認知症高齢者における降圧治療の中止は有益なのか?
観察研究およびランダム化比較試験(RCT)に基づくと、認知症高齢者における降圧治療の有益性と有害性のバランスは不明であり、更なる検証が求められています。
そこで今回は、認知症を有するナーシングホーム入居者において、降圧治療の中止が神経精神症状(NPS)を軽減し、生活の質(QoL)を維持するかどうかを評価することを目的に実施されたランダム化比較試験(DANTON試験)の結果をご紹介します。
本試験は、非盲検、盲検アウトカムRCTでした。ランダム化は1対1で、ナーシングホームの組織とベースラインのNPSによって層別化されました(試験登録:NL7365)。
試験対象者は、中等度から重度の認知症で、降圧治療中の収縮期血圧(SBP)が160mmHg以下のオランダ人長期療養者でした。除外基準は心不全NYHA-class-III/IV、最近の心血管イベント/処置、余命4ヵ月未満などでした(予定サンプルサイズn=492)。
本試験の主要評価項目は16週時点のNPS(Neuropsychiatric Inventory-Nursing Home [NPI-NH])とQoL(Qualidem)でした。
試験結果から明らかになったことは?
2018年11月9日から2021年5月4日まで、205人の参加者(年齢中央値 85.8、IQR 79.6〜89.5歳、女性 79.5%、SBP中央値 134、IQR 123〜146mmHg)が、降圧治療中止(n=101)または通常ケア(n=104)のいずれかにランダムに割り付けられました。
安全性の懸念と有益性の欠如とが相まって、データ安全監視委員会はランダム化の早期中止を勧告しました。
(16週間の追跡調査) | 調整平均差 (95%CI) |
NPI-NH | 調整平均差 1.6 (-2.3〜5.6) P=0.42 |
Qualidem | 調整平均差 -2.5 (-6.0〜1.0) P=0.15 |
16週間の追跡調査では、NPI-NH(調整平均差 1.6、95%CI -2.3〜5.6;P=0.42)またはQualidem クオリデム(調整平均差 -2.5、95%CI -6.0〜1.0;P=0.15)で群間に有意差は認められませんでした。
重篤な有害事象(SAE)は、参加者の36%(中止)と24%(通常ケア)に発生しました(調整ハザード比 1.65、95%CI 0.98〜2.79)。
32週間のアウトカムはすべて通常ケアに有利でした。
コメント
高齢者においても、若年/中年成人と同様に降圧療法が患者転帰を向上させることが報告されています。一方、認知症を有する高齢者における降圧薬の継続/中止による患者転帰への影響については充分に検証されていません。
さて、ランダム化比較試験の途中で、降圧治療中止に関連した有意ではない重篤な有害事象リスクの増加が観察され、関連する中間解析により、降圧治療中止による有意に有益な健康利益は期待できないことが示されました。
したがって、降圧治療の中止について、積極的に推奨することはできません。重篤な有害事象の発生リスクは、有意ではないものの中止群で増加傾向が示されています。心血管関連、非心血管関連の重篤な有害事象、死亡ともに発生数が多く、治療中止の有益性は少ないようです。
とはいえ、まだまだ検証が求められる分野です。再現性の確認と更なる検証が求められます。
続報に期待。
✅まとめ✅ ランダム化比較試験の途中で、降圧治療中止に関連した有意ではない重篤な有害事象リスクの増加が観察され、関連する中間解析により、降圧治療中止による有意に有益な健康利益は期待できないことが示された。
根拠となった試験の抄録
背景:観察研究およびランダム化比較試験(RCT)に基づくと、認知症高齢者における降圧治療の有益性と有害性のバランスは不明である。
目的:認知症を有するナーシングホーム入居者において、降圧治療の中止が神経精神症状(NPS)を軽減し、生活の質(QoL)を維持するかどうかを評価すること。
試験デザイン:非盲検、盲検アウトカムRCT。ランダム化は1対1で、ナーシングホームの組織とベースラインのNPSによって層別化した(試験登録:NL7365)。
試験対象者:中等度から重度の認知症で、降圧治療中の収縮期血圧(SBP)が160mmHg以下のオランダ人長期療養者。除外基準は心不全NYHA-class-III/IV、最近の心血管イベント/処置、余命4ヵ月未満などであった(予定サンプルサイズn=492)。
測定:主要評価項目は16週時点のNPS(Neuropsychiatric Inventory-Nursing Home [NPI-NH])とQoL(Qualidem)。
結果:2018年11月9日から2021年5月4日まで、205人の参加者(年齢中央値 85.8、IQR 79.6〜89.5歳、女性 79.5%、SBP中央値 134、IQR 123〜146mmHg)が、降圧治療中止(n=101)または通常ケア(n=104)のいずれかにランダムに割り付けられた。安全性の懸念と有益性の欠如とが相まって、データ安全監視委員会はランダム化の早期中止を勧告した。16週間の追跡調査では、NPI-NH(調整平均差 1.6、95%CI -2.3〜5.6;P=0.42)またはクオリデム(調整平均差 -2.5、95%CI -6.0〜1.0;P=0.15)で群間に有意差は認められなかった。重篤な有害事象(SAE)は、参加者の36%(中止)と24%(通常ケア)に発生した(調整ハザード比 1.65、95%CI 0.98〜2.79)。32週間のアウトカムはすべて通常ケアに有利であった。
結論:本試験の途中で、降圧治療中止に関連した有意ではない重篤な有害事象リスクの増加が観察され、関連する中間解析により、降圧治療中止による有意に有益な健康利益は期待できないことが示された。この有益性と有害性のバランスの悪さから、このような状況での降圧治療の中止は、認知症高齢者において推奨されるほど安全でも有益でもないようである。
キーワード:降圧治療、認知症、非処方、高血圧、高齢者、無作為化比較試験
引用文献
Effects of the discontinuation of antihypertensive treatment on neuropsychiatric symptoms and quality of life in nursing home residents with dementia (DANTON): a multicentre, open-label, blinded-outcome, randomised controlled trial
Jonathan M K Bogaerts et al. PMID: 38970547 PMCID: PMC11227112 DOI: 10.1093/ageing/afae133
Age Ageing. 2024 Jul 2;53(7):afae133. doi: 10.1093/ageing/afae133.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38970547/
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