GLP-1RAには血圧低下作用もある?
グルカゴン様ペプチド-1受容体作動薬(GLP-1RA)がもたらす心血管ベネフィットは、体重減少や血糖コントロールにとどまりません。その機序の一つとして血圧降下が考えられますが、実臨床における検証は充分ではありません。
そこで今回は、GLP1-RAの血圧降下作用を定量化することを目的としたメタ解析の結果をご紹介します。
GLP-1RA治療に関するプラセボ対照ランダム化比較試験が2023年12月まで包括的にデータベース検索されました。データの抽出と質の評価が行われ、ランダム効果モデルを用いたロバストな統計解析が採用され、mmHg単位の平均差(mean difference, MD)と95%信頼区間(CI)でアウトカムが決定されました。
本解析の主要エンドポイントは収縮期血圧(SBP)、拡張期血圧のそれぞれの平均差でした。共変量を考慮するためにサブグループ解析とメタ回帰が行われました。
試験結果から明らかになったことは?
収縮期血圧(SBP)の平均差 vs. プラセボ | |
セマグルチド | MD -3.40(95%CI -4.22 ~ -2.59) p<0.001 |
リラグルチド | MD -2.61(95%CI -3.48 ~ -1.74) p<0.001 |
デュラグルチド | MD -1.46(95%CI -2.20 〜 -0.72) p<0.001 |
エキセナチド | MD -3.36(95%CI -3.63 ~ -3.10) p<0.001 |
プラセボと比較して、GLP-1RAはSBPを緩やかに低下させました[セマグルチド: MD -3.40(95%CI -4.22 ~ -2.59、p<0.001);リラグルチド:MD -2.61(95%CI -3.48 ~ -1.74、p<0.001);デュラグルチド: MD -1.46(95%CI -2.20 〜 -0.72、p<0.001);およびエキセナチド: MD -3.36(95%CI -3.63 ~ -3.10、p<0.001)]。
このベネフィットは治療期間が長くなるにつれて一貫して増加しました。
拡張期血圧の低下はエキセナチド群でのみ有意でした[MD -0.94(95%CI -1.78 ~ -0.1)、p=0.03]。
セマグルチドコホートにおいて、糖化ヘモグロビンの平均変化および肥満度の平均変化はSBP低下と直接関連していました。
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グルカゴン様ペプチド-1受容体作動薬(GLP-1RA)による心血管ベネフィットについて、その機序の一つとして血圧降下が考えられています。しかし、実臨床における検証は充分ではありません。
さて、ランダム化比較試験のメタ解析の結果、GLP-1RA投与群では、プラセボ投与群と比較して緩やかな収縮期血圧(SBP)低下が認められました。この観察された効果は、体重/体格指数の減少およびより良好な血糖コントロールと関連していたことから、血圧低下はGLP-1RAの間接的な効果であり、ベネフィットの原因(主要因)とは考えにくいことが示唆されました。
これまでの報告から、SBP値の低下が大きければ大きいほど、心血管イベントの発症リスクが低減することが知られています。今回のメタ解析で認められたSBP低下は、プラセボとの平均差で1.5〜3.4程度です。この低下幅は小さく、本論文の結論にもあるように、ベネフィットの原因(主要因)となるほどの影響度はほぼないと考えられます。したがって、体重減少や血糖コントロールによる影響度の方が血圧低下よりも大きく、また他にも交絡因子が残存している可能性が示唆されたものと考えられます。
多面的な作用を有している薬剤ではありますが、まだまだ明らかになっていない機序があるようです。
続報に期待。
✅まとめ✅ ランダム化比較試験のメタ解析の結果、GLP-1RA投与群では、プラセボ投与群と比較して緩やかなSBP低下が認められた。この観察された効果は、体重/体格指数の減少およびより良好な血糖コントロールと関連していたことから、血圧低下はGLP-1RAの間接的な効果であり、ベネフィットの原因とは考えにくいことが示唆された。
根拠となった試験の抄録
目的:グルカゴン様ペプチド-1受容体作動薬(GLP-1RA)がもたらす心血管ベネフィットは、体重減少や血糖コントロールにとどまらない。その機序の一つとして血圧降下が考えられる。我々はGLP1-RAの血圧降下作用を定量化することを目的とする。
方法:GLP-1RA治療に関するプラセボ対照ランダム化比較試験を2023年12月まで包括的にデータベース検索した。データの抽出と質の評価を行い、ランダム効果モデルを用いたロバストな統計解析を採用し、mmHg単位の平均差(mean difference, MD)と95%信頼区間(CI)でアウトカムを決定した。
主要エンドポイントは収縮期血圧(SBP)と拡張期血圧の平均差とした。共変量を考慮するためにサブグループ解析とメタ回帰を行った。
結果:プラセボと比較して、GLP-1RAはSBPを緩やかに低下させた[セマグルチド: MD -3.40(95%CI -4.22 ~ -2.59、p<0.001);リラグルチド:MD -2.61(95%CI -3.48 ~ -1.74、p<0.001);デュラグルチド: MD -1.46(95%CI -2.20 〜 -0.72、p<0.001);およびエキセナチド: MD -3.36(95%CI -3.63 ~ -3.10、p<0.001)]。このベネフィットは治療期間が長くなるにつれて一貫して増加した。拡張期血圧の低下はエキセナチド群でのみ有意であった[MD -0.94(95%CI -1.78 ~ -0.1)、p=0.03]。セマグルチドコホートにおいて、糖化ヘモグロビンの平均変化および肥満度の平均変化はSBP低下と直接関連していた。
結論:GLP-1RA投与群では、プラセボ投与群と比較して緩やかなSBP低下が認められた。この観察された効果は、体重/体格指数の減少およびより良好な血糖コントロールと関連していたことから、血圧低下はGLP-1RAの間接的な効果であり、ベネフィットの原因とは考えにくいことが示唆された。
キーワード:血圧、デュラグルチド、エキセナチド、グルカゴン様ペプチド-1受容体作動薬、リラグルチド、セマグルチド
引用文献
Glucagon-like peptide-1 receptor agonists modestly reduced blood pressure among patients with and without diabetes mellitus: A meta-analysis and meta-regression
Frederick Berro Rivera et al. PMID: 38505997 DOI: 10.1111/dom.15529
Diabetes Obes Metab. 2024 Jun;26(6):2209-2228. doi: 10.1111/dom.15529. Epub 2024 Mar 20.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38505997/
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