HFpEF患者の死亡リスクに対するループ利尿薬の比較
駆出率が維持された心不全(HFpEF)患者の予後に対する退院後のトルセミドとフロセミドの効果に焦点を当てた研究はほとんどありません。
そこで今回は、HFpEF患者における退院後のトラセミド(トルセミド)とフロセミドの全死亡および心不全による再入院に対する効果を評価するために実施された単施設レトロスペクティブ実臨床試験の結果をご紹介します。
本試験は、2015年1月から2018年4月までに大連医科大学第一附属病院で退院後にHFpEFと診断され、トルセミドまたはフロセミドによる治療を受けた連続患者が組み入れられました。
本試験の主要アウトカムは全死因死亡率でした。第二のアウトカムは心不全による再入院でした。
試験結果から明らかになったことは?
合計445例の患者(平均年齢68.56±8.07歳、女性55%)が退院時の治療経過に基づいてトルセミド群(N=258)とフロセミド群(N=187)に分けられました。
Torsemide | Furosemide | P | HR | 95%CI | |
---|---|---|---|---|---|
全死亡 | 68 | 60 | 0.239 | 0.81 | 0.57~1.15 |
心不全による再入院 | 111 | 110 | 0.002 | 0.64 | 0.49~0.85 |
平均追跡期間87.67±11.15ヵ月の間に、トルセミド群では258例中68例(26.36%)に、フロセミド群では187例中60例(30.09%)に死亡が発生しました(ハザード比 HR 0.81、95%CI 0.57~1.15、P=0.239]。
心不全による再入院は、トルセミド群では258例中111例(43.02%)に、フロセミド群では187例中110例(58.82%)に発生しました(HR 0.64、95%CI 0.49~0.85、P=0.002)。
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ループ利尿薬は古くから使用されているため、薬剤間の有効性・安全性について、改めて臨床的評価が行われることは少なくなっています。ループ利尿薬の中でも、トラセミド(トルセミド)とフロセミドの使用が多いものの、薬剤間の比較データは限られています。
さて、単施設の後ろ向き解析の結果、トルセミドはフロセミドと比較して、全死亡を有意に減少させることはありませんでしたが、HFpEF患者においてトルセミドと心不全による再入院の減少との間に関連が認められました。
患者背景として、トルセミド群とフロセミド群のニューヨーク心臓協会(NYHA)クラスのほとんどは、NYHAクラスIII(それぞれ56.20%と59.89%)またはNYHAクラスIV(それぞれ32.17%と28.88%)でした。両群とも高血圧の罹患率が高く(79.84% vs 78.61%)、退院時には収縮期血圧が上昇していましたが、両群間に有意差はありませんでした(143.01±27.70mmHg vs 142.13±22.58mmHg、P = 0.720)。比較的、心不全の重症度が高い患者を組み入れていると考えられます。また心電図では、トルセミド群はフロセミド群よりも心拍数がやや早いことが示されています(82.92±20.94bpm vs. 78.88±21.32bpm、P=0.047)。さらに、心エコー図によると、LVEFは両群とも50%以上であり、左房径はトルセミド群で大きいことが示されています(LAD、43.65±6.80mm vs 40.85±6.59mm、P < 0.001)。いずれもアウトカムへ影響するほどの差はないものと考えられます。
本試験結果は、単施設かつ後向き研究の結果であることから、他の国や地域で同様の結果が示されるのかについては不明です。また、再現性が示されるのかについても追試が求められます。心不全による再入院リスクの高い患者においては、トルセミドを選択した方が良いのかもしれません。服用回数や服用タイミングなど患者負担も踏まえた選択が求められます。
続報に期待。
✅まとめ✅ さて、単施設の後ろ向き解析の結果、トルセミドはフロセミドと比較して、全死亡を有意に減少させることはなかったが、HFpEF患者において心不全による再入院の減少との間に関連が認められた。
根拠となった試験の抄録
目的:駆出率が維持された心不全(HFpEF)患者の予後に対する退院後のトルセミドとフロセミドの効果に焦点を当てた研究はほとんどない。本単施設レトロスペクティブ実臨床試験は、HFpEF患者における退院後のトルセミドとフロセミドの全死亡および心不全による再入院に対する効果を評価するために実施された。
方法:2015年1月から2018年4月までに大連医科大学第一附属病院で退院後にHFpEFと診断され、トルセミドまたはフロセミドによる治療を受けた連続患者を本研究に組み入れた。
主要アウトカムは全死因死亡率とした。第二のアウトカムは心不全による再入院であった。
結果:合計445例の患者(平均年齢68.56±8.07歳、女性55%)が退院時の治療経過に基づいてトルセミド群(N=258)とフロセミド群(N=187)に分けられた。平均追跡期間87.67±11.15ヵ月の間に、トルセミド群では258例中68例(26.36%)に、フロセミド群では187例中60例(30.09%)に死亡が発生した[ハザード比(HR)0.81、95%信頼区間(CI)0.57~1.15、P=0.239]。心不全による再入院は、トルセミド群では258例中111例(43.02%)に、フロセミド群では187例中110例(58.82%)に発生した(HR 0.64、95%CI 0.49~0.85、P=0.002)。
結論:トルセミドはフロセミドと比較して、全死亡を有意に減少させることはなかったが、HFpEF患者においてトルセミドと心不全による再入院の減少との間に関連が認められた。
キーワード:フロセミド;心不全;ループ利尿薬;駆出率維持;トルセミド
引用文献
Real world experience in effect of torsemide vs. furosemide after discharge in patients with HFpEF
Xiao Li et al. PMID: 39238285 DOI: 10.1002/ehf2.15071
ESC Heart Fail. 2024 Sep 5. doi: 10.1002/ehf2.15071. Online ahead of print.
— 読み進める https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39238285/
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