心房間シャントに対する経カテーテルシャント植え込みの効果は?
心房間シャント(Atrial Septal Defect: ASD)は、左右の心房間に穴が開いている先天性の心疾患で、酸素の多い血液が左心房から右心房へ異常に流れ込みます。この異常な血流は、右心室や肺動脈に過剰な負担をかけ、長期的には肺高血圧症や右心不全を引き起こす可能性があります。
心房間シャント治療は、左房圧を低下させ、心不全症状および予後を改善する自己調節機構を提供する可能性があることから、カテーテル治療が有益である可能性がありますが、充分に検証されていません。
そこで今回は、左室駆出率(LVEF)を問わず症候性HF患者を、LVEF低下(40%以下)か維持(40%以上)かで層別化し、経カテーテルシャント植え込み群とプラセボ群に1:1でランダムに割り付け、介入効果を検証したランダム化比較試験(RELIEVE-HF試験)の結果をご紹介します。
本試験の主要安全性転帰は、事前に規定された成績目標11%と比較した30日後のデバイス関連または手技関連の主要心血管系または神経系有害事象の複合でした。
主要有効性転帰は、全死因死亡、心臓移植または左室補助装置植え込み、HF入院、外来でのHFイベント悪化、カンザスシティ心筋症質問票(Kansas City Cardiomyopathy Questionnaire)総合サマリースコアにより測定されたベースラインからのQOLの変化の階層的複合順位とし、最後の登録患者が1年フォローアップに達した時点で評価し、勝率で表されました。
LVEFが低下している患者と保たれている患者について、事前に規定した仮説生成分析が行われました。
試験結果から明らかになったことは?
2018年10月24日~2022年10月19日の間に、11ヵ国94施設で508例が心房間シャント治療(n=250)またはプラセボ手技(n=258)にランダムに割り付けられました。年齢中央値(25パーセンタイルおよび75パーセンタイル)は73.0歳(66.0歳、79.0歳)で、189例(37.2%)が女性でした。LVEF中央値は206例(40.6%以下)で低下(40%以下)、302例(59.4%)で維持(40%以上)でした。
2年間の主要有効性転帰 | 勝率あるいは総体リスク(95%CI) |
全患者 | 勝率 0.86(0.61~1.22) P=0.20 |
LVEFが低下している患者 | 相対リスク 0.55(0.42~0.73) P<0.0001 |
LVEFが保たれている患者 | 相対リスク 1.68(1.29~2.19) P=0.0001 P交互作用<0.0001 |
シャント植え込み後の主要安全事象は発生しませんでした(97.5%信頼限界の上限 1.5%;P<0.0001)。2年間の主要有効性転帰は、シャント群とプラセボ群で差がありませんでした(勝率 0.86、95%信頼区間 0.61~1.22;P=0.20)。しかし、LVEFが低下している患者では、シャント治療とプラセボ治療との比較で有害心血管系イベントが少ないことが示されました(年率 49.0% vs. 88.6%;相対リスク 0.55、95%CI 0.42~0.73;P<0.0001)のに対し、LVEFが保たれている患者では、シャント治療で心血管系イベントが多いことが示されました(年率 60.2% vs. 35.9%;相対リスク 1.68、95%CI 1.29~2.19;P=0.0001;P交互作用<0.0001)。
カンザスシティ心筋症質問票(Kansas City Cardiomyopathy Questionnaire)の総括スコアの追跡期間中の変化については、全患者においても、LVEFが低下している患者においても、保たれている患者においても、群間差はみられませんでした。
コメント
心房間シャント(Atrial Septal Defect: ASD)は、シャントの大きさや血流の量、症状の有無、合併症のリスクにより、経過観察かシャント閉鎖術が選択されます。心不全を呈する患者において、シャント閉鎖術が有効であるか充分に検証されていません。
さて、ランダム化比較試験の結果、経カテーテル心房間シャント植え込み術は安全でしたが、HF患者の転帰を改善しませんでした。しかし、層別ランダム化群における事前に特定した探索的解析の結果から、シャント植え込みはLVEFが低下している患者では有益であり、LVEFが保たれている患者では有害であることが示唆されました。
心房間シャントは、予後不良リスクを有していない場合、基本的に経過観察となりますが、左室駆出率の低下している心不全患者においては、シャント閉鎖術を行った方が良いのかもしれません。ただし、層別解析の結果であることから、再現性の確認も含めて、更なる検証が求められます。
続報に期待。
✅まとめ✅ ランダム化比較試験の結果、経カテーテル心房間シャント植え込み術は安全であったが、HF患者の転帰を改善しなかった。しかし、層別ランダム化群における事前に特定した探索的解析の結果から、シャント植え込みはLVEFが低下している患者では有益であり、LVEFが保たれている患者では有害であることが示唆された。
根拠となった試験の抄録
背景:心房間シャントは、左房圧を低下させ、心不全症状および予後を改善する自己調節機構を提供する可能性がある。
方法:左室駆出率(LVEF)を問わず症候性HF患者を、LVEF低下(40%以下)か維持(40%以上)かで層別化し、経カテーテルシャント植え込み群とプラセボ群に1:1でランダムに割り付けた。
主要安全性転帰は、事前に規定された成績目標11%と比較した30日後のデバイス関連または手技関連の主要心血管系または神経系有害事象の複合とした。
主要有効性転帰は、全死因死亡、心臓移植または左室補助装置植え込み、HF入院、外来でのHFイベント悪化、カンザスシティ心筋症質問票(Kansas City Cardiomyopathy Questionnaire)総合サマリースコアにより測定されたベースラインからのQOLの変化の階層的複合順位とし、最後の登録患者が1年フォローアップに達した時点で評価し、勝率で表した。
LVEFが低下している患者と保たれている患者について、事前に規定した仮説生成分析を行った。
結果:2018年10月24日~2022年10月19日の間に、11ヵ国94施設で508例が心房間シャント治療(n=250)またはプラセボ手技(n=258)にランダムに割り付けられた。年齢中央値(25パーセンタイルおよび75パーセンタイル)は73.0歳(66.0歳、79.0歳)で、189例(37.2%)が女性であった。LVEF中央値は206例(40.6%以下)で低下(40%以下)、302例(59.4%)で維持(40%以上)であった。シャント植え込み後の主要安全事象は発生しなかった(97.5%信頼限界の上限 1.5%;P<0.0001)。2年間の主要有効性転帰は、シャント群とプラセボ群で差がなかった(勝率 0.86、95%信頼区間 0.61~1.22;P=0.20)。しかし、LVEFが低下している患者では、シャント治療とプラセボ治療との比較で有害心血管系イベントが少なかった(年率 49.0% vs. 88.6%;相対リスク 0.55、95%CI 0.42~0.73;P<0.0001)のに対し、LVEFが保たれている患者では、シャント治療で心血管系イベントが多かった(年率 60.2% vs. 35.9%;相対リスク 1.68、95%CI 1.29~2.19;P=0.0001;P交互作用<0.0001)。カンザスシティ心筋症質問票(Kansas City Cardiomyopathy Questionnaire)の総括スコアの追跡期間中の変化については、全患者においても、LVEFが低下している患者においても、保たれている患者においても、群間差はみられなかった。
結論:経カテーテル心房間シャント植え込み術は安全であったが、HF患者の転帰を改善しなかった。しかし、層別ランダム化群における事前に特定した探索的解析の結果から、シャント植え込みはLVEFが低下している患者では有益であり、LVEFが保たれている患者では有害であることが示唆された。
試験登録 URL: https://www.clinicaltrials.gov; 一意識別子: NCT03499236
キーワード: 心房圧; 心不全; 予後
引用文献
Interatrial Shunt Treatment for Heart Failure: The Randomized RELIEVE-HF Trial
Gregg W Stone et al. PMID: 39308371 DOI: 10.1161/CIRCULATIONAHA.124.070870
Circulation. 2024 Sep 23. doi: 10.1161/CIRCULATIONAHA.124.070870. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39308371/
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