腎機能低下時は減量 |
皮膚障害 | SJS/TENリスクあり(漸増が必須) | なし |
眠気・倦怠感 | 少ない | あり |
即効性 | 効果発現が遅い(漸増が必要) | 効果発現が速い |
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✅まとめ✅ ネットワークメタ解析の結果、レベチラセタムおよびラモトリギンは脳卒中後発作(PSS)に対する安全かつ忍容性の高い抗てんかん薬である可能性が示された。抗てんかん薬の使用にもかかわらず、PSS集団における発作再発率は依然として高いことも明らかとなった。
根拠となった試験の抄録
背景と目的:脳卒中後発作(poststroke seizures, PSS)に対する最も効果的な抗てんかん薬(antiseizure medications, ASM)は依然として不明である。われわれはPSS患者におけるASMと関連した転帰を明らかにすることを目的とした。
方法:ASMを使用しているPSS患者に関する研究について電子データベースを系統的に検索した。転帰は発作の再発、有害事象、投薬中止率、死亡率とした。ランダム化比較試験に関するCochrane Risk of Biasツールと介入に関するRisk Of Bias In Non-randomized Studies of Interventionsツールを用いてバイアスのリスクを評価した。レベチラセタムを参照治療とし、頻度論的ネットワークメタ解析(Frequentist network meta-analysis)を実施し、Grading of Recommendations Assessment, Development, and Evaluation(GRADE)の手法を用いてエビデンスの確実性を決定した。
結果:検索により、13のASMを比較した15件の研究(ランダム化3件、非ランダム化12件、N=18,676人の患者:早期発作121人、後期発作18,547人、60%が男性、平均年齢69歳)が得られた。バイアスリスクは3試験が中等度、12試験が高リスクであった。発作の再発は24.8%であった。レベチラセタムとの比較において、フェニトインはより高い発作再発(オッズ比[OR] 7.3、95%CI 3.7~14.5)およびより多くの有害事象(OR 5.2、95%CI 1.2~22.9)と関連することを示唆する非常に確実性の低いエビデンスがあった。確実性の低いエビデンスでは、カルバマゼピン(OR 1.8、95%CI 1.5~2.2)およびフェニトイン(OR 1.9、95%CI 1.4~2.8)が高い投薬中止率と関連していることが示唆された。バルプロ酸(OR 4.7、95%CI 3.6~6.3)とフェニトイン(OR 8.3、95%CI 5.7~11.9)は、高い死亡率と関連することが中~高確実性のエビデンスから示唆された。すべての治療を考慮し、治療の順位付けにGRADEアプローチを用いたところ、非常に確実性の低いエビデンスでは、エスリカルバゼピン(eslicarbazepine)、ラコサミド、レベチラセタムが発作の再発が最も少ないことが示唆された。低~非常に低い信頼性のエビデンスでは、ラモトリギンの有害事象および投薬中止が最も少ないことが示唆され、中程度の信頼性のエビデンスでは、ラモトリギンとレベチラセタムの死亡率が低いことが示された。
考察:レベチラセタムおよびラモトリギンはPSSに対する安全かつ忍容性の高いASMである可能性が示された。ASMの使用にもかかわらず、PSS集団における発作再発率は依然として高い。バイアスと交絡リスクのため、これらの知見は慎重に解釈されるべきである。
試験登録情報:Prospero. Crd42022363844
引用文献
Antiseizure Medications in Poststroke Seizures: A Systematic Review and Network Meta-Analysis
Shubham Misra et al. PMID: 39808752 DOI: 10.1212/WNL.0000000000210231
Neurology. 2025 Feb 11;104(3):e210231. doi: 10.1212/WNL.0000000000210231. Epub 2025 Jan 14.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39808752/
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