セマグルチド処方患者における非動脈炎性前部虚血性視神経症のリスクはどのくらい?(傾向マッチコホート研究; JAMA Ophthalmol. 2024)

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セマグルチド使用と非動脈炎性前部虚血性視神経症NAIONリスクとの関連性は?

非動脈炎性前部虚血性視神経症(nonarteritic anterior ischemic optic neuropathy, NAION)は眼底神経に栄養を届ける動脈が狭くなることで発症します。片眼に突然おこり下半分あるいは上半分が見えなくなることが多いとされていますが、中心部分が見えなくなる場合もあることが報告されています。症状は数ヵ月間で自然に軽くなる場合が報告されていますが、大半は見え方や視力が一定レベルのままが多いとされています。

グルカゴン様ペプチド1受容体作動薬(glucagon-like peptide 1 receptor agonist, GLP-1 RA)として急速に使用量が増加しているセマグルチド使用が、非動脈炎性前部虚血性視神経症(nonarteritic anterior ischemic optic neuropathy, NAION)*と関連している可能性が報告されています。しかし、実臨床における検証は充分ではありません。

そこで今回は、セマグルチドと非動脈炎性前部虚血性視神経症(NAION)リスクとの関連を検討することを目的に実施された傾向マッチコホート研究の結果をご紹介します。

2017年12月1日から2023年11月30日までに1学術機関の神経眼科医により評価された患者の集中データレジストリのデータを用いたレトロスペクティブなマッチドコホート研究において、International Statistical Classification of Diseases and Related Health Problems, Tenth Revision code H47.01(虚血性視神経症)の検索およびテキスト検索により、NAIONの既往歴を有さない患者16,827例が得られました。

傾向マッチングを用いて、2型糖尿病(T2D)または過体重/肥満の患者において、処方されたセマグルチドがNAIONと関連するかどうかについて評価されました。各ケースにおいて、共変量因子(性、年齢、全身性高血圧、T2D、閉塞性睡眠時無呼吸、肥満、高脂血症、冠動脈疾患)およびセマグルチド使用の禁忌が考慮されました。

NAIONの累積発生率は、Kaplan-Meier法および潜在的交絡併存疾患を調整したCox比例ハザード回帰モデルを用いて決定されました。データは2017年12月1日から2023年11月30日まで解析されました。

T2Dまたは体重を管理するためのセマグルチド vs. 非GLP-1 RA薬の処方が比較され、NAIONの累積発生率およびハザード比が算出されました。

試験結果から明らかになったことは?

16,827人の患者のうち、710人がT2Dであり(セマグルチドを処方された194人;非GLP-1 RA抗糖尿病薬を処方された516人;年齢中央値 59[IQR 49〜68]歳;女性369人[52%])、979人が過体重または肥満でした(セマグルチドを処方された361人;非GLP-1 RA減量薬を処方された618人;年齢中央値、47[IQR 32〜59]歳;女性708人[72%])。

(T2Dを有する集団)セマグルチドを処方された患者GLP-1 RA以外の糖尿病治療薬を処方された患者
NAIONイベント数17件6件
36ヵ月間のNAIONの累積発生率(95%CI) 8.9%(4.5%〜13.1%1.8%(0%〜3.5%
ハザード比 HR(95%CI) HR 4.28(1.62〜11.29
P<0.001

T2Dを有する集団では、セマグルチドを処方された患者で17件のNAIONイベントが発生したのに対し、GLP-1 RA以外の糖尿病治療薬を処方された患者では6件でした。36ヵ月間のNAIONの累積発生率は、セマグルチド群8.9%(95%信頼区間 4.5%〜13.1%)、非GLP-1 RA群1.8%(95%信頼区間 0%〜3.5%)でした。Cox比例ハザード回帰モデルでは、セマグルチドを投与された患者でNAIONのリスクが高いことが示されました(ハザード比[HR] 4.28、95%CI 1.62〜11.29;P<0.001)。

(過体重または肥満の患者集団)セマグルチドを処方された患者GLP-1 RA以外の糖尿病治療薬を処方された患者
NAIONイベント数20件3件
36ヵ月間のNAIONの累積発生率(95%CI) 6.7%(3.6%〜9.7%0.8%(0%〜1.8%
ハザード比 HR(95%CI) HR 7.64(2.21〜26.36
P<0.001

過体重または肥満の患者集団では、セマグルチドを処方されたコホートで20件のNAIONイベントが発生したのに対し、非GLP-1 RAコホートでは3件でした。36ヵ月間のNAIONの累積発生率は、セマグルチド群6.7%(95%信頼区間 3.6%〜9.7%)、非GLP-1 RA群0.8%(95%信頼区間 0%〜1.8%)でした。Cox比例ハザード回帰モデルでは、セマグルチドを処方された患者でNAIONのリスクが高いことが示されました(HR 7.64、95%CI 2.21〜26.36;P<0.001)。

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グルカゴン様ペプチド1受容体作動薬(glucagon-like peptide 1 receptor agonist, GLP-1 RA)の使用と、非動脈炎性前部虚血性視神経症(nonarteritic anterior ischemic optic neuropathy, NAION)発症との関連性について報告されています。しかし、実臨床における検証は不充分です。

さて、傾向スコアマッチコホート研究の結果、セマグルチドと非動脈炎性前部虚血性視神経症(NAION)との関連が示唆されました。今回対象となった2型糖尿病(T2D)を有する集団、過体重または肥満の患者集団において、いずれもリスク上昇が認められました。

あくまでも相関関係が示されたに過ぎず、再現性の確認と、前向き研究での検証が求められます。

続報に期待。

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✅まとめ✅ 傾向スコアマッチコホート研究の結果、セマグルチドと非動脈炎性前部虚血性視神経症(NAION)との関連が示唆された。

試験結果から明らかになったことは?

試験の重要性:グルカゴン様ペプチド1受容体作動薬(glucagon-like peptide 1 receptor agonist, GLP-1 RA)として急速に使用量が増加しているセマグルチドが、非動脈炎性前部虚血性視神経症(nonarteritic anterior ischemic optic neuropathy, NAION)*と関連している可能性が、逸話的な経験により提起された。
*NAION:眼の奥(眼底)で光を脳に届ける神経に栄養を届ける動脈が狭くなることで発症する。起床時に気がつくことが多い。片眼に突然おこり下半分あるいは上半分が見えなくなることが多いが、中心部分が見えなくなる場合もある。両目に発症することも報告されている。数ヵ月間で自然に症状が軽くなる場合もあるが、大半は見え方や視力が一定レベルのままが多い。

目的:セマグルチドと非動脈炎性前部虚血性視神経症(NAION)リスクとの関連を検討すること。

試験デザイン、設定、参加者:2017年12月1日から2023年11月30日までに1学術機関の神経眼科医により評価された患者の集中データレジストリのデータを用いたレトロスペクティブなマッチドコホート研究において、International Statistical Classification of Diseases and Related Health Problems, Tenth Revision code H47.01(虚血性視神経症)の検索およびテキスト検索により、NAIONの既往歴を有さない患者16,827例が得られた。傾向マッチングを用いて、2型糖尿病(T2D)または過体重/肥満の患者において、処方されたセマグルチドがNAIONと関連するかどうかを評価した。各ケースにおいて、共変量因子(性、年齢、全身性高血圧、T2D、閉塞性睡眠時無呼吸、肥満、高脂血症、冠動脈疾患)およびセマグルチド使用の禁忌を考慮した。NAIONの累積発生率は、Kaplan-Meier法および潜在的交絡併存疾患を調整したCox比例ハザード回帰モデルを用いて決定した。データは2017年12月1日から2023年11月30日まで解析した。

曝露:T2Dまたは体重を管理するためのセマグルチド vs. 非GLP-1 RA薬の処方。

主要アウトカムと指標:NAIONの累積発生率およびハザード比

結果:16,827人の患者のうち、710人がT2Dであり(セマグルチドを処方された194人;非GLP-1 RA抗糖尿病薬を処方された516人;年齢中央値 59[IQR 49〜68]歳;女性369人[52%])、979人が過体重または肥満であった(セマグルチドを処方された361人;非GLP-1 RA減量薬を処方された618人;年齢中央値、47[IQR 32〜59]歳;女性708人[72%])。
T2Dを有する集団では、セマグルチドを処方された患者で17件のNAIONイベントが発生したのに対し、GLP-1 RA以外の糖尿病治療薬を処方された集団では6件であった。36ヵ月間のNAIONの累積発生率は、セマグルチド群8.9%(95%信頼区間 4.5%〜13.1%)、非GLP-1 RA群1.8%(95%信頼区間 0%〜3.5%)であった。Cox比例ハザード回帰モデルでは、セマグルチドを投与された患者でNAIONのリスクが高いことが示された(ハザード比[HR] 4.28、95%CI 1.62〜11.29;P<0.001)。過体重または肥満の患者集団では、セマグルチドを処方されたコホートで20件のNAIONイベントが発生したのに対し、非GLP-1 RAコホートでは3件であった。36ヵ月間のNAIONの累積発生率は、セマグルチド群6.7%(95%信頼区間 3.6%〜9.7%)、非GLP-1 RA群0.8%(95%信頼区間 0%〜1.8%)であった。Cox比例ハザード回帰モデルでは、セマグルチドを処方された患者でNAIONのリスクが高いことが示された(HR 7.64、95%CI 2.21〜26.36;P<0.001)。

結論と関連性:本研究の結果は、セマグルチドとNAIONとの関連を示唆するものである。本研究は観察研究であるため、因果関係を評価するためには今後の研究が必要である。

引用文献

Risk of Nonarteritic Anterior Ischemic Optic Neuropathy in Patients Prescribed Semaglutide
Jimena Tatiana Hathaway et al. PMID: 38958939 PMCID: PMC11223051 (available on 2025-07-03) DOI: 10.1001/jamaophthalmol.2024.2296
JAMA Ophthalmol. 2024 Jul 3:e242296. doi: 10.1001/jamaophthalmol.2024.2296. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38958939/

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