2型糖尿病で肥満度が低~正常の患者におけるSGLT2阻害薬と心血管イベントとの関連性は?(標的試験模倣研究; Cardiovasc Diabetol. 2024)

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SGLT2阻害薬による予後改善効果は肥満度が高い患者の方が高い?

2型糖尿病に対するNa-グルコース共輸送体2(SGLT2)阻害薬に関する主要なランダム化比較試験において、BMI(body mass index;体重25.0kg/m2未満)が正常から低値の患者の割合が低いことが知られています。しかし、日本人においては、BMI 25.0kg/m2未満の2型糖尿病患者の割合がより多いことから、この患者層における更なる検証が求められています。

そこで今回は、2型糖尿病でBMIが低~正常の患者におけるSGLT2阻害薬の心血管アウトカムに対する有効性を、これまでの試験よりも細かい層別化を用いて検討することを目的に実施されたコホート研究の結果をご紹介します。

2015年4月1日から2022年3月31日までに取得された日本の3,000万人以上の現役世代の保険請求記録および健診記録(協会けんぽ提供)を用いて、標的試験エミュレーションの枠組みを用いたコホート研究が行われました。

SGLT2阻害薬の新規使用者13万9,783人が、ジペプチジルプロテアーゼ(DPP)4阻害薬の使用者13万9,783人とBMI区分(<20.0、20.0~22.4、22.5~24.9、25.0~29.9、30.0~34.9、35.0≦kg/m2)で層別化によりマッチングされました。

本研究の主要アウトカムは全死亡、心筋梗塞、脳卒中、心不全の複合でした。副次的転帰は主要転帰の構成因子でした。Cox比例ハザードモデルを用いて、全集団およびBMIカテゴリーで定義されたサブグループにおいてSGLT2阻害薬とDPP4阻害薬が比較されました。

試験結果から明らかになったことは?

試験参加者のうち、17.3%(n=48,377)が女性で、31.0%(n=86,536)が低〜正常BMI(<20.0kg/m2、1.9%[n=5,350]、20.0〜22.4kg/m2、8.5%[n=23,818]、22.5〜24.9kg/m2、20.5%[n=57,368])でした。

追跡期間中央値24ヵ月間で、主要転帰は参加者の2.9%(n=8,165)に発現しました。

主要アウトカム
全死亡、心筋梗塞、脳卒中、心不全の複合
ハザード比 HR
(95%CI)
全集団HR 0.92(0.89~0.96
<20. 0kg/m2HR 1.08(0.80~1.46
20.0~22.4kg/m2HR 1.04(0.90~1.20
22.5~24.9kg/m2HR 0.92(0.84~1.01
25.0~29.9kg/m2HR 0.93(0.88~0.99)
30.0~34.9kg/m2HR 0.87(0.80~0.95)
≥35.0kg/m2HR 0.84(0.72~0.99)

SGLT2阻害薬は全集団において主要転帰の発生率の低下と関連していました(HR 0.92、95%CI 0.89~0.96)が、BMIが低値から正常値の結果は次の通りでした(<20. 0kg/m2、HR 1.08、95%CI 0.80~1.46; 20.0~22.4kg/m2、HR 1.04、95%CI 0.90~1.20; 22.5~24.9kg/m2、HR 0.92、95%CI 0.84~1.01)。

コメント

2型糖尿病は遺伝的、環境的要因により発症することが報告されており、肥満や高血圧症を合併することが知られています。医薬品の承認に際して実施される臨床試験の結果は、海外の2型糖尿病を有する患者を対象とした検証結果であり、そのほとんどがBMI≧25kg/m2であることから、BMI25<kg/m2の割合が比較的多い日本人患者には外挿できない可能性があります。

さて、標的試験エミュレーションの枠組みを用いたコホート研究の結果、2型糖尿病患者における心血管イベントに対するSGLT2阻害薬の予防効果は、BMIが低いほど減少するようであり、BMIが低値から正常値(<25.0kg/m2)の患者では有意ではありませんでした。

BMI≧25kg/m2の患者では、そもそも心血管イベントの発生リスクが高いことから、SGLT2阻害薬による予後改善効果が得られやすかったものと考えられます。

再現性の確認を含めて、更なる検証が求められます。

続報に期待。

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✅まとめ✅ 標的試験エミュレーションの枠組みを用いたコホート研究の結果、2型糖尿病患者における心血管イベントに対するSGLT2阻害薬の予防効果は、BMIが低いほど減少するようであり、BMIが低値から正常値(<25.0kg/m2)の患者では有意ではなかった。

根拠となった試験の抄録

背景:2型糖尿病に対するNa-グルコース共輸送体2(SGLT2)阻害薬に関する主要なランダム化比較試験において、BMI(body mass index;体重25.0kg/m2未満)が正常から低値の患者の割合が低かった。本研究の目的は、2型糖尿病でBMIが低~正常の患者におけるSGLT2阻害薬の心血管アウトカムに対する有効性を、これまでの試験よりも細かい層別化を用いて検討することである。

方法:2015年4月1日から2022年3月31日までに取得された日本の3,000万人以上の現役世代の保険請求記録および健診記録を用いて、標的試験エミュレーションの枠組みを用いたコホート研究を行った。SGLT2阻害薬の新規使用者13万9,783人を、ジペプチジルプロテアーゼ(DPP)4阻害薬の使用者13万9,783人とBMI区分(<20.0、20.0~22.4、22.5~24.9、25.0~29.9、30.0~34.9、35.0≦kg/m2)で層別化してマッチングした。
主要アウトカムは全死亡、心筋梗塞、脳卒中、心不全の複合であった。副次的転帰は主要転帰の構成因子であった。Cox比例ハザードモデルを用いて、全集団およびBMIカテゴリーで定義されたサブグループにおいてSGLT2阻害薬とDPP4阻害薬を比較した。

結果:試験参加者のうち、17.3%(n=48,377)が女性で、31.0%(n=86,536)が低〜正常BMI(<20.0kg/m2、1.9%[n=5,350]、20.0〜22.4kg/m2、8.5%[n=23,818]、22.5〜24.9kg/m2、20.5%[n=57,368])。追跡期間中央値24ヵ月間で、主要転帰は参加者の2.9%(n=8,165)に発現した。SGLT2阻害薬は全集団において主要転帰の発生率の低下と関連していた(HR 0.92、95%CI 0.89~0.96)が、BMIが低値から正常値(<20. 0kg/m2、HR 1.08、95%CI 0.80~1.46; 20.0~22.4kg/m2、HR 1.04、95%CI 0.90~1.20; 22.5~24.9kg/m2、HR 0.92、95%CI 0.84~1.01)。

結論:2型糖尿病患者における心血管イベントに対するSGLT2阻害薬の予防効果は、BMIが低いほど減少するようであり、BMIが低値から正常値(<25.0kg/m2)の患者では有意ではなかった。これらの所見はSGLT2阻害薬の投与開始時にBMIを考慮することの重要性を示唆している。

引用文献

Sodium-glucose cotransporter 2 inhibitors and cardiovascular events among patients with type 2 diabetes and low-to-normal body mass index: a nationwide cohort study
Yuichiro Mori et al. PMID: 39438867 PMCID: PMC11515712 DOI: 10.1186/s12933-024-02478-7
Cardiovasc Diabetol. 2024 Oct 22;23(1):372. doi: 10.1186/s12933-024-02478-7.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39438867/

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