患者転帰における収縮期血圧 120mmHg未満 vs. 140mmHg未満
収縮期血圧を120mmHg未満に低下させることが140mmHg未満に低下させることより優れているかどうかについては、特に糖尿病患者や脳卒中の既往を有する患者において不明確です。
そこで今回は、心血管リスクの高い患者における目標血圧値の違いによる転帰への影響について検証した非盲検ランダム化比較試験の結果をご紹介します。
この非盲検ランダム化比較試験では、中国の116の病院または地域から心血管リスクの高い参加者が登録されました。最小ランダム化法を用いて、参加者を標準的な診察室収縮期血圧120mmHg未満を目標とする集中治療群と140mmHg未満を目標とする標準治療群に割り付けられました。
本試験の主要アウトカムは、心筋梗塞、血行再建術、心不全による入院、脳卒中、心血管系の原因による死亡の複合とし、intention-to-treat原則により評価されました。
試験結果から明らかになったことは?
2019年9月17日~2020年7月13日の間に、11,255例(糖尿病 4,359例、脳卒中既往 3,022例)が集中治療(n=5,624)または標準治療(n=5,631)に割り付けられました。平均年齢は64.6歳(SD 7.1)でした。追跡期間中(最初の3ヵ月間の漸増期間を除く)の平均収縮期血圧は、集中治療群で119.1mmHg(SD 11.1)、標準治療群で134.8mmHg(10.5)でした。
集中治療群 | 標準治療群 | ハザード比 HR (95%CI) | |
主要転帰イベント (心筋梗塞、血行再建術、心不全による入院、 脳卒中、心血管系の原因による死亡の複合) | 547例(9.7%) | 623例(11.1%) | HR 0.88 (0.78〜0.99) p=0.028 |
失神の重篤な有害事象 | 24例(0.4%) | 8例(0.1%) | HR 3.00 (1.35〜6.68) |
中央値3.4年の追跡期間中に、主要転帰イベントは集中治療群547例(9.7%)、標準治療群623例(11.1%)で発生しました(ハザード比[HR]0.88、95%CI 0.78〜0.99;p=0.028)。
糖尿病の状態、糖尿病の罹病期間、脳卒中の既往による効果の異質性はみられませんでした。
失神の重篤な有害事象は、標準治療群(5,631例中8例[0.1%])よりも集中治療群(5,624例中24例[0.4%])で多く発生しました(HR 3.00、95%CI 1.35〜6.68)。
重篤な有害事象である低血圧、電解質異常、転倒傷害、急性腎障害については、群間で有意差は認められませんでした。
コメント
降圧治療は脳卒中や心筋梗塞などの心血管イベントのリスクを低減し、患者転帰を向上させることから、より厳格な降圧が求められてきました。しかし、糖尿病患者や脳卒中の既往を有する患者など、よりハイリスクな患者集団における厳格な降圧治療の効果については充分に検証されていません。
さて、非盲検ランダム化比較試験の結果、糖尿病や脳卒中の既往の有無にかかわらず、心血管リスクが高い高血圧患者において、収縮期血圧120mmHg未満を目標とする治療戦略は、140mmHg未満を目標とする治療戦略と比較して、過剰リスクはわずかであるが、主要な血管イベントを予防することが明らかとなりました。重篤な有害事象として、失神のリスクが増加しましたが、低血圧、電解質異常、転倒傷害、急性腎障害については群間で差がありませんでした。
臨床試験では、実臨床よりも厳格なモニタリングや患者教育が行われることから、失神に伴う転倒障害が発生しづらい状況であったと考えられます。本試験結果を実臨床へ応用した場合に、患者モニタリングをどのように行うのか、患者教育も含めたケアが求められます。
続報に期待。
✅まとめ✅ 非盲検ランダム化比較試験の結果、糖尿病や脳卒中の既往の有無にかかわらず、心血管リスクが高い高血圧患者において、収縮期血圧120mmHg未満を目標とする治療戦略は、140mmHg未満を目標とする治療戦略と比較して、過剰リスクはわずかであるが、主要な血管イベントを予防する。
根拠となった試験の抄録
背景:収縮期血圧を120mmHg未満に低下させることが140mmHg未満に低下させることより優れているかどうかについては、特に糖尿病患者や脳卒中の既往のある患者において不明確である。
方法:この非盲検ランダム化比較試験では、中国の116の病院または地域から心血管リスクの高い参加者が登録された。最小ランダム化法を用いて、参加者を標準的な診察室収縮期血圧120mmHg未満を目標とする集中治療群と140mmHg未満を目標とする標準治療群に割り付けた。
主要アウトカムは、心筋梗塞、血行再建術、心不全による入院、脳卒中、心血管系の原因による死亡の複合とし、intention-to-treat原則により評価した。この試験はClinicalTrials.govのNCT04030234に登録された。
所見:2019年9月17日~2020年7月13日の間に、11,255例(糖尿病 4,359例、脳卒中既往 3,022例)が集中治療(n=5,624)または標準治療(n=5,631)に割り付けられた。平均年齢は64.6歳(SD 7.1)であった。追跡期間中(最初の3ヵ月間の漸増期間を除く)の平均収縮期血圧は、集中治療群で119.1mmHg(SD 11.1)、標準治療群で134.8mmHg(10.5)であった。中央値3.4年の追跡期間中に、主要転帰イベントは集中治療群547例(9.7%)、標準治療群623例(11.1%)で発生した(ハザード比[HR]0.88、95%CI 0.78〜0.99;p=0.028)。糖尿病の状態、糖尿病の罹病期間、脳卒中の既往による効果の異質性はみられなかった。失神の重篤な有害事象は、標準治療群(5,631例中8例[0.1%])よりも集中治療群(5,624例中24例[0.4%])で多く発生した(HR 3.00、95%CI 1.35〜6.68)。重篤な有害事象である低血圧、電解質異常、転倒傷害、急性腎障害については、群間で有意差は認められなかった。
解釈:糖尿病や脳卒中の既往の有無にかかわらず、心血管リスクが高い高血圧患者において、収縮期血圧120mmHg未満を目標とする治療戦略は、140mmHg未満を目標とする治療戦略と比較して、過剰リスクはわずかであるが、主要な血管イベントを予防する。
資金提供:中国科学技術部および不破病院。
引用文献
Lowering systolic blood pressure to less than 120 mm Hg versus less than 140 mm Hg in patients with high cardiovascular risk with and without diabetes or previous stroke: an open-label, blinded-outcome, randomised trial
Jiamin Liu et al. PMID: 38945140 DOI: 10.1016/S0140-6736(24)01028-6
Lancet. 2024 Jun 27:S0140-6736(24)01028-6. doi: 10.1016/S0140-6736(24)01028-6. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38945140/
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