デルゴシチニブは慢性手湿疹にも有効なのか?
慢性手湿疹は、変動性、炎症性、そう痒性、しばしば痛みを伴う手や手首の疾患であり、患者のQOLや職業能力に強く影響します。
慢性手湿疹に対して、汎ヤヌスキナーゼ阻害剤(pan-JAK kinase inhibitor)であるデルゴシチニブクリームが有効である可能性がありますが、実臨床における検証は充分ではありません。
第3相DELTA-1およびDELTA-2試験の目的は、中等症から重症の慢性手湿疹を有する成人患者を対象に、デルゴシチニブクリーム20mg/gの1日2回外用とビークル*塗布の有効性および安全性を評価することでした。
*vehicle:比喩的表現で「伝達手段」や「表現手段」としても使われることがある。対照群に投与される物質(基剤など)のことを指すことがある。
DELTA-1試験はカナダ、フランス、ドイツ、イタリア、ポーランド、英国の53施設で、DELTA-2試験はベルギー、カナダ、デンマーク、ドイツ、オランダ、ポーランド、スペインの50施設で実施されました。中等症から重症の慢性手湿疹を有する成人(18歳以上)が、1日2回投与のデルゴシチニブクリーム20mg/gまたはビークルクリームに2:1でランダムに割り付けられ、16週間投与されました。
本試験の主要評価項目は、16週目におけるIGA-CHE(Investigator’s Global Assessment for Chronic Hand Eczema:慢性手湿疹に対する医師による総合評価)の治療成功であり、IGA-CHEスコアが0(異常なし)または1(ほぼ異常なし、ほとんど紅斑を認めない程度と定義)と定義されました。有効性と安全性は、試験治療を受けた全患者で評価されました。
試験結果から明らかになったことは?
2021年5月10日から2022年10月31日の間に487例(男性181例、女性306例)がDELTA-1に登録され、2021年5月25日から2023年1月6日の間に473例(男性161例、女性312例)がDELTA-2に登録されました。DELTA-1では325例、DELTA-2では314例がデルゴシチニブクリームに割り付けられ、DELTA-1では162例、DELTA-2では159例がクリームビークルに割り付けられました。
16週目 | デルゴシチニブ投与群 | ビークルクリーム投与群 |
DELTA-1 | 325例中64例[20%] p≦0.0055 | 162例中16例[10%] |
DELTA-2 | 313例中91例[29%] p≦0.0055 | 159例中11例[7%] |
16週目では、デルゴシチニブ投与群対クリーム投与群でIGA-CHE治療が成功した患者の割合が高いことが示されました(DELTA-1では325例中64例[20%]対162例中16例[10%]、DELTA-2では313例中91例[29%]対159例中11例[7%]、両試験ともp≦0.0055)。
有害事象を報告した患者の割合は、デルゴシチニブ(DELTA-1では325例中147例[45%]、DELTA-2では313例中143例[46%])とクリーム剤(DELTA-1では162例中82例[51%]、DELTA-2では159例中71例[45%])で同程度でした。患者の2%以上に発現した最も頻度の高い有害事象は両投与群で同様であり、COVID-19および鼻咽頭炎が含まれました。
コメント
ヤヌスキナーゼ(JAK)には、JAK1、JAK2、JAK3、そしてTyk2の4種類あることが報告されています。デルゴシチニブは、上記すべてのJAKを抑制する作用を有しており、アレルギー性疾患に有効であるとされています。しかし、慢性手湿疹に対する効果は不明です。
さて、二重盲検ランダム化比較試験の結果、中等症〜重症の慢性手湿疹に対するデルゴシチニブクリームはビークルクリームに対して優れた有効性を示し、16週間にわたる忍容性も良好であることが示されました。
有害事象の内訳が気になるところではありますが、発生割合、発生頻度の高い有害事象については対照群と同様であることから、認容性は高いと考えられます。ちなみに、コレクチム軟膏のリスク管理計画書(RMP)によれば、重要な特定されたリスクとして「皮膚感染症」が、重要な潜在的リスクとして「悪性腫瘍」が挙げられています。悪性腫瘍については、現時点で発生件数は0です。皮膚感染症については、適用部位毛包炎やカポジ水痘様発疹、染性軟属腫が報告されています。特にカポジ水痘様発疹の重症化した症例が報告されていることから注意を要します。患者モニタリングが求められるところです。
慢性手湿疹の治療方法が限られていることから、有望な結果であると考えられます。おそらく、本研究結果をもって適応拡大申請が行われると考えられます。
続報に期待。
✅まとめ✅ 二重盲検ランダム化比較試験の結果、中等症〜重症の慢性手湿疹に対するデルゴシチニブクリームはビークルクリームに対して優れた有効性を示し、16週間にわたる忍容性も良好であった。
根拠となった試験の抄録
背景:慢性手湿疹は、変動性、炎症性、そう痒性、しばしば痛みを伴う手や手首の疾患であり、患者のQOLや職業能力に強く影響する。第3相DELTA 1およびDELTA 2の目的は、中等症から重症の慢性手湿疹を有する成人患者を対象に、汎ヤヌスキナーゼ阻害剤であるデルゴシチニブクリーム20mg/gの1日2回外用とビークル*塗布の有効性および安全性を評価することであった。
*vehicle:比喩的表現で「伝達手段」や「表現手段」としても使われることがある。対照群に投与される物質(基剤など)のことを指すことがある。
方法:DELTA 1はカナダ、フランス、ドイツ、イタリア、ポーランド、英国の53施設で、DELTA 2はベルギー、カナダ、デンマーク、ドイツ、オランダ、ポーランド、スペインの50施設で実施された。中等症から重症の慢性手湿疹を有する成人(18歳以上)を、1日2回投与のデルゴシチニブクリーム20mg/gまたはビークルクリームに2:1でランダムに割り付け、16週間投与した。
主要評価項目は、16週目におけるIGA-CHE(Investigator’s Global Assessment for Chronic Hand Eczema:慢性手湿疹に対する医師による総合評価)の治療成功とし、IGA-CHEスコアが0(異常なし)または1(ほぼ異常なし、ほとんど紅斑を認めない程度と定義)と定義した。
有効性と安全性は、試験治療を受けた全患者で評価された。これらの試験はClinicalTrials.govのNCT04871711およびNCT04872101に登録されている。
所見:2021年5月10日から2022年10月31日の間に487例(男性181例、女性306例)がDELTA 1に登録され、2021年5月25日から2023年1月6日の間に473例(男性161例、女性312例)がDELTA 2に登録された。DELTA 1では325例、DELTA 2では314例がデルゴシチニブクリームに割り付けられ、DELTA 1では162例、DELTA 2では159例がクリームビークルに割り付けられた。16週目では、デルゴシチニブ投与群対クリーム投与群でIGA-CHE治療が成功した患者の割合が高かった(DELTA 1では325例中64例[20%]対162例中16例[10%]、DELTA 2では313例中91例[29%]対159例中11例[7%]、両試験ともp≦0.0055)。有害事象を報告した患者の割合は、デルゴシチニブ(DELTA 1では325例中147例[45%]、DELTA 2では313例中143例[46%])とクリーム剤(DELTA 1では162例中82例[51%]、DELTA 2では159例中71例[45%])で同程度であった。患者の2%以上に発現した最も頻度の高い有害事象は両投与群で同様であり、COVID-19および鼻咽頭炎が含まれた。
解釈:全体として、デルゴシチニブクリームはビークルクリームに対して優れた有効性を示し、16週間にわたる忍容性も良好であった。これらの結果は、デルゴシチニブクリームが中等度から重度の慢性手湿疹を有し、基本的なスキンケアや副腎皮質ステロイド外用薬で十分にコントロールできない患者に対する潜在的な治療選択肢として臨床的に有用であることを支持するものである。
資金提供 LEO Pharma社。
引用文献
Efficacy and safety of delgocitinib cream in adults with moderate to severe chronic hand eczema (DELTA 1 and DELTA 2): results from multicentre, randomised, controlled, double-blind, phase 3 trials
Robert Bissonnette et al. PMID: 39033766 DOI: 10.1016/S0140-6736(24)01027-4
Lancet. 2024 Jul 18:S0140-6736(24)01027-4. doi: 10.1016/S0140-6736(24)01027-4. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39033766/
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