小児の術後急性疼痛に対するイブプロフェンの有効性・安全性は?(コクランレビュー; Cochrane Database Syst Rev. 2024)

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小児におけるイブプロフェンの効果はどのくらいなのか?

小児は手術後、苦痛を避けるために疼痛管理を必要とすることが多いことは想像に難くありません。効果的な疼痛管理は治癒期間と生活の質(QOL)に影響を及ぼすことから関心の高い研究領域です。

小児によく使用される非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)であるイブプロフェンは、術後の疼痛と炎症の治療に使用されますが、他の鎮痛薬との比較検証は充分に行われていません。

そこで今回は、以下の目的を踏まえて実施されたコクランレビューの結果をご紹介します。
1)小児の急性術後疼痛管理に対するイブプロフェン(任意の用量)の有効性と安全性を、プラセボまたつのは他の活性比較薬と比較して評価すること。
2) イブプロフェンの投与量、投与経路(経口投与、静脈内投与など)、投与戦略(随時投与と予定投与など)を比較すること。

検索方法には、標準的なコクラン検索法が採用され、2023年8月にCENTRAL、MEDLINE、Embase、CINAHLおよび試験登録が検索されました。術後または処置後の急性疼痛の治療を受けた17歳以下の小児を対象とし、イブプロフェンをプラセボまたは任意の活性比較薬と比較したランダム化比較試験(RCT)が解析対象となりました。異なる投与経路、イブプロフェンの用量、投与スケジュールを比較したRCTも対象でした。

データの収集と解析は、標準的なコクラン方式に従って行われました。本解析の主要アウトカムは、小児が報告した疼痛緩和、小児が報告した疼痛強度、有害事象、重篤な有害事象でした。結果は、リスク比(RR)および標準化平均差(SMD)と、それに関連する信頼区間(CI)を用いて示されました。GRADEを用いてエビデンスの確実性についても評価されました。

根拠となった試験の抄録

4,265人の小児(本レビューでは3,935人の小児)を登録した43件のRCTが対象となりました。各領域で1つまたは複数のバイアスリスクが不明確または高いと判定された37件の研究について、研究レベルでの全体的なバイアスリスクが高いまたは不明確と評価されました。全領域でバイアスリスクが低いと判定された研究は6件でした。

イブプロフェン vs. プラセボ(35件のRCT)

小児または第三者から報告された疼痛緩和、重篤な有害事象を報告した研究はありませんでした。

(イブプロフェン vs. プラセボ)標準化平均差 SMD(95%CI)
介入後2時間未満で小児が報告した疼痛強度SMD -1.12(-1.39 ~ -0.86
3試験、259人の小児
確実性が中等度のエビデンス
介入後2時間から24時間未満で小児が報告した疼痛強度SMD -1.01(-1.24 ~ -0.78
5件の研究、小児345人
確実性の低いエビデンス

イブプロフェンはプラセボと比較して、介入後2時間未満で小児が報告した疼痛強度をおそらく軽減することが示されました(SMD -1.12、95%CI -1.39 ~ -0.86;3試験、259人の小児;確実性が中等度のエビデンス)。

イブプロフェンは、介入後2時間から24時間未満において、小児が報告した疼痛強度を軽減する可能性がある(SMD -1.01、95%CI -1.24 ~ -0.78;5件の研究、小児345人;確実性の低いエビデンス)。

(イブプロフェン vs. プラセボ)リスク比 RR(95%CI)
有害事象RR 0.79(0.51~1.23
5件の研究、小児384人
確実性の低いエビデンス

イブプロフェンは、プラセボと比較して有害事象にほとんど差がない可能性が示されました(RR 0.79、95%CI 0.51~1.23;5件の研究、小児384人;確実性の低いエビデンス)。

イブプロフェン vs. パラセタモール(アセトアミノフェン:21件のRCT)

小児または第三者から報告された疼痛緩和、重篤な有害事象を報告した研究はありませんでした。

(イブプロフェン vs. アセトアミノフェン)標準化平均差 SMD(95%CI)
介入後2時間未満で小児が報告した疼痛強度SMD -0.42(-0.82 ~ -0.02
2研究、小児100人
確実性が中等度のエビデンス
介入後2時間から24時間未満で小児が報告した疼痛強度SMD -0.21(-0.40 ~ -0.02
6件の研究、422人の小児
確実性の低いエビデンス

イブプロフェンは、アセトアミノフェンと比較して、介入後2時間未満で小児が報告した疼痛強度を軽減する可能性が高いことが報告されました(SMD -0.42、95%CI -0.82 ~ -0.02;2研究、小児100人;確実性が中等度のエビデンス)。

イブプロフェンは、介入後2時間から24時間後に小児が報告した疼痛強度をわずかに減少させる可能性が示唆されました(SMD -0.21、95%CI -0.40 ~ -0.02;6件の研究、422人の小児;確実性の低いエビデンス)。

イブプロフェンでは有害事象にほとんど差がない可能性があります(各群0件;1研究、小児44人;確実性の低いエビデンス)。

イブプロフェン vs. モルヒネ(1件のRCT)

小児または第三者によって報告された疼痛緩和または疼痛強度、重篤な有害事象を報告した研究はありませんでした。

(イブプロフェン vs. モルヒネ)リスク比 RR(95%CI)リスク差 RD(95%CI)有益な転帰の追加に必要な治療数(NNTB)
有害事象RR 0.58(0.40~0.83RD -0.25(-0.40 ~ -0.09NNTB 4
1件の研究、小児154人
確実性が中等度のエビデンス

イブプロフェンはモルヒネと比較して有害事象を減少させる可能性が高いことが示されました(RR 0.58、95%CI 0.40~0.83;リスク差(RD)-0.25、95%CI -0.40 ~ -0.09;有益な転帰の追加に必要な治療数(NNTB)4;1件の研究、小児154人;確実性が中等度のエビデンス)。

イブプロフェン vs. ketorolac(1件のRCT)

小児が報告した疼痛緩和または疼痛強度、重篤な有害事象を報告した研究はありませんでした。

(イブプロフェン vs. モルヒネ)リスク比 RR(95%CI)リスク差 RD(95%CI)有益な転帰の追加に必要な治療数(NNTB)
有害事象RR 0.51(0.27~0.96RD -0.29(-0.53 ~ -0.04NNTB 4
1件の研究、小児59人
信頼性の低いエビデンス

イブプロフェンはketorolacと比較して有害事象を減少させる可能性がありました(RR 0.51、95%CI 0.27~0.96;RD -0.29、95%CI -0.53 ~ -0.04;NNTB 4;1件の研究、小児59人;信頼性の低いエビデンス)。

コメント

小児の術後急性疼痛管理における薬剤比較データは限られています。

さて、ランダム化比較試験を対象としたメタ解析の結果、43件のRCTが確認されたにもかかわらず、いくつかの重要なアウトカムについて、またイブプロフェンの投与量、スケジュール、投与経路の違いによる比較において、プラセボや活性比較薬と比較したイブプロフェンの効果については不確かなままであることが示されました。また、アセトアミノフェンよりも疼痛緩和作用において優れる結果が得られているものの、先のプラセボとの比較結果から、更なる検証が求められるところです。

また、重要な観点として、別の疾患ではありますがインフルエンザウイルス感染症があげられます。本疾患において、ライ症候群を回避できるとされる解熱鎮痛薬は、2024年7月時点でアセトアミノフェンとイブプロフェンだけです。このような観点から、小児の解熱鎮痛薬としてイブプロフェンが重要な薬剤であることに変わりはありません。

さらにいえば、小児の術後急性疼痛を評価する方法が限られていること、成人と比較してアウトカムにばらつきが出やすいこと、バイアスが影響しやすいことなどの限界があるため、疼痛評価は難しいと考えられます。薬を服用することそのものの鎮痛作用(プラセボ効果の一種)についても研究報告されている背景もあることから、本解析結果を踏まえたとしてもイブプロフェンの使用を妨げるほどの結果ではありません。

いずれにせよ、更なる検証が求められます。

続報に期待。

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✅まとめ✅ ランダム化比較試験を対象としたメタ解析の結果、43件のRCTが確認されたにもかかわらず、いくつかの重要なアウトカムについて、またイブプロフェンの投与量、スケジュール、投与経路の違いによる比較において、プラセボや活性比較薬と比較したイブプロフェンの効果については不確かなままであることが示された。

根拠となった試験の抄録

背景:小児は手術後、苦痛を避けるために疼痛管理を必要とすることが多い。効果的な疼痛管理は治癒期間と生活の質に影響を及ぼす。小児によく使用される非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)であるイブプロフェンは、術後の疼痛と炎症の治療に使用される。

目的:1)小児の急性術後疼痛管理に対するイブプロフェン(任意の用量)の有効性と安全性を、プラセボまたは他の活性比較薬と比較して評価すること。
2) イブプロフェンの投与量、投与経路(経口投与、静脈内投与など)、投与戦略(随時投与と予定投与など)を比較すること。

検索方法:標準的なコクラン検索法を用いた。2023年8月にCENTRAL、MEDLINE、Embase、CINAHLおよび試験登録を検索した。

選択基準:術後または処置後の急性疼痛の治療を受けた17歳以下の小児を対象とし、イブプロフェンをプラセボまたは任意の活性比較薬と比較したランダム化比較試験(RCT)を対象とした。異なる投与経路、イブプロフェンの用量、投与スケジュールを比較したRCTも対象とした。

データ収集と解析:データの収集と解析は、標準的なコクラン方式に従った。
主要アウトカムは、小児が報告した疼痛緩和、小児が報告した疼痛強度、有害事象、重篤な有害事象とした。結果は、リスク比(RR)および標準化平均差(SMD)と、それに関連する信頼区間(CI)を用いて示した。GRADEを用いてエビデンスの確実性を評価した。

主な結果:4,265人の小児(本レビューでは3,935人の小児)を登録した43件のRCTを対象とした。各領域で1つまたは複数のバイアスリスクが不明確または高いと判定された37件の研究について、研究レベルでの全体的なバイアスリスクを高いまたは不明確と評価した。全領域でバイアスリスクが低いと判定した研究は6件であった。
イブプロフェン vs. プラセボ(35件のRCT):小児または第三者から報告された疼痛緩和、重篤な有害事象を報告した研究はなかった。イブプロフェンはプラセボと比較して、介入後2時間未満で小児が報告した疼痛強度をおそらく軽減する(SMD -1.12、95%CI -1.39 ~ -0.86;3試験、259人の小児;確実性が中等度のエビデンス)。イブプロフェンは、介入後2時間から24時間未満において、小児が報告した疼痛強度を軽減する可能性がある(SMD -1.01、95%CI -1.24 ~ -0.78;5件の研究、小児345人;確実性の低いエビデンス)。イブプロフェンは、プラセボと比較して有害事象にほとんど差がない可能性がある(RR 0.79、95%CI 0.51~1.23;5件の研究、小児384人;確実性の低いエビデンス)。
イブプロフェン vs. パラセタモール(アセトアミノフェン:21件のRCT):小児または第三者から報告された疼痛緩和、重篤な有害事象を報告した研究はなかった。イブプロフェンは、パラセタモールと比較して、介入後2時間未満で小児が報告した疼痛強度を軽減する可能性が高い(SMD -0.42、95%CI -0.82 ~ -0.02;2研究、小児100人;確実性が中等度のエビデンス)。イブプロフェンは、介入後2時間から24時間後に小児が報告した疼痛強度をわずかに減少させる可能性がある(SMD -0.21、95%CI -0.40 ~ -0.02;6件の研究、422人の小児;確実性の低いエビデンス)。イブプロフェンでは有害事象にほとんど差がない可能性がある(各群0件;1研究、小児44人;確実性の低いエビデンス)。
イブプロフェン vs. モルヒネ(1件のRCT):小児または第三者によって報告された疼痛緩和または疼痛強度、重篤な有害事象を報告した研究はない。イブプロフェンはモルヒネと比較して有害事象を減少させる可能性が高い(RR 0.58、95%CI 0.40~0.83;リスク差(RD)-0.25、95%CI -0.40 ~ -0.09;有益な転帰の追加に必要な治療数(NNTB)4;1件の研究、小児154人;確実性が中等度のエビデンス)。
イブプロフェン vs. ketorolac(1件のRCT):小児が報告した疼痛緩和または疼痛強度、重篤な有害事象を報告した研究はなかった。イブプロフェンはketorolacと比較して有害事象を減少させる可能性がある(RR 0.51、95%CI 0.27~0.96;RD -0.29、95%CI -0.53 ~ -0.04;NNTB 4;1件の研究、小児59人;信頼性の低いエビデンス)。

著者らの結論:43件のRCTが確認されたにもかかわらず、いくつかの重要なアウトカムについて、またイブプロフェンの投与量、スケジュール、投与経路の違いによる比較において、プラセボや活性比較薬と比較したイブプロフェンの効果については不確かなままである。この主な原因は、重篤な有害事象などの重要なアウトカムの報告が不充分であったこと、試験の実施や報告が不充分であったために結果の信頼性が低下したこと、さらに検出力不足の小規模試験であったことである。プラセボと比較すると、イブプロフェンは介入後2時間未満で疼痛を軽減する可能性が高いが、2時間から24時間では有効性が低くなる可能性がある。パラセタモールと比較すると、イブプロフェンは介入後24時間まで疼痛を軽減する可能性が高い。手術や処置の種類によって効果が異なるかどうかは検討できなかった。イブプロフェンはモルヒネと比較して有害事象を減少させる可能性が高く、パラセタモールと比較した場合、出血にはほとんど差がない。イブプロフェンの安全性については、他の薬剤と比較してほとんど不確かなままである。

引用文献

Ibuprofen for acute postoperative pain in children
Sara Pessano et al. PMID: 38180091 PMCID: PMC10767793 (available on 2025-01-05) DOI: 10.1002/14651858.CD015432.pub2
Cochrane Database Syst Rev. 2024 Jan 5;1(1):CD015432. doi:10.1002/14651858.CD015432.pub2.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38180091/

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