高血圧が死亡リスクに影響する年齢層は?
高齢者の高血圧治療は、年齢、併存疾患、虚弱性(フレイル)、認知症、終末期ケアなどの要因に基づいた個別の決定が必要であり、取り組むべき課題がまだ残っています。
そこで今回は、65歳以上の日本人高齢者4万人を超える大規模コホートにおいて、異常血圧が全死亡率と心血管疾患による死亡率のリスクに与える影響を調査することを目的に実施されたコホート研究の結果をご紹介します。
このコホート研究では、2006年4月から2008年3月までに基本健康診査を受診した岡山市の65歳以上の高齢者54,760人が登録されました。参加者は血圧に基づいてC1(最低)からC6(最高)までの6つのカテゴリーに分けられました。
血圧と全死因死亡率および心血管系死亡率との関連を評価するために、生存分析が採用され、C3における全死因死亡率のハザード比(HR)と心血管系死亡率の下位分布HR(SHR)が推定されました。その後、年齢群(65~74歳、75~84歳、≧85歳)に基づいて解析が繰り返されました。
試験結果から明らかになったことは?
C1 sBP < 120 dBP < 80 | C2 120 ≤ sBP < 130 80 ≤ dBP < 85 | C3 130 ≤ sBP < 140 85 ≤ dBP < 90 | C4 140 ≤ sBP < 160 90 ≤ dBP < 100 | C5 160 ≤ sBP < 180 100 ≤ dBP < 110 | C6 180 ≤ sBP 110 ≤ dBP |
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症例数/総数 | 未調整 | 年齢・性別で調整 | 完全調整* | |
n/N(%) | HR(95%CI) | HR(95%CI) | HR(95%CI) | |
総死亡 | 16,101/54,760 (29.4) | |||
C1 | 2,844/8,706 (32.7) | 1.26 (1.20~1.32) | 1.28 (1.21~1.34) | 1.15 (1.09~1.21) |
C2 | 2,854/10,138 (28.2) | 1.04 (0.99~1.09) | 1.04 (0.99~1.09) | 1.01 (0.96~1.06) |
C3 | 3,613/13,170 (27.4) | Ref | Ref | Ref |
C4 | 5,047/17,248 (29.3) | 1.07 (1.03~1.12) | 1.02 (0.97~1.06) | 1.03 (0.99~1.08) |
C5 | 1,428/4,620 (30.9) | 1.15 (1.08~1.22) | 1.06 (1.00~1.13) | 1.11 (1.04~1.19) |
C6 | 315/878 (35.9) | 1.38 (1.23~1.55) | 1.19 (1.06~1.33) | 1.23 (1.09~1.38) |
心血管死亡 | 4,280/54,760 (7.8) | |||
C1 | 702/8,706 (8.1) | 1.13 (1.02~1.25) | 1.05 (0.95~1.16) | 0.99 (0.89~1.10) |
C2 | 735/10,138 (7.3) | 1.01 (0.92~1.11) | 1.00 (0.91~1.10) | 0.98 (0.89~1.09) |
C3 | 948/13,170 (7.2) | Ref | Ref | Ref |
C4 | 1,387/17,248 (8.0) | 1.12 (1.03~1.21) | 1.08 (0.99~1.17) | 1.11 (1.01~1.21) |
C5 | 406/4,620 (8.8) | 1.23 (1.09~1.38) | 1.14 (1.01~1.28) | 1.19 (1.05~1.34) |
C6 | 102/878 (11.6) | 1.65 (1.34~2.02) | 1.38 (1.12~1.70) | 1.36 (1.09~1.70) |
*年齢、性別、肥満度、心臓病、腎臓病、糖尿病、肝臓病、貧血、高脂血症、定期的な運動、飲酒、喫煙で調整。
個々の潜在的交絡因子をすべて含めた全死亡の完全調整HRは、それぞれC5で1.11(95%信頼区間[CI] 1.04~1.19)、C6で1.23(95%CI 1.09~1.38)でした。
心血管死亡率の完全調整SHRは、C4で1.11(95%CI 1.01~1.21)、C5で1.19(95%CI 1.05~1.34)、C6で1.36(95%CI 1.09~1.70)でした。
年齢層別では、高齢になるほど低血圧リスクの増加が観察されました。C1のHRは85歳以上で1.28(95%CI 1.16~1.41)でした。
コメント
65歳以上の高齢者における血圧値と死亡リスクとの関連性については充分に検証されていません。
さて、日本の高齢者と対象としたコホート研究の結果、高血圧は65~74歳および75~84歳において全死因死亡および心血管死亡のリスクを増加させましたが、85歳以上では増加しませんでした。
あくまでも相関関係が示されたにすぎませんが、日本人を対象とした貴重な検証結果です。これまでに高齢者を対象に実施されたランダム化比較試験や大規模コホート研究の結果は、白人を対象とした研究が多く、研究結果を日本を含めたアジア人に外挿するのには限界がありました。また、白人高齢者では過体重や肥満を効率に合併していることが多く、日本人でみられる非肥満患者とは心血管イベントのハイリスク患者とは異なっています。
今回の結果から、日本人の65歳以上の高齢者において、高血圧カテゴリーC3(130 ≤ sBP < 140、85 ≤ dBP < 90)と比較して、C4(140 ≤ sBP < 160、90 ≤ dBP < 100)以上で死亡リスクや心血管死亡リスクが増加する可能性が示されました。また、死亡については、C1(sBP < 120、dBP < 80)でもリスク増加が示唆されています。高すぎても低すぎてもリスク増加が示されたことは、これまでに報告された海外での研究結果と一致しています。降圧療法などの介入により、死亡リスクが低減するのか、降圧による恩恵をより享受できるのはどのような患者なのか、更なる検証が求められます。
続報に期待。
✅まとめ✅ 日本の高齢者と対象としたコホート研究の結果、高血圧は65~74歳および75~84歳において全死因死亡および心血管死亡のリスクを増加させたが、85歳以上では増加しなかった。
根拠となった試験の抄録
目的:本研究の目的は、65歳以上の日本人高齢者の大規模コホートにおいて、血圧異常が全死因死亡および心血管死亡のリスクに及ぼす影響を検討することである。
方法:このコホート研究では、2006年4月から2008年3月までに基本健康診査を受診した岡山市の65歳以上の高齢者54,760人を登録した。参加者は血圧に基づいてC1(最低)からC6(最高)までの6つのカテゴリーに分けられた。血圧と全死因死亡率および心血管系死亡率との関連を評価するため、生存分析を用いて、C3における全死因死亡率のハザード比(HR)と心血管系死亡率の下位分布HR(SHR)を推定した。その後、年齢群(65~74歳、75~84歳、≧85歳)に基づいて解析を繰り返した。
結果:個々の潜在的交絡因子をすべて含めた全死亡の完全調整HRは、それぞれC5で1.11(95%信頼区間[CI] 1.04~1.19)、C6で1.23(95%CI 1.09~1.38)であった。心血管死亡率の完全調整SHRは、C4で1.11(95%CI 1.01~1.21)、C5で1.19(95%CI 1.05~1.34)、C6で1.36(95%CI 1.09~1.70)であった。年齢層別では、高齢になるほど低血圧リスクの増加が観察された。C1のHRは85歳以上で1.28(95%CI 1.16~1.41)であった。
結論:高血圧は65~74歳および75~84歳において全死因死亡および心血管死亡のリスクを増加させたが、85歳以上では増加しなかった。
キーワード:日本人高齢者;全死亡率;心血管疾患;高血圧;生存分析
引用文献
Impact of high blood pressure on the risk of mortality among Japanese people aged 65 years and older
Shinsuke Akag et al. PMID: 39663894 DOI: 10.1111/ggi.15046
Geriatr Gerontol Int. 2024 Dec 12. doi: 10.1111/ggi.15046. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39663894/
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