eGFR 30mL/min/1.73m2未満でもMR拮抗薬は継続した方が良いのか?
心不全(HF)の基本的な治療薬として、β遮断薬、ACE阻害薬/ARB、そしてミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MR拮抗薬、MRA)が使用されていますが、腎機能障害の併存は、しばしば救命のためのHF治療の開始や継続を躊躇させます。
そこで今回は、著しい腎機能障害を有する駆出率低下型心不全(HFrEF)患者におけるMRA療法の有効性と安全性を検討した試験の結果をご紹介します。
本試験では、RALES(Randomized Aldactone Evaluation Study)試験およびEMPHASIS-HF(Eplerenone in Mild Patients Hospitalization and Survival Study in Heart Failure)試験の個々の患者データがプールされました。
MRA治療と転帰との関連は、推定糸球体濾過量(eGFR)が30mL/分/1.73m2未満に低下したか否かで評価されました。
本試験の主要アウトカムは心血管死またはHF入院でした。
試験結果から明らかになったことは?
対象となった4,355例のうち、ランダム化後にeGFRが30mL/分/1.73m2未満に悪化した患者は295例(6.8%)でした。
ハザード比 HR (95%CI) eGFRが30mL/分/1.73m2未満に悪化した患者 vs. 悪化しなかった患者 | |
主要転帰(心血管死またはHF入院) | HR 2.49 (2.01〜3.08) P<0.001 |
これらの患者はベースラインの心機能および腎機能がより低下しており(eGFR 47.3±13.4 vs. 70.5±21.8 mL/min/1.73m2)、eGFR悪化のない患者よりも主要転帰(心血管死またはHF入院)のリスクが高いことが示されました(HR 2.49、95%CI 2.01〜3.08;P<0.001)。
eGFRが30mL/分/1.73m2未満に低下した患者 | 低下しなかった患者 | |
MRA療法による主要転帰のリスク低下 | HR 0.65 (95%CI 0.43〜0.99) 交互作用P=0.87 | HR 0.63 (95%CI 0.56〜0.71) |
しかし、MRA療法による主要転帰のリスク低下は、eGFRが30mL/分/1.73m2未満に低下した患者(HR 0.65、95%CI 0.43〜0.99)では、低下しなかった患者(HR 0.63、95%CI 0.56〜0.71)と比較して同程度でした(交互作用P=0.87)。
eGFRが30mL/min/1.73m2未満に低下した患者では、MRA治療により主要転帰を経験した患者(100人・年当たり)はプラセボと比較して21人少なく、重度の高カリウム血症(>6.0mmol/L)を経験した患者は3人多いことが示されました。
コメント
著しい腎機能障害を有する駆出率低下型心不全(HFrEF)患者におけるMRA療法の有効性と安全性の検証は充分に行われていません。
さて、RCT 2件の併合解析の結果、特にeGFRが30mL/分/1.73m2未満に低下した患者は心血管死またはHF入院リスクが非常に高いことが示されました。ただし、心血管死とHF入院、どちらの寄与度が大きいのかは抄録から読み取れませんでした。また、MRA療法によるリスク低減効果は、eGFRが30mL/分/1.73m2未満に低下した患者と、低下しなかった患者とで差がありませんでした。腎機能(eGFR)低下を理由にMR拮抗薬を中止する意義はないのかもしれません。
今回の解析に用いられたのは、ランダム化比較試験2件(4,355例)であり、このうちランダム化後にeGFRが30mL/分/1.73m2未満に悪化した患者は295例(6.8%)でした。対象の規模から結果の一般化可能性には限界があるため、更なる検証が求められます。
続報に期待。
✅まとめ✅ RCT 2件の併合解析の結果、特にeGFRが30mL/分/1.73m2未満に低下した患者は非常にリスクが高いため、これらの患者におけるMR拮抗薬による絶対的なリスク低下が大きいことが示された。このeGFRの低下を理由にMR拮抗薬による治療を中止すべきではない。
根拠となった試験の抄録
背景:腎機能障害はしばしば救命のための心不全(HF)治療の開始や継続を躊躇させる。
目的:本研究では、著しい腎機能障害を有する駆出率低下型心不全患者におけるミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)の有効性と安全性を検討した。
方法:RALES(Randomized Aldactone Evaluation Study)試験およびEMPHASIS-HF(Eplerenone in Mild Patients Hospitalization and Survival Study in Heart Failure)試験の個々の患者データをプールした。MRA治療と転帰との関連は、推定糸球体濾過量(eGFR)が30mL/分/1.73m2未満に低下したか否かで評価した。
主要アウトカムは心血管死またはHF入院であった。
結果:対象となった4,355例のうち、ランダム化後にeGFRが30mL/分/1.73m2未満に悪化した患者は295例(6.8%)であった。これらの患者はベースラインの心機能および腎機能がより低下しており(eGFR 47.3±13.4 vs. 70.5±21.8 mL/min/1.73m2)、eGFR悪化のない患者よりも主要転帰(心血管死またはHF入院)のリスクが高かった(HR 2.49、95%CI 2.01〜3.08;P<0.001)。しかし、MRA療法による主要転帰のリスク低下は、eGFRが30mL/分/1.73m2未満に低下した患者(HR 0.65、95%CI 0.43〜0.99)では、低下しなかった患者(HR 0.63、95%CI 0.56〜0.71)と比較して同程度であった(交互作用P=0.87)。eGFRが30mL/min/1.73m2未満に低下した患者では、MRA治療により主要転帰を経験した患者(100人・年当たり)はプラセボと比較して21人少なかったが、重度の高カリウム血症(>6.0mmol/L)を経験した患者は3人多かった。
結論:eGFRが30mL/分/1.73m2未満に低下した患者は非常にリスクが高いため、これらの患者におけるMRAによる絶対的なリスク低下は大きく、このeGFRの低下が自動的に治療中止につながるべきではない。
キーワード:急性腎障害、慢性腎臓病、エプレレノン、駆出率低下心不全、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬、スピロノラクトン
引用文献
Mineralocorticoid Receptor Antagonists in Patients With Heart Failure and Impaired Renal Function
Shingo Matsumoto et al. PMID: 38739064 DOI: 10.1016/j.jacc.2024.03.426
J Am Coll Cardiol. 2024 May 6:S0735-1097(24)06945-6. doi: 10.1016/j.jacc.2024.03.426. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38739064/
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