患者の社会的背景の評価が看護ケアに与える影響はどのくらい?(質的研究; J Gen Fam Med. 2023)

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ホリステリックケア

看護師は臨床の場で健康の社会的決定要因(the social determinants of health, SDH*)に取り組むことが期待されていますが、SDHの臨床実践への統合に関する第一線の看護師の視点は依然として不明確です。

*SDHについてWHOは次のように定義している:「人々が生まれ、成長し、生活し、働き、年齢を重ねる環境で健康上の結果に影響を与える医学的でない要因」

この統合のダイナミズムとその結果を理解することは、効果的な看護ケアに重要な洞察をもたらす可能性があります。

そこで今回は、ツールベースのSDHアセスメント看護プログラムの統合と採用、および日々の看護ケアへの影響を明らかにすることを目的とした質的研究の結果をご紹介します。

社会的背景の聴取と文書化を特徴とするツールベースのプログラムが実施された日本の小規模地域密着型病院において、質的研究が行われました。同病院の看護師は、合目的的および雪だるま式サンプリングにより募集されました。仮説を立てた後、半構成的なオンライン・インタビューが行われました。各インタビューは30分~50分でした。

データは、フレームワークアプローチを用いた主題分析によって分析されました。

試験結果から明らかになったことは?

合計16名の看護師が参加しました。

参加者が斬新なSDH評価プログラムを取り入れたのは、事前の学習とその実践的価値の認識によるものでした。看護師は最初、負担増や患者の反応を懸念しましたが、プログラムを通じてその有用性を認識し、理解が深まりました。

制度的支援と協力的なチームワークが、この革新的なプログラムの採用をさらに促進しました。

患者の社会的背景に関する知識の向上は、参加者の尊敬、共感、自己肯定感を高め、結果として看護ケアの質を高めることに貢献しました。一方、研修ツールだけでは充分ではなく、個別対応が重要であると指摘されました。

コメント

近年、循環器疾患発症や予後に関して、遺伝や生活習慣などの要因に加えて「社会的要因」が影響していることが報告されています。これは「健康の社会的決定要因(social determinant of health;SDH)」と呼ばれ、「人々が生まれ、成長し、生活し、働き、年齢を重ねる環境で健康上の結果に影響を与える医学的でない要因」と定義されています。医療者は、例えば循環器疾患が患者の自己責任であると決定づけずに、患者のおかれた社会的背景を考慮した適切な支援や介入を行うよう促す考え方です。医療機関で、より患者に近い立ち位置である看護師においてSDHの実践が求められますが、その視点(姿勢や思考)については充分に明らかになっていません。

さて、日本の質的研究の結果、チームベースの学習、振り返り、支援を通じて、看護師はツールベースの健康の社会的決定要因(SDH)評価プログラムを日々の看護実践に組み込むことができることが明らかとなりました。このプログラムは、看護師がよりホリスティックなケア(holistic care, 全人的回復)を提供する力を与え、専門職としてのアイデンティティを再定義する可能性があります。

日本での小規模な研究結果であり、かつ定性的な側面が強い研究結果であることから、更なる検証が求められます。また、看護師だけでなく、すべての医療従事者においても応用できる可能性があります。

続報に期待。

a receptionist and a practitioner at the reception

✅まとめ✅ 日本の質的研究の結果、チームベースの学習、振り返り、支援を通じて、看護師はツールベースの健康の社会的決定要因(SDH)評価プログラムを日々の看護実践に組み込むことができることが明らかとなった。このプログラムは、看護師がよりホリスティックなケアを提供する力を与え、専門職としてのアイデンティティを再定義する可能性がある。

根拠となった試験の抄録

背景:看護師は臨床の場で健康の社会的決定要因(the social determinants of health, SDH)に取り組むことが期待されているが、SDHの臨床実践への統合に関する第一線の看護師の視点は依然として不明確である。この統合のダイナミズムとその結果を理解することは、効果的な看護ケアに重要な洞察をもたらす可能性がある。本研究は、ツールベースのSDHアセスメント看護プログラムの統合と採用、および日々の看護ケアへの影響を明らかにすることを目的とする。

方法:社会的背景の聴取と文書化を特徴とするツールベースのプログラムが実施された日本の小規模地域密着型病院において、質的研究を行った。同病院の看護師は、合目的的および雪だるま式サンプリングにより募集した。仮説を立てた後、半構成的なオンライン・インタビューが行われた。各インタビューは30分~50分であった。データは、フレームワークアプローチを用いた主題分析によって分析された。

結果:合計16名の看護師が参加した。参加者が斬新なSDH評価プログラムを取り入れたのは、事前の学習とその実践的価値の認識によるものであった。看護師は最初、負担増や患者の反応を懸念したが、プログラムを通じてその有用性を認識し、理解が深まった。制度的支援と協力的なチームワークが、この革新的なプログラムの採用をさらに促進した。患者の社会的背景に関する知識の向上は、参加者の尊敬、共感、自己肯定感を高め、結果として看護ケアの質を高めることに貢献した。一方、研修ツールだけでは充分ではなく、個別対応が重要であると指摘された。

結論:チームベースの学習、振り返り、支援を通じて、看護師はツールベースの健康の社会的決定要因(SDH)評価プログラムを日々の看護実践に組み込むことができる。このプログラムは、看護師がよりホリスティックなケア(holistic care, 全人的回復*)を提供する力を与え、専門職としてのアイデンティティを再定義する可能性がある。患者報告のアウトカムを評価するために、さらなる研究が必要である。
*ホリステリック看護とも言う。アメリカホリスティック看護協会(AHNA)が定義する「全人的にとらえた人を癒すことを目的とする看護行為の全て」を意味する。看護における「全人的ケア」とは、その人個人の全体を捉えて関わることを基盤とし、その人個人の存在の脅かしをやわらげる・癒す、寄り添うことを通じて、人間らしさやその人らしさを尊重すること。全人的理解とは、障がいがある側面、認知症がある側面だけを見てしまうのではなく、全人格を総合的にとらえ、身体・心理・社会的立場などあらゆる角度から『その人』を理解して関わること。

キーワード:病院総合医療;医療コミュニケーション;医学教育;看護ケア;質的研究;健康の社会的決定要因

引用文献

The impact of patients’ social backgrounds assessment on nursing care: Qualitative research
Junki Mizumoto et al. PMID: 38025935 PMCID: PMC10646291 DOI: 10.1002/jgf2.650
J Gen Fam Med. 2023 Sep 22;24(6):332-342. doi: 10.1002/jgf2.650. eCollection 2023 Nov.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38025935/

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