オランザピンによる催吐予防効果は?
ニューロキニン-1受容体拮抗薬を併用する、または併用しない中等度催吐性化学療法(moderately emetogenic chemotherapy, MEC)レジメンにおけるオランザピンの役割は、充分に評価されていません。
そこで今回は、MECレジメンへのオランザピン追加により、固形悪性腫瘍患者における悪心、嘔吐、および悪心レスキュー薬の使用が減少するかどうかを評価したランダム化比較試験の結果をご紹介します。
この多施設共同非盲検第3相ランダム化臨床試験では、オキサリプラチン、カルボプラチン、またはイリノテカンベースの化学療法を受けている18歳以上の固形悪性腫瘍患者が対象となりました。本試験は2019年3月26日から2023年8月26日までインドの3施設で実施され、最終解析カットオフ日は2023年9月10日でした。
患者はデキサメタゾン、アプレピタント、パロノセトロンにオランザピンを併用する群(実験群)とオランザピンを併用しない群(観察群)に1対1でランダムに割り付けられました。実験群にはオランザピン10mgが化学療法レジメンの1日目から3日目の夜間に1回経口投与されました。
本試験の主要エンドポイントは完全奏効(CR)であり、嘔吐がなく、顕著な悪心(1~100の視覚的アナログスケールで5未満とスコア化される)がなく、悪心に対するレスキュー薬の使用がない患者の割合と定義されました。
副次的エンドポイントは、悪心および化学療法誘発性悪心・嘔吐(chemotherapy-induced nausea and vomiting, CINV)を経験した患者の割合、レスキュー薬を受けた患者の割合、有害事象を経験した患者の割合などでした。
試験結果から明らかになったことは?
合計560人の患者(男性 259人[64%];年齢中央値 51歳[範囲 19~80歳])がランダム化されました。解析には、評価可能なデータを有する544人の患者(オランザピン群に274人、観察群に270人)が含まれました。ベースラインの特徴は2群間で均等に一致しました。
オランザピン投与群 (274例) | 非投与群 (270例) | |
完全奏効(CR)を示した患者の割合 | 248例(91%) P=0.005 | 222例(82%) |
悪心の抑制 | 264(96%) P<0.001 | 234(87%) |
化学療法誘発性悪心・嘔吐(CINV) | 262(96%) P=0.02 | 245(91%) |
レスキュー薬を投与された患者の割合 | 11(4%) P=0.001 | 30(11%) |
120時間の治療期間全体において、CRを示した患者の割合は、オランザピン投与群(248例[91%])が非投与群(222例[82%])よりも有意に多いことが示されました(P=0.005)。同様に、全評価期間中の悪心の抑制(264 [96%] vs. 234 [87%]; P<0.001) およびCINV(262 [96%] vs. 245 [91%]; P=0.02)についてもオランザピン群と観察群の間に有意差があり、レスキュー薬を投与された患者の割合は、オランザピン群(11 [4%])に比べて観察群(30 [11%])で有意に増加しました(P=0.001)。
化学療法およびオランザピン投与後にグレード1の傾眠が報告された患者は27人(10%)であり、観察群では患者はいませんでした。
コメント
催吐性の高い化学療法に対して、制吐薬としてオランザピンが追加されることがあります。しかし、中等度の催吐性レジメンに対する効果については充分に検証されていません。
さて、ランダム化比較試験の結果、オランザピンの追加は、オキサリプラチン、カルボプラチン、またはイリノテカンを含むMECレジメンを受けた化学療法未治療患者において、悪心および嘔吐の予防率とともに完全奏功(CR)率を有意に改善しました。
化学療法レジメン実施の1~3日目の夜間にオランザピンが投与され、グレード1の傾眠が10%の患者で報告されました。このため、転倒やこれに伴う障害に注意を要しますが、新たな懸念事項はなさそうです。
CR率の群間差は9%であり、この数値が実臨床において、どのくらいの有益性を意味しているのかについては引き続き検討が必要な部分であると考えられますが、もともと消化器系の副作用が出やすい患者にとっては、期待できる結果であると考えられます。
現在、オランザピン(商品名:ジプレキサ)の適応としては「強い悪心、嘔吐が生じる抗悪性腫瘍剤(シスプラチン等)の投与の場合に限り使用すること」とされています。今後の検証結果により、適応拡大が行われる可能性があり、続報が待たれるところです。
今後の検証結果に期待。
✅まとめ✅ ランダム化比較試験の結果、オランザピンの追加は、オキサリプラチン、カルボプラチン、またはイリノテカンを含む中等度催吐性化学療法レジメンを受けた化学療法未治療患者において、悪心および嘔吐の予防率とともに完全奏功(CR)率を有意に改善した。
根拠となった試験の抄録
試験の重要性:ニューロキニン-1受容体拮抗薬を併用する、または併用しない中等度催吐性化学療法(MEC)レジメンにおけるオランザピンの役割は、充分に評価されていない。
目的:MECレジメンへのオランザピン追加により、固形悪性腫瘍患者における悪心、嘔吐、および悪心レスキュー薬の使用が減少するかどうかを評価すること。
試験デザイン、設定、参加者:この多施設共同非盲検第3相ランダム化臨床試験は、オキサリプラチン、カルボプラチン、またはイリノテカンベースの化学療法を受けている18歳以上の固形悪性腫瘍患者を対象とした。本試験は2019年3月26日から2023年8月26日までインドの3施設で実施され、最終解析カットオフ日は2023年9月10日であった。
曝露:患者はデキサメタゾン、アプレピタント、パロノセトロンにオランザピンを併用する群(実験群)とオランザピンを併用しない群(観察群)に1対1でランダムに割り付けられた。実験群にはオランザピン10mgが化学療法レジメンの1日目から3日目の夜間に1回経口投与された。
主要転帰と評価基準:主要エンドポイントは完全奏効(CR)とし、嘔吐がなく、著明な悪心(1~100の視覚的アナログスケールで5未満とスコア化される)がなく、悪心に対するレスキュー薬の使用がない患者の割合と定義した。副次的エンドポイントは、悪心および化学療法誘発性悪心・嘔吐(CINV)を経験した患者の割合、レスキュー薬を受けた患者の割合、有害事象を経験した患者の割合などであった。
結果:合計560人の患者(男性 259人[64%];年齢中央値 51歳[範囲 19~80歳])がランダム化された。解析には、評価可能なデータを有する544人の患者(オランザピン群に274人、観察群に270人)が含まれた。ベースラインの特徴は2群間で均等に一致した。120時間の治療期間全体において、CRを示した患者の割合は、オランザピン投与群(248例[91%])が非投与群(222例[82%])よりも有意に多かった(P=0.005)。同様に、全評価期間中の吐き気の抑制(264 [96%] vs. 234 [87%]; P<0.001) およびCINV(262 [96%] vs. 245 [91%]; P=0.02)についてもオランザピン群と観察群の間に有意差があり、レスキュー薬を投与された患者の割合は、オランザピン群(11 [4%])に比べて観察群(30 [11%])で有意に増加した(P=0.001)。化学療法およびオランザピン投与後にグレード1の傾眠が報告された患者は27人(10%)であり、観察群では患者はいなかった。
結論および関連性:このランダム化臨床試験において、オランザピンの追加は、オキサリプラチン、カルボプラチン、またはイリノテカンを含むMECレジメンを受けた化学療法未治療患者において、悪心および嘔吐の予防率とともにCR率を有意に改善した。これらの所見は、オランザピンの使用がこれらの化学療法レジメンにおける標準治療の1つとして考慮されるべきであることを示唆している。
臨床試験登録:Clinical Trials Registry-India(CTRI)識別子: CTRI/2018/12/016643。
引用文献
Olanzapine as Antiemetic Prophylaxis in Moderately Emetogenic Chemotherapy: A Phase 3 Randomized Clinical Trial
Vikas Ostwal et al. PMID: 39106066 PMCID: PMC11304110 DOI: 10.1001/jamanetworkopen.2024.26076
JAMA Netw Open. 2024 Aug 1;7(8):e2426076. doi: 10.1001/jamanetworkopen.2024.26076.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39106066/
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