ディープラーニングにより胸部X線写真から心血管リスクを評価できるのか?
動脈硬化性心血管病(ASCVD)の一次予防に関するガイドラインでは、主要有害心血管イベント(MACE)の10年リスクを推定するためのリスク推定として、ASCVDリスクスコアが推奨されています。
近年、AI、特にディープラーニングによる将来のリスク推定に注目が集まっており、様々な分野で活用されています。一方、必要なインプット(大量のデータによるAI学習)が欠落していることが多いため、臨機応変なリスク評価のための補完的アプローチが望ましいとされています。
そこで今回は、ルーチンの胸部X線写真(CXR)からMACEの10年リスクを推定するディープラーニングモデル(CXR CVD-Risk)を開発し、その性能を従来のASCVDリスクスコアと比較することで、スタチンの適格性に示唆を与えることを目的に実施されたリスク予測研究の結果をご紹介します。
本研究では、心血管一次予防の対象となりうる外来患者が対象となりました。
CXR CVDリスクモデルはがんスクリーニング試験のデータを用いて開発されました。ASCVDリスクスコアを算出するためのインプットが欠落していたためASCVDリスクが不明であった外来患者8,869例と、ASCVDリスクスコアが算出可能であったリスク既知の外来患者2,132例を対象に外部検証が行われました。
本研究のアウトカムは、CXR CVD-RiskとASCVDリスクスコアにより予測された10年MACEでした。
試験結果から明らかになったことは?
10年MACEリスク | 調整後ハザード比 HR (95%CI) |
ASCVDリスクが不明であった外来患者8,869例を対象 | 調整後HR 1.73(1.47~2.03) |
上記にASCVDリスクが既知の外来患者2,132例を追加 | 調整後HR 1.88(1.24~2.85) |
ASCVDリスクが不明であった外来患者8,869例において、CXR CVD-Riskで予測されたリスクが7.5%以上の患者では、リスク因子調整後の10年MACEリスクが高いことが示されました(調整後ハザード比[HR]1.73、95%CI 1.47~2.03)。
ASCVDリスクが既知の外来患者2,132例を追加すると、CXR CVD-Riskは従来のASCVDリスクスコアを超えてMACEを予測しました(調整後HR 1.88、CI 1.24~2.85)。
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様々な分野でAIが活用されており、医療業界においては診断補助への応用が盛んに行われています。しかし、充分に検証されているものは限られています。
さて、リスク予測研究の結果、1回の胸部X線写真(CXR)に基づき、CXR CVD-Riskは臨床標準を超える10年MACEを予測し、データが欠落しているためにASCVDリスクスコアが算出できない高リスクの個人の同定に役立つ可能性があることが示されました。ただし、まだまだ発展途上の領域であり、再現性の確認や精度向上が求められます。そのためには、より膨大なデータを用いたAI学習、AI診断の精度判定のための性能評価が求められます。
続報に期待。
✅まとめ✅ リスク予測研究の結果、1回の胸部X線写真(CXR)に基づき、CXR CVD-Riskは臨床標準を超える10年MACEを予測し、データが欠落しているためにASCVDリスクスコアが算出できない高リスクの個人の同定に役立つ可能性がある。
根拠となった試験の抄録
背景:動脈硬化性心血管病(ASCVD)の一次予防に関するガイドラインでは、主要有害心血管イベント(MACE)の10年リスクを推定するためのリスクカリキュレータ(ASCVDリスクスコア)が推奨されている。必要なインプットが欠落していることが多いため、日和見的リスク評価のための補完的アプローチが望ましい。
目的:ルーチンの胸部X線写真(CXR)からMACEの10年リスクを推定するディープラーニングモデル(CXR CVD-Risk)を開発し、その性能を従来のASCVDリスクスコアと比較することで、スタチンの適格性に示唆を与える。
試験デザイン:リスク予測研究
試験設定: 心血管一次予防の対象となりうる外来患者。
試験参加者:CXR CVDリスクモデルはがんスクリーニング試験のデータを用いて開発された。ASCVDリスクスコアを算出するためのインプットが欠落していたためASCVDリスクが不明であった外来患者8,869例と、ASCVDリスクスコアが算出可能であったリスク既知の外来患者2,132例を対象に外部検証を行った。
測定:CXR CVD-RiskとASCVDリスクスコアにより予測された10年MACE。
結果:ASCVDリスクが不明であった外来患者8,869例において、CXR CVD-Riskで予測されたリスクが7.5%以上の患者では、リスク因子調整後の10年MACEリスクが高かった(調整後ハザード比[HR]1.73、95%CI 1.47~2.03)。ASCVDリスクが既知の外来患者2,132例を追加すると、CXR CVD-Riskは従来のASCVDリスクスコアを超えてMACEを予測した(調整後HR 1.88、CI 1.24~2.85)。
限界:電子カルテを用いた後ろ向き研究デザイン。
結論:1回のCXRに基づき、CXR CVD-Riskは臨床標準を超える10年MACEを予測し、データが欠落しているためにASCVDリスクスコアが算出できない高リスクの個人の同定に役立つ可能性がある。
主な資金源:該当なし。
引用文献
Deep Learning to Estimate Cardiovascular Risk From Chest Radiographs : A Risk Prediction Study
Jakob Weiss et al. PMID: 38527287 DOI: 10.7326/M23-1898
Ann Intern Med. 2024 Mar 26. doi: 10.7326/M23-1898. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38527287/
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