いびきと認知症リスクとの関連性はどのくらい?(前向きコホートおよびメンデルランダム化研究; Sleep. 2024)

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「いびき」は認知症の発症リスクと関連するのか?

いびきは年齢や体格指数(BMI)とともに増加し、閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA)や心代謝性疾患と関連することが多いことが知られています。しかし、いびきと認知症との関連性に関する研究エビデンスは乏しく、議論の余地があります。

メンデルランダム化は、健康に影響を及ぼす危険因子の遺伝的道具変数として一塩基多型(SNPs)を用います。したがって、観察研究の限界、特に交絡や逆因果に対処するために用いることができるとされています。メンデルランダム化と多変量メンデルランダム化は、いびき、BMI、認知症にはまだ適用されておらず、これらの要因の因果関係を明らかにするのに役立つ可能性があります。

そこで今回は、いびきと認知症との間の観察的および因果関係を調査し、体格指数(BMI)の役割を明らかにすることを目的としたメンデルランダム化研究の結果をご紹介します。

ベースライン時に認知症でなかった451,250人の参加者のデータを用いて、Cox比例ハザードモデルにより、自己申告によるいびきと認知症発症との関連が検討されました。また、双方向2標本メンデルランダム化(MR)解析により、いびきとアルツハイマー病(AD)の因果関係についても検討されました。

試験結果から明らかになったことは?

追跡期間中央値13.6年の間に、8,325人が認知症を発症しました。

ハザード比[HR]
(95%信頼区間[CI])
全認知症HR 0.93
0.89~0.98
アルツハイマー病(AD)HR 0.91
0.84~0.97

いびきは、全認知症(ハザード比[HR] 0.93、95%信頼区間[CI] 0.89~0.98)およびAD(HR 0.91;95%CI 0.84~0.97)の低リスクと関連していました。この関連はBMIで調整するとわずかに弱まり、高齢者、APOEε4対立遺伝子保有者、追跡期間が短いほど強いことが示されました。

MR解析では、いびきとADとの因果関係は示唆されませんでしたが、ADに対する遺伝的な責任性は、いびきのリスクの低下と関連していました。多変量MR解析では、いびきに対するADの影響は主にBMIによるものであることが示されました。

コメント

メンデルランダム化研究(Mendelian randomization analysis)は、観察研究における因果関係を明らかにするための解析法です。従来の観察試研究では、高血圧、糖尿病、脂質異常、高尿酸血症、喫煙、肥満などの危険因子が循環器疾患の原因として考えられていましたが、交絡因子の存在により因果関係の確定が困難でした。ランダム化介入試験は因果関係を確定するために必要ですが、介入が難しい場合や人道的・倫理的な観点から実施できないことがあります。メンデルランダム化解析は、遺伝形質がランダムに遺伝するという仮定に基づき、観察研究でも交絡因子を除外し、因果関係を明確にすることができる特徴があります。

さて、前向きコホート研究のデータを用いたメンデルランダム化解析の結果、いびきと認知症リスク低下との間の表現型的関連は、アルツハイマー病(AD)に対する遺伝的素因がいびきの減少と関連するという逆の因果関係から生じている可能性が高いと考えられます。

当初の仮説とは逆の結果が得られたことになりますが、いくつかの制限があります。いびきは自己申告であり、想起バイアスや誤分類バイアスの影響を受ける可能性があります。また、認知症症例はUK Biobankにリンクされた入院記録と死亡登録を用いて同定されたため、そもそも記録や登録がない場合はカウントされません。また軽度の認知症の場合、過小評価されてしまいます。

このため、いびきの少なさやBMIの低さがADリスク増加と関連しているのかについては依然として不明です。因果関係(逆因果も含む)を明らかにするために更なる検証が求められます。

続報に期待。

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✅まとめ✅

根拠となった試験の抄録

研究の目的:加齢とともに増加する非常に一般的な疾患である「いびき」と認知症リスクとの関連については議論がある。われわれは、いびきと認知症との間の観察的および因果関係を調査し、体格指数(BMI)の役割を明らかにすることを目的とした。

方法:ベースライン時に認知症でなかった451,250人の参加者のデータを用いて、Cox比例ハザードモデルにより、自己申告によるいびきと認知症発症との関連を検討した。また、双方向2標本メンデルランダム化(MR)解析を用いて、いびきとアルツハイマー病(AD)の因果関係を検討した。

結果:追跡期間中央値13.6年の間に、8,325人が認知症を発症した。いびきは、全認知症(ハザード比[HR] 0.93、95%信頼区間[CI] 0.89~0.98)およびAD(HR 0.91;95%CI 0.84~0.97)の低リスクと関連していた。この関連はBMIで調整するとわずかに弱まり、高齢者、APOEε4対立遺伝子保有者、追跡期間が短いほど強かった。MR解析では、いびきとADとの因果関係は示唆されなかったが、ADに対する遺伝的な責任性は、いびきのリスクの低下と関連していた。多変量MR解析では、いびきに対するADの影響は主にBMIによるものであることが示された。

結論:いびきと認知症リスク低下との間の表現型的関連は、ADに対する遺伝的素因がいびきの減少と関連するという逆の因果関係から生じている可能性が高い。これはAD前駆期における体重減少に起因している可能性がある。認知症リスクの潜在的な早期指標として、高齢者におけるいびきの減少と体重減少にもっと注意を払うべきである。

キーワード:アルツハイマー病、メンデルランダム化、肥満度、認知症、多変量メンデルランダム化、前駆期、睡眠時無呼吸、いびき、血管性認知症

引用文献

Snoring and risk of dementia: a prospective cohort and Mendelian randomization study
Yaqing Gao et al. PMID: 38943476 DOI: 10.1093/sleep/zsae149
Sleep. 2024 Jun 29:zsae149. doi: 10.1093/sleep/zsae149. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38943476/

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